アルケニアオンライン~昴のVRMMOゲームライフ。冒険生産なんでも楽しみます。

じゃくまる

第0章 プロローグ

プロローグ

「ふあぁ~。暑いねぇ」

「ほんとだね~。でも、部屋の中はクーラーのおかげで涼しいでしょ?」

「まぁそうなんだけどね~」

 ボクは妹の言葉に軽く同意すると、自分のふさふさした尻尾を胸に抱くようにして抱え込んだ。


「あっ、ずるい! 私にも貸してよ!」

「やだよ。これはボクの尻尾なんだからさ。ミナは抱き枕でも使ってればいいじゃないかっ」

「昴(すばる)のケチっ! 私には尻尾なんてないんだから少しくらい貸してくれてもいいじゃない。昴の尻尾は気持ちいいんだから」

 妹であるミナはボクの尻尾を執拗に狙ってくる。

 そんな妹のミナには、ボクとは違い尻尾が存在しない。


 えっ?

 どういうことかって?

 簡単に言うと、妹はお母さんの血筋が強く出ていて、ボクはお父さんの血筋が強く出ているからなんだ。

 まだわからないって?

 仕方ないな~。


 ボクはね、この世界に生きる現代ファンタジー種の一種である、妖種と呼ばれる種の子供なんだ。

 昔は『妖怪』などと言われていたらしいんだけど、今はれっきとした種として認められているので『妖種』という種として扱われているんだ。


 この世界には妖種と人間種の二種が存在している。

 当然人口の九割は人間種で、圧倒的多さを誇っている。

 対するボクたち妖種は一割未満と言えばいいのかな?

 実際にそんなに多くはいないんだ。

 

 ボクの名前は八坂昴(やさかすばる)。

 何の変哲もない妖種の子供で、今は中学一年生だ。

『妖狐族』と呼ばれる妖狐系の妖種で、その中でも純粋種とも言われている『天狐種』という種だ。

 天狐種には色々な秘密があるらしいんだけど、特徴といえば十三歳になるまで性別が存在しないということかな。

 もちろん、そんなボクたちに対して、国や自治体は配慮してくれている。

『暫定的男子』か『暫定的女子』という性別が特別に用意されているのも特徴といえば特徴かな。


 そんな天狐種であるボクたちの外見的特徴といえば、一般的に美少年もしくは美少女と言われるくらいには姿形が整っていることがあげられるだろう。

 人間の姿でも妖狐族本来の姿でもそこは変わらない。

 もちろん、妖狐族本来の姿なら、キュートな狐耳とふさふさな尻尾が追加されるわけだから、一度で二度おいしいってわけ。

 

 まぁそんなボクたちだけど、一応ある程度決まりごとは存在している。

 まず学校に通うときについてだけど、人間と同じ姿になることができるので、学校や外では人間の姿で行動するようにしている。

 当然のことながら、学校の校則では人間の姿になることが定められているので、違反すれば停学なんかも有り得る。

 ボクの本来の髪色は青みかかった銀髪なんだけど、人間の姿の時は黒髪にしている。

 黒髪であることも校則に明記されているしね。


 そしてこれが重要。

 人前で妖術は使わないということだ。

 これは警察沙汰になる可能性もあるので、要注意だ。

 とはいえ、天狐種であるボクはまだそんな力は使えない。

 十三歳になるまでは妖狐の力も変化くらいしか使えず、一般人よりも圧倒的に非力な状態で過ごすことになる。

 そんなボクたちは常に危険と隣り合わせで生きているんだ。

 まぁ、そんな話はどうでもいいよね。

 ボクの自己紹介としてはこんなところかな?


 そんなボクなんだけど、今はちょうど夏休みに入ったばかりの時期で、朝から部屋でごろごろ三昧をしていたところだ。

 なのだけど、なぜかボクが起きたことを察知した妹が、ボクの部屋に入り浸ってしまっている。

 これでは自由にごろごろできないじゃないかっ!


