第35話「なんで初期位置から、ずれているんだッ!!」
この日は、ニョニョが結局起きてこなかった事も含めて何事もなく過ぎたはずだった。
翌朝、アリーからの呼びかけで、朝食を用意した旨と、一度全員に集合してほしいとの連絡があった。
食堂のテーブルには僕らの分も朝食が用意されていた。
簡単なトーストとサラダ、オムレツとベーコンなのだけど、なぜか全てが輝いているように見える。たぶん、これもすごく高い料理なのだろう。
すでにテーブルには、アリーと坂東さん、
つまり、ここに居ないのは寝起きであろうニョニョと女性副社長の坂上さんだ。
料理にはまだ誰一人手をつけていない。
まぁ、昨日、あんなことがあったんだから当然だ。
そして遅れること数分、ニョニョが慌てて食堂へと入ってきた。
「す、すみませんッ!!」
慌てながら謝るニョニョに対し、アリーは、
「いえ、別に集合時間を決めていた訳でもないし、急に呼び出したこちらが悪いのよ。気にしなくていいわ」
ニョニョにそう言い終わると、今度は全員の方を向き、重々しく口を開いた。
「皆様お集まりのようですので、お知らせさせていただきます。昨日の深夜から本日早朝にかけまして、坂上様が死亡されました」
「死亡っ!?」
座谷さんは驚きを隠しきれず、立ち上がって叫んだ。
「落ち着いてください。死亡と言ってもゲーム内での話しですよ。実際に亡くなられた訳ではありません。今朝、こちらの方にポータルに移動していた報告がありました。社長の伊坂様の件もあり、死亡したと見るのが妥当でしょう。一度外へ出た為ルールにより坂上様も失格とさせていただきます。今日はこの報告をさせてもらう為お集まり頂きました。折角お集まり頂きましたし、朝食でもいかがでしょうか。ワタシが用意しましたので安全ですよ」
そして、アリーはおもむろにオムレツを一口、その小さな口へと運んだ。
安全性を見せているが、それでも口をつける者はおらず、見かねたニョニョが自分の分を食べ始めた。
「……安全かな」
類家さんはぽそりと呟くと食べ始めた。
そして、それを見た面々は恐る恐る食べ始めた。
僕は後で本物を味わえばいいやと、急いで朝食を食べると、誰よりも早く食堂を出た。
「あっ! ティザン!」
ニョニョが何か言いたそうにしていたけど、どうせ寝過ごした謝罪だろうし、それより今はやることがある!
※
僕には1つどうしても気になる事があり、坂上さんの部屋へと向かった。
いったいどうやって坂上さんを死亡させたのか?
皆、毒は警戒しているはずだから、変なモノは口にしないはずだし、PKは同意がないと出来ない。坂上さんが自らPKに乗るタイプには思えない。
もしかしたら殺害方法に何か犯人につながるヒントがあるかもしれない!
僕は坂上さんの部屋へ付くと扉を開けた。
よくあるミステリーものだと死体が寝転ぶ中の捜査になったりするけど、ネットゲームではその心配もなくていい。
しかし、拍子抜けすることに、部屋は特に変わった様子は見られなかった。
「…………いや、諦めるのは早いね。もう少しシッカリ見てみよう」
部屋は始めにアリーが説明した通り、全員一緒の様だ。物の種類や配置まで当然ながらピタリと同じになっている。
僕は部屋の中には入り、グルグルと周囲を見ていると、どうしても気になる事があった。
「ああっ! もう! なんで初期位置から、ずれているんだッ!!」
部屋に置かれたリモコンやコップ、花瓶などの装飾品がほんの1ミリ程度だけどズレているのが気になって仕方ない!
なんで、こんなに色々とずらしたんだよ!?
本来ならこういう小物は部屋を掃除した際に全て初期位置にリセットされるはずだ。アリーがこの部屋だけ掃除しなかったとは考えられないし、どう見ても坂上さんが動かしたとしか思えない!
現場写真をスクリーンショットで撮ってから、神経質にほんの少しズレたリモコンの位置を直していると、いつの間にか部屋の前に類家さんが立っていた。
「――ッ!!」
僕は驚きの声を頑張って上げず、平静を装って、話しかけた。
「えっと、類家さんですよね。どうかしましたか?」
「…………」
類家さんは僕の呼びかけに答える事なく、しばらく部屋を眺めていると、踵を返して去って行った。
いったい何だったんだ?
あれ? でも、類家さんってどこかで見たことがあるような?
なんとなく既視感を覚えたけれど……。まぁ、気にしても仕方ないか。
僕はすぐに気にするのを止めて、これ以上、坂上さんの部屋を見るのは精神衛生上良くないと判断し、少しズレた小物をそのままに部屋を後にした。
そんな時、アリーから連絡が入った。
「皆様、申し訳ありませんが、再度食堂へお集まりください。類家様からお知らせしたい事があるようです」
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