第7話「こう言うの意外と燃えるタイプなんだよねッ!」

 スティングが最後の攻勢に出ようとしたその時、火球の雨が僕らに襲い掛かった。


「これは!?」


 今まで何度かフェンリルを攻略したところは見てきたけど、こんな特殊イベントが起きたのは初だ。


 しかし、狼狽うろたえていたのは僕一人だけで、『リバティ』のメンバーは全員が納得顔だったのだ。


 そこで、僕は始めのスティングの言葉を思い出した。


<<完全勝利こそが俺らのギルド、『リバティ』の目標だ>>


 ハッとすると同時に理解した。


「卵所持でのレイド戦!」


「もしかして、今頃気づいたのか? ティザンにしては察しが悪かったな」


 スティングは悪びれるどころかあっけらかんといい放つ。

 色々文句は言いたいが、今は目の前の事態に集中しよう。


 フェニックスの卵は本来持ち帰ってから叩き割ると炎属性のかなり良い武器が出るアイテムでそれなりに高値で取引されていたレアアイテムだった。

 噂で耳にしたが、あるとき卵を拾ったままレイドボス戦に挑んでしまった魔法使いソーサラーがおり、そのまま無事勝利を納めたそうだ。


 そのときに特殊イベントが起き、とんでもなく強い装備が手に入ったらしい。

 その魔法使いは「炎の魔女」とか「赤の魔術師」とか言われるようになったとか。


 そんな人物は見かけたこともなかったから完全にファンタジーだと思っていた。

 けれど、実際にこうしてイベントが起きているんだ。無闇にファンタジーだとは言えなくなった。


「こう言うの意外と燃えるタイプなんだよねッ!」


 俄然やる気になり、肩と首を回す。


「やる気出したところ悪いが、火球のせいでギルメンがヤバイんだが······」


 スティングの言葉ではたとして周囲に目を配ると、すでにかなりの人数が火球の犠牲となっていた。

 それどころかフェンリルまで火球でダメージを受けている。


「公式設定ではフェンリルは自身の天敵になりそうなフェニックスの卵を必要に狙って破壊する為、このフィールドに現れるってなっていた。ということはこの攻撃はフェニックスが卵を守ろうとしての攻撃じゃないかな?」


「おい。それが分かっても何の意味もないぞ! さっきから卵を所持してる俺にも普通にダメージ来てるしッ!」


「いや、そうじゃなくて、これなら容易にフェンリルが残りHPが1割になるよね」


「ああ、なるほど、暗殺か」


 スティングの言葉に僕は笑みを作って答えた。


 スキル「暗殺」とは。アサシン、シーフ、剣士が取れるスキルだ。

 敵がHP1割以下のときのみ発動でき、急所となる場所が表示され、対象にターゲットロックされずに3秒以内に攻撃を与えられた場合、相手を一撃で死に至らしめるスキルなのだが、失敗すると自身のHPが0になり、また相手は戦闘から離脱する。


 その難易度から成功できるプレイヤーはほとんどおらず、稀に仲間を逃がす為にあえてこのスキルを使うプレイヤーが居るくらいだが、ほとんどのプレイヤーはスキルポイントの無駄と言って取ることはない。


「1割までもう少しだから、僕とスティングで突っ込んで、スティングが削って1割にした直後に決めるよ!」


「OKッ!! 行くぞッ!!」


 僕とスティングの会話を聞いていたベルは驚きの表情を浮かべる。


「暗殺なんて成功しているところは見たことないです。無謀かと」


「ベル。このままじゃ全滅の方が先だ。火球だけかフェンリルだけなら楽勝だろうが、その2つ同時は結構マズイ。すでに回復役は崩壊しているし、盾役もギリギリだ。そうなったのも氷と光属性特化の装備にさせたギルドマスター、つまり俺の責任だ。通常以上に火に弱くなっちまった。だから、俺と俺の護衛であるティザンで片をつけてくる。それに俺はこいつがティザンが暗殺を外すとこを見たことねぇ!」


「ギルマスがそこまで言うのならば、自分は最後まで盾を貫きます!」


 ベルが先頭に立ち、フェンリルへ向かって進撃を始めた。

 襲い来る火球をベルがなんとか堪え、僕らをフェンリルの元へと運ぶ。


 ブゥン!!


 フェンリルの巨大な前足がベルを捉え、切り裂く。


「ふっ、役目は全うしました。ギルマス、御武運をッ!」


 スティングはベルの言葉と行動に答えるように、「おぉおおおっ!!」と雄叫びを上げながらフェンリルへと切り込む。


 1撃、2撃と叩き込むと同時にフェンリルからも反撃が行われる。

 3撃、4撃と互いに死力を尽くし殴りあっていると、僕の暗殺スキルに火が灯る。使用可能を伝える合図だ。


「スティングッ!!」


「おうっ!!」


 僕はスティングの前へ飛び出し、彼の腕を足場にし、空高く飛び上がった。

 レイドボスのターゲットの範囲からも外れると、服が邪魔にならないように前を閉じる。

 まるで1本の黒い筒のような姿で空中からフェンリル目掛け落下する。


「暗殺、発動」


 フェンリルの首筋にポツンとマーカーが現れた。

 フェンリルにもましてや『リバティ』のメンバーにも気づかれる事無く、体を一回転させ、そのマーカーのポイントを切り裂いた。


「グオォォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!!!!!!!!!」


 フェンリルは断末魔の雄叫びを上げ、その場へドシンと轟音を立て倒れ込んだ。


「すっ、すごい。レイドボスに暗殺を本当にやってのけるなんて」


 蘇生してもらい戦線に復帰したベルは開口一番にそう呟いた。


「全員、勝利の余韻に浸るのは後だ。とにかくギルメンを蘇生しろッ! 全員でエンディングを迎えるぞッ!」


 スティングの一声で、すぐに蘇生がなされ、今、全員がこの場に立っている。


「俺たちの完全勝利だ。さて、このあとはどうなる?」


 スティングは期待と不安入り混じる表情で空を見上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る