第26話 再びのメルヴェイユ南部森林ダンジョン

 メルヴェイユ南部森林ダンジョン、別に正式名称でも何でもないので、みんなは呼びやすいように南部ダンジョンや南ダンジョンなどと呼んでいる。

 そんなダンジョンの上層は、ダンジョンウルフやダンジョンブラウンウルフなどの狼系が主に生息している。

 一部はスライムもいるようだが、あまり数は多くないらしい。

 そんなメルヴェイユ南部森林ダンジョンだが、生産職にとっては嬉しい素材の宝庫でもあるので、結構な人々がここで採集や採掘をしている。

 ちなみに、3層目では鉄がわずかだが出るようだった。


「はい、集合ですよ!」

 ボクが一声かけると、コノハちゃんとミアが集まってくる。


「番号、1」

「えっと、2?」

「番号は要らないから。このダンジョンの適正レベルは10からです。10は上層の数字になります。そんなわけで、回復が出来るのはミアくらいなので、無理せず行きましょう。各自、帰還用のスクロールは持ちましたか?」

 これからダンジョンへ潜るわけだが、状況によっては帰るのが面倒になることもある。

 1枚作るだけでもそれなりの値段になってしまうのだが、メルヴェイユの登録した場所に帰れるように、帰還用転送スクロールを自前で作成した。

 今回は3枚なので、お値段で言うと銀貨3枚、つまり3万クレディなのである。

 1枚1万クレディということは、普通に狩りしただけでは大体の場合、赤字になってしまう計算になる。


「緊急用とはいえ、今後量産したいので、素材集めもやりましょう。アーク兄達がいないので、採掘や採集は初めでですが自分たちでやりますよ! ツルハシは持ちましたか? 採集用グローブにナイフは持ちましたか? 解体用ナイフは持ちましたか?」

 解体スキルは街を出る前にしっかりと習得してきた。

 初級なのでロスが多めに出る予想はしてるので、がっかりはしないけどね。


「スピカちゃん、それは街を出る前に確認すべき」

 コノハちゃんの視線が痛い。

 はは、知ってたよ。

 でもね、ボクは忘れてたんだ。

 それで、今思い出したんだよ!


「ご主人様は今さっき思い出したんだと思います。何分街を出るときは大変浮かれておりましたから」

「うっ、浮かれてないよ!?」

 ミアがさらっと暴露するけど、ボクは頑張って誤魔化す。

 3人での狩りが楽しみだったなんて言えるわけないじゃないかっ!


「ふふ、さて行きましょう」

 何を考えたのかは分からないけど、コノハちゃんは切り替えてダンジョンに潜ることにしたようだ。

 早速追わないと。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



 ダンジョン内は灯りが設置されている為明るく安心だ。

 まぁ、煌々としたという感じではないんだけどね。


「ダンジョンウルフ来ました」

 3頭のダンジョンウルフがこっちに向かってやってくるのが見えた。


「【五行刻印比和火行一段:火点火陣】」

 魔力が上がっているボクは、今まで使っていた【五行刻印比和火行二段:火炎陣】から【五行刻印比和火行一段:火点火陣】に切り替えた。

 この術は、二点を必要としない。

 一点に火の属性の火行を与える。

 そこを踏むか、近づいたタイミングで【解放】することで火炎陣よりは弱いものの、火の属性を持った術で攻撃が出来るのだ。

 線で引いた場合は威力がアップし、二点間の作用によってさながらファイアーウォールのように火が噴き出る。

 一点の場合はその一点のみなので、外した場合は効果なんてあるわけがない。

 

 まぁ、術の形をしたトラップってやつだね。


「前より威力は低いけど大丈夫?」

 コノハちゃんが心配してくる。


「大丈夫だよ、見てて?」

 迫ってくるダンジョンウルフがそのまま火点を踏む。


「ギャウンッギャウンッ」

 ダンジョンウルフが火点を踏んだ時、大きな火柱がダンジョンウルフを飲み込んだ。

 それを食らったダンジョンウルフは火だるまになりながらのたうち回っていた。


「威力すごい」

 コノハちゃんが驚くのも無理はない。

 なぜなら――。


「ボクが12だからだよ」

 ボクのレベルは12になっている。

 それはつまり、威力も自然と向上しているということだ。

 保有する魔力はそのままMPの形で表示される。

 このゲームのステータスにおいて、MP10で魔力1と置き換えることが出来るようになっている。

 人間の道士は1レベル上がる時に、MPが15増える。

 人間の魔術師は1レベル上がる時に、MPが20増える。

 そしてなんと、妖狐族の天狐種であるボク、その職業と種族補正によって1レベル上がる時に、MPが30もあがるのだ。

 ついでに転職と進化の時にMPが100から150に増加していたので、現在は210あることになる。

 適正レベル10の魔術師で上層がいけるなら、転職と進化で強化されたボクが倒せないわけがないのだ。

 といっても、人間の魔術師は進化先でもっとえげつない進化の仕方をするらしいから、うかうかはしてられないんだけどね……。


「ボクの魔力は21だ。わかる?」

 ボクがそう言ったとき、コノハちゃんはハッと息をのんだ。


「ここは魔力10もあれば行けるとか……。つまり、適性の2倍ある!」

 初心者ダンジョンなので、魔力が10もあれば上層は苦労することなくソロプレイすることが可能なのだ。

 まぁ、魔力ってなに? という話は、別の機会にすることにします。

 だって、設定語られても困るでしょ?


「話してる間にどんどん来てる」

 1頭目と2頭目は設置された火点を踏んで炎上焼死したものの、1頭は学習したのか避けて迫ってきた。

 その後、その1頭は待機していたコノハちゃんが撃ち落とした。


「ダンジョンウルフ5頭です。【スプラッシュ】」

 敵の数を報告するミアは、そのまま魔術を行使する。


「3点射撃、いきます」

 コノハちゃんは正確無比に3本の矢を立て続けに発射する。

 綺麗に3本の矢は3頭の眉間に直撃。

 ピクリとも動かなくなった3頭を見て、二の足を踏んだダンジョンウルフをボクが【風符】で首を落として殲滅した。


「コノハちゃん、弓のスキル増えた?」

 いつの間にか3点射撃なんて覚えててびっくりだ。

 しかもきれいに急所に直撃させるとか、天才じゃないかって思う。


「私、アーチェリーは得意でした。私の腕前はどうでしたか?」

 そもそも、弓の下地はあったらしいけど、それでもすごいと思う。


「3点射撃はNPCさんに習いました。なかなかトリッキーな技ですよね。現実では使えそうにないです」

 コノハちゃんは心底残念そうにそう言った。

 さすがに現実ではその曲芸みたいな射撃は無理……。


「ミアちゃんのスプラッシュ、なかなかいい威力ですよね!」

「ありがとうございます。水魔術は得意なんです。スライムですから」

 ミアはやや照れたようにそう言って謙遜した。

 照れても顔色が分からないところはすごいと思うよ。


「よっし、どんどん奥へ進んでいくよ」

 ボク達は獲物を探してさらに奥へと進んでいった。

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