第21話 マタンガ達との戦い。そして振り下ろされるハンマー
襲い掛かってくるマタンガの数は大体二十体ほどだろう。
周囲にいた数だけ見ればそのくらいだと推測出来た。
「来たよ、来た来た! うじゃうじゃいるね~」
楽しそうにエレクトラがそう言う。
「遊んでないで行くよ! あぁ、マタンガ速いなぁ……」
ボクはここぞとばかりに刀を抜こうとしたが、相手の速度の方が早く抜くことは出来なかった。
最近いつも抜けていない気がするんですが……。
「まったく、遅いな~スピカちゃんは」
ニヤニヤしながらエレクトラがそう言うと、ボクに迫っていたマタンガを斬り捨てる。
「ちょっと! 何でそんなに踏み込み速いのさ!」
一瞬消えるようにして相手を斬り捨てていくエレクトラ。
おかしいな、ボクよりレベル低いはずなんだけど……。
「ふふん、実はさっき9レベルまで上がりまして、【踏み込み加速】ってのを覚えました! ドヤァ」
ドヤ顔でそう言うエレクトラに少しイラッとしつつも、ボクは不思議に思っていた。
縮地とかそういうものならなんとなくわかるけど、一瞬消えたように見えたのはなんなんだろう?
【踏み込み加速】だけでそんな風になれるんだろうか?
「ねぇ、さっき一瞬消えたように見えたけど?」
ボクは迫ってくるマタンガを鉄扇でいなしつつ、エレクトラに尋ねる。
「あぁ、それ? 【陽炎】って技を組み合わせてるんだよね」
なんでもないようにそう言うエレクトラ。
どうやら陽炎のように認識しづらくさせる効果があるようだ。
一瞬消えたように見えたのは、単純に目の錯覚だったらしい。
「そんなわけで、本当に瞬間移動してる訳じゃないんだよ。ちょっとだけ早く懐に飛び込むんだよ。死角も利用してね」
普段お馬鹿そうなエレクトラが、戦闘中にそんなことを考えていたとは驚きだった。
ボクが馬鹿にしすぎなだけなのかな。
「はぁ、羨ましい」
ボクはそう言いながら、迫ってきた小さなマタンガの正面に鉄扇を突き出し、勢いのまま貫通させた。
「ねぇ、その鉄扇って強いの? なんだか攻防一体って感じでかっこいいんだけど」
エレクトラがボクの方をちらっと見ながらそう口にした。
ボクの使う鉄扇は、攻撃をいなす時は扇を広げ、打撃を与えるときは閉じて突く。
また、重い攻撃の時は閉じたまま側面に沿って受け流させ、隙を突いて相手に突き刺すなどといった攻撃が出来る。
まさに攻防一体の武器だ。
ただし、攻撃力や殺傷力は刀などに比べれば極端に落ちるので、過信してはいけない。
あくまでも至近距離用の予備武器なのだ。
「ん~、鉄扇術はね、お婆ちゃんから習ったんだよね」
ちなみにこのスキル、ゲームスキルにも反映されているらしく、ランクが存在する。
ただ、武蔵国の弁慶さんからも覚えられないことを考えると、武蔵国に直接行くか、知ってる人に教えてもらわなければ覚えられないのかもしれない。
ボクはお婆ちゃんに教えてもらったので、ある意味ズルだと思う。
これってゲーム的に良くないよね?
「へぇ~。スピカのお婆様って言うと、ココノツ様かぁ。あの豊満なバスト素晴らしいよねぇ」
エレクトラは何を思ったのかそんなことを言いだした。
今は身体の話してないよね!?
「ちょっと二人とも、のんびり戦ってないでこっち手伝ってよ。もう二人で五体も倒したなら援護に回れるでしょ?」
集団で襲い掛かってくると言っても、囲める数には限りがあるので、待ちぼうけになるマタンガも何体か存在する。
ボク達は斬り捨てるか、いなすかわす打ち砕くのどれかで戦っているため、常に囲まれるという事態は起こらなかった。
正面から来ればかわし、後ろから来れば受けていなすなど、体側だけは常にフリーの状態を作っているのだ。
そうは言っても、妖狐状態じゃなかったらボクはあっという間に囲まれているだろう。
今は能力が上がっているので出来ている行動だ。
それに、強化もかかってるしね?
「了解、すぐ行くよ」
ボクはケラエノの要請に応えて、すぐに応援に向かった。
「てりゃああ!」
威勢のいい声が響くと、鈍い音が遅れてやってくる。
原因はマタンガを叩いて回るハンマー少女、マイアだ。
相手を一時的に遅くさせ、その時にハンマーで叩き潰すという恐ろしい戦法でマイアとケラエノは一緒に戦っていた。
なお、強化と妨害の役目はケラエノで、攻撃担当兼回復担当はマイアのようだ。
「ふぅ。今日もハンマーが軽い軽い」
「そうね、軽快なハンマー捌きだったわね」
二人は健闘を称えあい、お互いに労っていた。
その異様な光景は、周囲のマタンガの脚を鈍らせるのにも一役買っていた。
正直粉砕されるところに飛び込む気がしないよね……。
「あはは……、二人とも怖い」
「うん、あの笑顔とハンマーについたキノコの破片が怖い……」
ボクとエレクトラはお互いに恐怖していた。
そんなことは知らない二人は、笑顔でまた一体のマタンガを叩き潰していた。
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