「なんで昴だけ妖狐なのかなぁ。お父さんも妖狐だし。お母さんと私だけ神族(しんぞく)ってひどくないかな?」

「そんなのお母さんに言ってよ。それに、人間と見た目が変わらない神族は人間種の扱いなんだから変な目で見られないからいいじゃないか」

「昴だって半分神族なのになぁ。どうしてこうも違うんだろう。尻尾ほしかったなぁ」

 妹であるミナは露骨にしょんぼりしてしまった。


 八坂ミナ、現在十歳の小学生だ。

 人間と見た目の変わらない神族であり、ボクの血を分けた大事な妹だ。

 可愛いものやもふもふしたものに目がなく、執拗にボクの尻尾を狙ってくるところがある。

 夜中に目が覚めると、ボクの尻尾に抱き着いて寝ていたりすることもあるから困りものだ。

 ちなみに、神族は人間の中にひっそりと存在していて、大体の神族が自分は人間であると身分を偽って生活している。

 うちのお母さんもそんな偽っている神族の一人だった。


「そういえば、お母さんがゲームやるならちゃんと宿題もやりなさいねって言ってたよ? 始めるの? あのゲーム」

「うん、お兄ちゃんに誘われてるし、ハードもあるからちょうどいいかなって。ミナのハードはまだ来てないから一緒に出来なくて残念だけどさ」

「もう、お父さんもお母さんもそういうところ堅実だから困るよね。でも、ハード高いし当たり前かなぁ」

 ミナの言うあのゲームとは、夏休み前に正式リリースされたばかりの新作VRMMORPGである『アルケニアオンライン』というゲームのことだ。


『アルケニアオンライン』とは、体感型ファンタジーRPGというジャンルのゲームだ。

 仮想空間もしくは電脳空間ともいうらしいんだけど、そこに作られたアルケニア世界で冒険したり物作りや村作りなどをして生活していくというゲームなのだ。

 一応この世界にはグランドストーリーがある。

 異界の神からの侵略により、アルケニア世界は瘴気と闇に閉ざされてしまったというのだ。

 その状況を打開し世界を解放すべく女神メルヴェイユは、異世界から冒険者たちを招き入れることにしたというものだ。

 とはいえ、世界は続いていくので、設定されたボスを倒してもこの世界は終わらないみたいだけどね。

 新世界アルケニアにはNPCと呼ばれる現地住民たちがおり、彼らとの交流も重要な要素のようだ。

 仲良くなることで、他の人には発生しないクエストが発生したり、特殊な武器や称号が手に入ることがあるようで、やり込み要素も満載だ。


 そんなゲームの開発企業は『プレイアデス』という名前の企業で、元々は医療機器を製造販売している企業だった。

 ゲーム開発事業も手掛けることになったため、社名を変更し今に至る。


 そんな『プレイアデス』の会長が、ボクたちの母親である八坂メルだ。

 父親は代表取締役をしていて、その補助としての取締役に母親の妹が就任している。

 今のところ一族経営と言えるのかもしれない。

 まぁ、ある程度安定してきたらお父さんもお母さんも後任に譲るって言ってるけど。


 そんなプレイアデスからは、先行試作品のハードを二つ提供してくれることになった。

 それがボクとお兄ちゃんが貰ったハードというわけだ。

 でも職権乱用というなかれ!

 その分の代金はお父さんの給料から地味に引かれているのだから。

 ごめんね、お父さん。


 妹の分については後日届くことになっているので、ボクたちはそれを待たずに先にプレイすることにしたのだ。

 

『アルケニアオンライン』をプレイするには二つの方法がある。

 一つはゴーグル型の機器であり、市販の機器でも可能な上、値段も安かったりする。

 このゴーグル型は、ほかの機器に比べるとやや没入感に欠け人気があまりなかったりする。


 そしてもう一つは、『コフィン』と呼ばれる横置き型の円筒形の機器だ。

 カバーを開け中に入って、専用のバイザーをかぶって利用する。

 より深く没入できると説明書には記載されている。

 我が家にやって来たのはこの『コフィン』タイプだった。

 内部にはクーラーもついており、さらには元々医療機器だったこともあり、体調管理システムが搭載されている。

 なので、当然お値段はかなりお高い……。


「まぁ後で一緒に出来るんだもんね。楽しみにしてるからまずは様子見て来てよ」

 ミナはそう言うと、ボクの部屋から出て行こうとする。


「もう行くの?」

「うん。これからちょっと友達と出かけるからね。昴もゲームばっかりしてないで、宿題やらないとだめだよ?」

「わかってるよ。気を付けて行って来てよ? それじゃ、またあとで」

「いってきま~す」

 ミナは軽く手を振り、部屋から出て行った。

 さて、ボクはゲームを始めるとしましょうか。

 ゲームのデータは事前にインストール済みなので、あとはキャラクターを作るだけだ。

 さてさて、どんな世界が待っているのかな~?

 すっごく楽しみだ。

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