第33話 ミナはお姉ちゃんが大好き?

 コフィンから出ると夕方の17時ごろだった。

 まだ日が高いので外は明るい。


「お姉ちゃん、終わった? 買い物いこう?」

 ちょうどミナが部屋に入ってくるところだった。

 いつもタイミングいいけど、見張られてたりする?


「お姉ちゃん、宿題あとでやらないとだめだよ? もうすぐ期日なんだから」

 ミナは腰に手を当ててボクにそう告げる。

 8月上旬にはすべて終わらせるようにと言われているから仕方ないね。

 まぁ、もうすぐ終わるからそこまで気にしてないんだけど。


「お母さん、会社の代表取締役だから、スケジュールにうるさいんだよね。でも仕方ないのかな? 社会に出たらそんなものだって言ってたし」

「でも、お父さんはほのぼののんびりしてるよね?」

「たしかにね」

 ボク達のお父さんは一般的なお父さんとは違うのかもしれない。

 友達のお父さんとかは見たことあるけど、お父さんという立場を重視している人が多いように感じていた。


『父とはこうあるべき』というのがそれぞれにあって、それを忠実に守ってるのかもしれないけど、それで家族と会話が少なくなっては元も子もないような気がする。


 逆にうちのお父さんは、仕事に炊事洗濯家事全般なんでもござれ、人当たり穏やかでいつもにこにこ、ご近所にはファンクラブすらもあるという。


 その所作は美しく、一挙手一投足に華があるというか、そういう行動をするように心掛けている節がある。

 たぶんそこはお婆ちゃんの教育なんだろうね。


「うちのお父さん、怒る時は静かに諭すように言うけど、反論できない雰囲気があるよね?」

 笑顔だけど、じっと顔を見つめて動かさないんだけど、そこはかとなく感じ取れる真剣な雰囲気はたまに怖く感じる。


「お姉ちゃんの着替えだしたから、それに着替えたら早くいこ? 夜になる前に帰らないとだからあと1~2時間しかないよ」

 うちは基本的に学校の用事以外での門限は夕方までとなっている。

 遅くても19時だ。


「う、うん。急ぐけど、この服で行くの?」

 ミナによって出されたのは、無地の白いシャツにデニムのショートパンツだった。


「うん、日差しは大丈夫だと思うけど、なんならサマーカーディガンつける?」

 そう言うと、ミナは手にした紙袋からオレンジ色のカーディガンを取り出して見せた。

 いつの間にそんなの準備してたんですか?

 お姉ちゃん、そんな情報知らなかったんですけど?


「不思議そうな顔してるけど、お姉ちゃん、身長150cmになったの知ってる?」

 ミナがきょとんとした顔でそう言ってくる。

 え?

 ちょっとまって?

 その情報、ボク知らない!


「い、いつの間にサイズ計ったの……?」

 ボクは戦々恐々としながら問いかけた。

 すると――。


「何言ってるの? お姉ちゃんが寝てるときに計ったに決まってるでしょ? 詳細なサイズとか形はお風呂で見て分かってるし」

 さらっととんでもないことを言うミナ。

 いつの間にかボクは丸裸にされていたらしい。


「ねぇ、ちょっとまとうよ。いつのまにそんな隅々まで見たのさ! お風呂は分かるよ? でも、いちいち覚えてないよね!?」

 うちの妹がちょっぴり怖いです。


「お姉ちゃんのことで、知らないことなんてあるわけないじゃない。お姉ちゃんがいないときはお父さんと買いに行くから、お父さんだって知ってるのに」

「おとうさあああああああああん!!」

 ボクは思わず叫んでしまった。

 どういうこと!?


「叫んでもお父さんは今日いないよ? お社の経過を見に行ってるし」

 お父さんはどうやら、お婆ちゃんの社の建設状況を見に行っているようだ。

 お父さんには大事な問題だもんね。


「ほら、はやく」

 ミナはボクを急かすと、問答無用で衣服を剥ぎ取り、ボクを全裸にして転がす。


「ふんふふ~ん」

 ご機嫌そうなミナはボクをそのままに服や下着を選んでいる。

 何でこうなってるの……。


「お姉ちゃん、たまには抵抗した方がいいよ? 状況に流されるだけで抵抗できないと、痛い目に遭うからね?」

 やんわりとミナに注意されるボクは、姉としての威厳も何もあったものではなかった。

 押しに弱いって言われてる気がして仕方ないんですけど……。


「お姉ちゃんとしての扱いを求めることにするよ」

 ボクの精いっぱいの抵抗は抗議することだけだった。

 はは、すぐに拒否されたんだけどね。


「さ、決まったことだし、着替えて行こう」

 ノリノリな妹は、早速ボクの着せ替えを始めた。

 もう一回言うよ?

 ボクの着せ替えを始めた。

 ボクが着替えてる訳じゃないんだ……。

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