第22話 戦いの果てに

 笑顔で戦い続けるマイアとそれを支え続けるケラエノのコンビは、とても息が合っているように見えた。

 おそらく、ダメな姉のサポート役ということで意気投合しているのだろう。

 まるで、日々の憂さ晴らしをするかのように楽しそうに戦うのだった。


「おっと、ボクも加勢しなきゃ」

 いくら楽しそうだとしても、ボクがぼーっとしていていい話ではない。

 そんなわけでさっそく近くの一体に挑むことにする。


「そういえば、初見では胞子攻撃で痛い思いをさせられたけど、予備動作が分かればこれほど避けやすいものもないよね」

 あの痛い爆発黒胞子の発射動作は、傘を対象に向けてから振り出すという行動で先読みすることが出来る。

 おそらくマタンガ用の遠距離武器、もしくはサブ武器かな何かのだろう。

 近くにいるときは格闘がメインなので、キノコから生えた腕がボク達を襲うのみである。


「そこっ!」

 一瞬で距離を詰め飛び込んでくる素早いキノコ達をなんとか見切ってかわし、側面から鉄扇で攻撃する。

 地道なダメージの蓄積ではあるが、鈍ったところで鉄扇で突き刺すか刀で切り裂くかのどちらかで止めを刺すようにしている。

 

「一瞬で見切る瞬間は楽しいけど、ドキドキして気持ち悪くなりそう」

 妙な興奮状態にあるせいか、少々過呼吸気味になるのはボクの弱さが原因だろう。

 たまに気持ち悪くなる。


 幾度目かの大きなマタンガの徒手空拳をかわし、その胴体に閉じた鉄扇をたたき込んだ。


「はぁはぁ、さすがにちょっと疲れたよ……」

 大きなマタンガを倒すことには成功したものの、やはり体力の低さが足を引っ張っていた。


「お姉ちゃん、大丈夫!?」

 先ほどまで楽しそうにハンマーを振っていた丈夫な妹は、ボクの側に駆け寄ると回復術をかけてくれた。


「ありがとう、マイア。元々体力が低いせいかだんだんと厳しくなってきたよ……」

 すでに全員合わせて十五体以上のマタンガを倒しているボク達だ。

 人海戦術ならぬキノコ海戦術による波状攻撃に、徐々に疲労とダメージが蓄積されていった。


「はぁ~。疲れた……。多すぎでしょ、マタンガ」

 近くに寄って来たエレクトラは、刀を納刀すると側に腰を下ろした。


「あれ? 終わったの?」

 エレクトラが来たということは、全滅させたということだろうか?


「うん、なんとかね。あ~もう、キノコ見たくないよ~」

「その意見には同意だね。ボクも椎茸のような形はしばらく見たくないかも……」

 マタンガの形は椎茸にとてもよく似ているのだ。


「お疲れさま、どうやら落ち着いたみたいね」

 涼しい顔をしたケラエノがそう言いながら近寄ってくる。

 そしておもむろにボクの側に座ると、ボクの身体を倒して自分の膝に載せたのだった。


「うわっ、びっくりした。柔らかくて気持ちいいけど、どうしたの?」

 急な行動にボクはびっくりして、耳をピンと立たせてしまった。


「ちょっとスピカを愛でて癒されようかと思って」

 ボクを見ながら柔らかな笑顔でそういうケラエノ。

 普段は見ない珍しい顔に、ボクは少々面食らってしまった。


「よくわからないけど、癒されるなら良かったよ」

 今日のケラエノは随分と積極的な気がする。

 ついでに、耳を撫でつつ頭を撫でてくるので、思わず背中がゾクゾクしてしまった。


「み、耳はだめだってば……」

 ボクの抗議の声は届かないようで、ただ優しく丁寧に撫で続けるのだった。


「はぁ、お姉ちゃんの尻尾はモフモフして気持ちいいなぁ」

 ケラエノに気を取られていると、マイアに尻尾を抱きかかえられてしまった。

 マイアはボクの尻尾を抱きかかえるのが大好きなようで、まるで抱き枕のように頬ずりするのだった。


「もう……」

 こうなっては仕方ない。

 ボクは姉として受け入れてあげようと心に決めた。


「仲がよろしいようで何よりですな」

 突如、年配の男性の声が響いてきた。

 一体どこから!?


「誰!?」

 ボクが鋭く声を飛ばすと、前方の景色が揺らぎ始めた。


「これはこれは、大変失礼を致しました。私はこの先にある精霊の郷の代表をしております、『ゴルド』と申すものです」

 ゴルドと名乗った人物は、前方の揺らぎの中から現れた。

 身長は160cmくらいありそうで、中肉中背の白髪の初老の男性だった。


「試練に打ち勝った異世界の旅人、それも神種の方々。歓迎いたします。ようこそ精霊の郷へ」

 呆気にとられているボク達にかまわず、ゴルドさんはそう告げた。

 そして、前方の森の景色が揺らぐと、その先に木で作られた家が立ち並ぶ集落が出現していたのだ。


「これが、マタンガの集落……?」

 ボクはアーク兄の言葉を思い出していた。

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