第39話「背中は任せるよ!!」
ゾンビの群れから逃げ切り、広間へと到着すると、アリーはもちろんだが、そこには坂東さんがすでに避難してきていた。
僕は素早く坂東さんの装備を見ると、そこには確かにゴビーが示したものと寸分
やっぱり犯人は坂東さんだっ!!
僕が一直線に坂東さんに向かうと、彼は僕を一瞥し、口を開いた。
「やぁ、君らも大変だな。こんな事に付き合わされて」
「そうですね。でも仕事ですから」
僕はニッコリと営業スマイルを向け、油断を誘う。
そして、坂東さんの視線が一瞬僕から切れた瞬間、短剣を取り出し、喉元へ突きつける。
「まさか、貴方から
「何を言っている?」
「とぼけても無駄です。貴方がこの事件の犯人なのは分かっています」
「犯人?」
「ええ、証拠もありますよ。貴方と同じ装備の人物がゴビーを訪ねて毒を入手した事は証言が取れています!」
僕は相手の一挙手一投足も見流さない様、鋭く観察する。
「ゴビーって誰だ?」
こいつ、まだとぼけるのかっ!
僕がそう思った瞬間、ニョニョのドロップキックが炸裂した。僕に。
「ぐあっはっ!」
あまりに衝撃的な出来事に受身も取れず、広間をゴロゴロと転がった。
「ティザン。あんたバカでしょ! 普通、毒やらなんやら怪しい行動をするときに、普段の服なんて着ていかないわよッ!! むしろ今のは、坂東さんがシロだっていう証拠よ!!」
「えっ? そうなの?」
僕は混乱した頭では上手く考えがまとまらず、ニョニョの言葉をそのまま受け入れる。
「でも、これで犯人が確定したわね。って言っても推理の余地なんてなくてただの消去法だけどね」
ニョニョはシニカルな笑みを浮かべ、「さて――」と言って語りだした。
※
「今回の一連の犯人は、そうね。もったいつけなくてもどうせすぐ現れるのだから、さくっと言うわね。犯人は番匠谷さんよ」
「あら。どうしてそう思うのかしら?」
情報流出犯とも同義であろう犯人にアリーは興味を示し、立会人としてではなく、アリー個人として訪ねる。
「え? だって、伊坂さんはあたし達の目の前で確実に死亡したし、
「ちょっ、ちょっとニョニョ待ってよ。その2人共すでに死亡しているはずだよ!」
「ええ、でもあたし達は誰も光となって消えた所はみていないわ。死んだ振りをしているのかもしれないわ」
「その可能性は無くはないかもしれないけど、なんの為に?」
「さぁ、そこまでは分からないわ。類家さんは本当に自殺かもしれないし。番匠谷さんは何か次の手を打つ為かもしれないわね」
ここで僕は最大の疑問を投げかける。
「2人に絞るところまでは僕も納得がいくけど、番匠谷さんを犯人だってした理由は?」
「そうね。勘!」
「……勘?」
「そう、女の勘って奴ね! 類家さんはいけ好かなくてもこういうことをする人物には見えなかったわ」
「…………」
僕は思わず沈黙してしまった。
そんな僕を見かねて、アリーが助け舟を出す。
「ティザン。女の勘っていうのはウソよ。その娘、全員のアリバイを調べたのだから、2件目の時、類家さんは食堂でワタシと一緒にいたわ。だから、坂上様への犯行は行えなかった。だから、消去法と言ったのね」
ん? 僕は何やら違和感を覚えたけど、本当に些細だったのだろう。その正体が何か気が付くことは出来なかった。
「ま、そういう事よ。あたしの予想ではこのゾンビの軍団は、全員を部屋の外に出さないようにして、明日ここには番匠谷さんしか現れず、1人だけの資格者として会長となるって筋書きだと思うわ」
「なるほど、だから、広間に逃げようって言ったんだ」
「ええ、初めはここに居る人が犯人だと思っていたわ。で、実力行使で外に連れ出そうと思っていたんだけどね」
ニョニョはいつか使ったズタ袋と縄を見せる。
「でも、ここに犯人ではない坂東さんが居たのは正直予想外よ。たぶん番匠谷さんも予想外なのだと思うんだけど……」
どうにも歯切れが悪い。たぶんその理由は、死亡を偽っている件だろう。
ニョニョの考えが正しければ、別に死亡を偽らず、そのまま被害者面してこの広間に来ればいいだけなんだ。
あえて、そうした可能性として1つ思い浮かぶのは。もしかしたら、誰かがこの広場に居るかもしれないと考えていた場合だ。
PKは行えないし、MPKも難しい。毒も無理だ。あと、残された手は……。
僕はしばらく考えた後1つの考えに行き当たった。
「もしかしたら、マズイ!! 坂東さん。さっきのことは謝りますから話を聞いてください。今から、バッテリーを装備して、ネットもスマホの回線に替えてください!!」
急に色々言ってしまったけど、坂東さんは落ち着いた動作で、今、僕が言ったことを行おうとした。けれど――。
スッ!!
死亡でもなく、僕らの前から急に坂東さんが消えた。
「クソッ!! やられた!」
「えっ、えっ? ティザン。何が起こったの?」
「リアルで回線か電気を切られた。リアルの知り合いだからこそ出来るPK方法だ!」
ニョニョでも理解できる、実に原始的なキル方法。子供がゲームに負けそうなときに、ゲーム機本体をリセットする様な大人気ない殺し方だ。
僕はゲームを根底から否定する方法に憤りを通り越し、無力感が全身を襲う。
膝が崩れ、今にも倒れそうだけど、最後の希望を求めて、一歩踏み出す。
「行かなきゃ……」
その一言で全てを理解したニョニョは僕の背中を叩いた。
「まだ犯人の思い通りに全て行った訳じゃないわ! 道のりは険しいかもしれないけど、あたしとティザンなら大丈夫よ」
背中がリアルに押された訳ではないけれど、それでも僕は力が漲ってくるのを感じた。
「そうだね。例え何万のゾンビだろうと、燃え尽きるまで戦い抜いてやる!」
「犯人の思い通りにさせない為に、明日までに座谷さんをここに連れてくるわよっ!」
僕はニョニョの顔を見つめてから、しっかりと口に出した。
「背中は任せるよ!!」
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