第11話 瑞樹と美影のお願いと温泉への誘い

 瑞樹の話は簡単だった。

 曰く、ゲームには疎いので手取り足取り教えてほしいということだった。

 まぁ実際手取り足取り教えることになるのがVRゲームなので、間違った表現ではないと思う。


「それで、どんな職業がいいとか希望ある?」

 まず最初に行ったのは聴取。

 合いそうなものを自分なりに選んでみるつもりなのだ。

 なんだか一人前のプレイヤーみたいでちょっと楽しい。


「そうですね、私は神通力を使うのが得意です。主に呼び出すものとか好きです」

 瑞樹は実に楽しそうにそう言う。

 瑞樹といえば烏天狗の姫でもあり、その妖力はかなり高いという。

 現代社会でそんな能力を使う場面は一切なく、妖種同士での争いもないため、宝の持ち腐れだけどね。


「あぁ~。じゃあ召喚士かなぁ。強いの呼び出しそう」

「いいですね。私、それにします」

 ボクの提案に、瑞樹は実に嬉しそうに頷いた。

 

「それじゃ~、次はあたしの番だね。ずばり刀! わかるでしょ!? 天狐だもんね!」

 やたらとテンションが高い美影。

 天狐と刀は関係ないと思うんだけどなぁ。


「いいんだけどさ、天狐とどう関係あるの?」

 何でもかんでも天狐と結びつけないでほしい。

 そう思っていると、美影がこんなことを言い出した。


「どうって、それはもちろん詠春おじさまだよ」

「あぁ……」

 美影の言いたいことがボクにはわかった。


「お父さんと刀?」

 ミナだけはよくわかっていないようだから説明しておこう。


「えっとね、実はボクの刀の扱い方はお父さんから学んだんだ。性別決まる前、道場にいたでしょ?」

 当時のことを説明しつつ、ミナに記憶を辿らせる。


「あっ、そうなんだ。あの時なんだね」

「そうそう。天狐流刀術ってのがあって、それがお父さんが使ってる刀術なんだ。作ったのはお婆ちゃんらしいけど」

 八坂家に変なものがあれば、それは大体お婆ちゃんとお父さんが犯人だったりする。


「いいないいな~! 昴の家ってそういうところあるよね。鬼塚のところは棒術と格闘術だし、うちは妖術と錫杖術だし」

 鬼塚家は近接戦闘がメインの為、棒術や格闘術が盛んだったりする。

 一部は刀を使う人もいるようだけど、少数らしい。


 烏丸家はゲーム的に言えば魔術師のようなものだ。

 なので、妖術と錫杖が盛んだったりする。

 

「ふぅん。刀かぁ。でも妖術も使うんでしょ?」

「もっちろん! というわけで何かない?」

「う~ん……」

 美影の要望の職業があるかはわからないけど、魔剣士がそういうのに近いかもしれない。

 実際どんな職業があるのかわからないので、こればかりはキャラクターを作った時のオススメ次第かな。


「たぶん魔剣士が近いんだろうけど、ちょっとわからない。でも、近いものは選んでくれるんじゃないかな? ボクなんか陰陽師系統の道士だし」

「あぁ~。昴の家ってそうだよね。納得納得」

 美影は何やら納得したようだ。

 うちにそんな要素あったっけ……。


「とりあえず二人とも、こんな感じで良い? それでいつからやるの?」

 二人が始めるのはいつになるのか、ボク達と予定が合うのかを確認する。


「今日はやってもキャラクター作成までかな? 宿題も残ってるし」

「そうね。今日はやれてもそこまでです。明日にしましょう。ところで、昴」

 美影はまだ宿題が残っているようで、嫌そうな顔をしながらそう言ったが、瑞樹の方は余裕がありそうだった。


「うん? どうしたの? 瑞樹」

 ボクは瑞樹に聞き返す。


「昴はもう宿題終わったんでしょ? ところで、温泉のチケットがあるのだけど、みんなで一緒に行かない?」

 それは唐突なお誘いだった。

 温泉……。

 素晴らしい響き。


「うっ……。温泉かぁ。いこうかな?」

「お姉ちゃん、これは罠だよ」

「失礼ね、ミナちゃん。れっきとした裸の付き合いよ?」

「合法的にくっつきたいだけなんじゃないですか?」

「合法……。そう、たしかに合法よね」

「うわぁ……」

「昴にお触り出来ると聞いて! 瑞樹、あたしも行くよ?」

「ところで一緒に入る方向になってるけど、ボクって一緒に入っていいんだっけ?」

「「「えっ!?」」」

 瑞樹とミナが盛り上がり応酬しあう中、ボクはずっと考え事をしていた。

 そういえば、誰かと温泉なんて初めてなんじゃないか?

 行けても家族風呂だったしなぁ。


「あぁ~、そっか。お姉ちゃん今まで禁止されてたんだっけ」

「そうそう。お父さん達誘わないとだめだね。話すなら行くって言うだろうし」

 温泉好きなのは両親譲りだとボクは確信を持っていうことが出来る。

 きっと話すと一緒に行くと言い出すだろう。

 というか、初めての他の人との温泉入浴かぁ。

 怖いけど楽しみ。


「それじゃあ、夕方お迎えに行くから、おじさまによろしくね」

「頼んだよー!!」

 瑞樹と美影に見送られ、ボク達は一旦烏丸家を後にした。


「お姉ちゃん、楽しみ?」

 横を歩くミナがそう問いかけてくる。


「もちろん。でも怪しいたくらみはありそうだよね」

 セクハラ対策を練らねばならないだろう。

 あの二人なら何かしてくる可能性があるから。


「ドタバタするだろうけど、楽しみだね。お父さん行くかな?」

 ミナは結構お父さんも好きなのだ。

 本人には言わないけどね。


「行くでしょ? 温泉大好きだもん」

 ボク達は早速許可を得るべく家路についた。

 その間はただひたすら、ミナとおしゃべりをしていた。

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