第18話 双子の名前、そしてマタンガ集落へ

 美影達とたくさん遊んだ翌日、ボクはログイン前にミナと相談していた。


「ねぇミナ。美影達のゲーム内ネームを変更したいんだけど、良い名前ないかな?」

 ボクがそう問いかけると、きょとんとした顔をしながら問い返してきた。


「変な質問するよね? どんな名前にしたの?」

 こんなことを聞くミナだけど、昨日はログインしていなかった。

 なんでも泳ぎに行くイベントや夏祭りの予定を考えていたんだとか。


「リアルネームそのまま」

 ボクがそう言うと、ミナは明らかに怪訝な顔をした。


「そっかぁ~。二人ともそこまでお嬢様だったかぁ……」

 どうやら二人は思ったよりも世間知らずだったようだ。

 ミナが不思議に思うのも仕方ない。


「今日日の小学生だってネット使う時はリアルネーム避けてるのに、二人とも世間知らずだよねぇ。う~ん。ならさ『エレクトラ』をみかげちゃんに、『ケラエノ』をみずきちゃんに付けてあげなよ。そうすれば私にも利点があるからさ」

 ミナはあっという間に名前を出してくれた。

 そんなわけで美影には『エレクトラ』を、瑞樹には『ケラエノ』を付けてあげようと思う。


「で、その名前のを付けた真意は?」

 ボクはミナの言う利点が気になった。


「その名前を付けると、自動的に私が『姉』になるからだよ?」

 ミナは嬉しそうにそう言うが、ボクはさっぱりわからなかった。

 たぶんミナの中では、名前の順位が存在しているのだろう。

 そうボクが思いかけていたとき、ふとあることを思い出した。


「あれ? エレクトラって……」

 そう言えば、前にエレクトラって名前付けないのか聞いたことがあったのだ。

 あれはたしか――。


「思い出しちゃった? そうだよ。エレクトラは保存しておいたんだけど、みかげちゃんにちょうどいいかなと思ってね。私より年上だけど実質妹的なものだし、なら『マイア』の妹の『エレクトラ』と『ケラエノ』は使ってもらうのにちょうどいいかな~って」

 そう言ってちょっとだけ悪い顔をするミナ。

 一見懐いているだけのように見える美影達とミナの関係だが、なんだかんだ言って事態を動かしているのはミナだったりする。

 そう、ミナは可愛い顔をした策士なのだ。

 この小学生、恐ろしい!!


「お姉ちゃん、何変な顔してるの? ほら、さっそくログインしてマタンガ狩りに行こう」

 固まっているボクをミナが突っついてくると、そう促してきた。

 どうやら今日は一緒に遊べるようだ。


「は~い」

 素直に返事をしたボクだけど、部屋に戻る時に違和感に気が付いた。


「これじゃどっちが妹だかわからない!?」

 すっかり妹に主導権を奪われていいように扱われている姉の図が出来上がっていたのだ。

 ボクはその事実に気が付くと、少しだけへこんだ。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「ご主人様、お帰りなさいませ」

 ボクがログインすると、メイド服を着た美女がいた。

 人型変形したスライムのミアだ。


「あれ? 今日は人型なんだ?」

 ミアはいつもはスライム状というか、アメーバのような粘性生物の身体で過ごすことが多い。

 錬金術する時の取り込みが楽なのだとか。


「はい、今日は店番とかのお手伝いを頼まれておりまして。またご主人様達と冒険に出掛けたいです」

 どうやら今日もミアは仕事が山盛りあるようだ。

 仕事の出来る女(スライム)であるミアは、マーサ魔道具店では結構重宝されていた。

 仕事はやるけど私生活は適当なフィルの面倒を見たり、マーサさんの代わりに店番をしたりとなくてはならない存在となっていた。


「フィル様ももう少しビシッとしていただければいいのですが、研究に没頭すると眠る時も着の身着のままであったり、脱ぎ散らかしてしまったりと、女性らしさが足りない時があります。少し困ったものです」

 スライムに説教されるフィルさんを想像し、ボクは少し笑いそうになった。


「へぇ~、でも居場所があるってのはいいことだよね!」

 スライムだと知った時の驚いた二人も面白かったけど、有用だと思うや否やすぐに取り込む素早さには脱帽するしかなかった。


「私はご主人様の僕ですので、ご主人様が拠点を移す時が来たら一緒に行かねばなりません。でも、フィル様は着いてきそうですけどね」

 テイムというけど、実質契約のような関係らしいボク達。

 ミアはどこまでもボク達に着いてくるんだろうな。


「ご主人様は本日は?」

 ミアがボクの予定について尋ねてくる。


「えっと、友達とマタンガ狩りかな。あの奥にマタンガの集落があるらしいんだけど」

「マタンガですか……。なるほど」

 ボクがそう言うと、ミアは少し考え込む。


「ある程度マタンガが倒せるようになってきましたら、私を連れてその集落へ向かってください。異世界人と精霊種ならあの集落に入れますから」

 ミアはマタンガの集落について何か知っているようだった。


「ミア、そこには何があるの? なんでNPC達は入れないの?」

 ボクがそう尋ねると、ミアが意外な答えを口に出した。


「メルヴェイユ様との盟約により精霊種と異世界人以外は入れないようにマタンガ集落は出来ています。あそこには小規模要塞である技術の要塞があります。ただし、絆の要塞と動力が繋がっているため、現在は使うことが出来ません。この話は精霊種はよく知っている話です。マタンガ集落とは言いますが、他にも属性精霊なども住んでいますよ」

 ミアからもたらされた情報は、思わぬ情報だった。

 というか、そんな話は誰からも聞いたことがない。

 なぜそんなことを知っているんだろう?


「ミア、君って……」

「私はご主人様と運命的出会いをしたスライムの精霊です。精霊は基本的に人間には関わりません。関わるのはエルフや魔女、妖怪種や神種などです。ですが、知っている情報を話していい種は神種だけになります。そう言う意味でも、私はご主人様と運命的出会いをしたんだなと感じています」

 ミアは笑顔でボクにそう言う。

 運命的って言われると、ちょっとドキドキするのは仕様だと思うから仕方ない。

 そして同時に思うこと、この世界には何気ないところに世界を管理するシステムの一部が隠されているということだ。

 もしかすると、ミアも?


「お姉ちゃん、準備出来たら行くよ~」

 気が付くと、扉の向こうからマイアの声が聞こえてきた。


「スピカ、ヘアカラーも使ったし名前も変えたから行こう」

「マイアちゃんに教えてもらった名前を使いました。さっそくマタンガ狩りに行きましょう」

 どうやら二人も一緒のようだ。

 なら、もう行くしかないよね。


「行ってくるね」

 ボクはミアにそう言う。


「はい、いってらっしゃいませ。この様子ですと、集落に入るのは早そうですね」

 ミアはそれだけ言うと、ボクが出て行くのを黙って見送ってくれた。


 さて、目指すはマタンガ集落だ。

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