中編

数日後。

再び事務所を訪れた綾菜。


「とうとう証拠がとれたんですね!」

満面の笑みで綾菜は筑波に詰め寄る。

「はい。

夜の暗い中で電灯の光しかなく、マスクとサングラスで顔を隠していました。

が、わが社が使用している高画質カメラはごまかせませんでした」

そう言うと筑波は数枚の写真を綾菜に差し出した。

「これは12/18日,19:48に撮った写真です。

確かに顔はよく見えてませんが、この腕時計は間違いなく…」

「主人のです!」

綾菜が拡大した写真を見て叫ぶ。

「ではこれでご主人の不倫は証明されたわけになりますね」

「はい!」

綾菜はいまにも跳び跳ねそうな勢いで喜んでいる。

「では、これをお渡ししますので、あとは」

筑波は、ニヤリと笑うと

「ご自由にください。

ご健闘をお祈りします」

と言った。

「ありがとうございました!」

そう言うと、綾菜は事務所を、あとにした。


しかし、そのまた数日後。

「この間の件なんですが…」

「どうされましたか?」

再び事務所に綾菜の姿があった。

「あの写真を主人に見せたところ

『あれは俺じゃない!

なんの証拠があっていってるんだ!』

と言われてしまったんですよ」

「オーダーメイドのことは話されなかったのですか?」

筑波が不思議そうに尋ねる。

「話したことは話したんですけど。

『確かにそれは俺のだな。

でも…』

そう言って主人は何かを思い出したようにスマホを取り出したのです!」

興奮ぎみで綾菜が話を続ける。

「その、取り出したスマホにはいったい?」

筑波も先が気になるのかそわそわしている。

「『この写真をみれば俺がそんなことをしてる訳がないって分かるだろ!』

そう言って主人が見せた写真がこれです」

綾菜が自分のスマホを差し出す。

「これは…」

筑波が驚きのあまり手で口を隠す。

そこには、綾菜の夫とその同僚らしき人物が

駅で自撮りをしてる写真だった。

綾菜の夫が一番左端でスマホをもってとったのであろう、構図だ。

そして問題なのは奥にある駅の時計。

それは745を指しているのだ。

周りの様子からしても、午後の7時45分であることは一目瞭然であった。

さらに、綾菜によるとこの駅は会社の最寄り駅で、三井さん宅にはどう頑張っても20分はかかるらしい。

「つまり…」

「あの写真に写っていた男性はご主人では無いと言うことに…」

筑波は失望した表情で遠くを見つめていた。

しかし、綾菜は違った。

「あれはきっと、主人が不倫がバレないように何かをしてるに違いないです!

もう一度調査していただけますか?!」

綾菜のあまりの勢いに思わず筑波は頷いた。

「は、はぁ」

「それでひとつ提案なんですけど、写真を撮ったらすぐに私に連絡してくださいませんか?」

始めは首を傾げていた筑波だったが、すぐにその意図を理解し、綾菜に言った。

「なるほど、つまり連絡をうけたあなたがすぐにご主人にいまどこにいるのか、を聞くと言うことですね」

「そうです。

もし嘘をつこうとしても、この前みたいに時計を入れて自撮りをして、と言えばいいんですよ」

「なるほど」



しかし、これも失敗に終わってしまうのであった。


「やはりあの写真に写っていたのはご主人ではないようですね」

「えぇ、たまたま主人と同じオーダーメイドの腕時計をしていただけかもしれません。

あまりにも偶然過ぎますけど」

この1日前。

筑波は三井宅の前で再び同じ腕時計をした男性を撮ったのだが、その連絡をうけた綾菜が夫に連絡をしたところ

「は、何言ってるの?

いま会社の最寄り駅に着いたところなんだけど」

と言う文と共に、日付と時刻が表示されている電光掲示板を、右手で指差しながら、不満そうな顔を浮かべる自撮り写真が送られてきたのだ。

「これは、諦めるしかないですよね」

「えぇ、そうですね」

二人が諦めかけたときだった。

「どうしたんだい、筑波君」

「所長!」

再び、スーツ姿の零弐が現れた。

零弐は綾菜を視界に捉えると、問いかけた

「緑 綾菜様ですね。

どうされたのでしょうか?」

「実は…」

そう言うと、綾菜と筑波はこれまでの状況を話し始めた。



「…でこれは主人ではない、と言うことになったんですけど」

零弐はこれまでの数々の写真を見て何かを考えている。

「白石さん。

あなたは類い稀なる観察力と推理力で様々な事件を解決してると聞いてます。

そんなあなたでも、今回の件に関してはどうすることもできないでしょうか?」

それを聞いた零弐は綾菜の方に顔をあげた。

「それに関してはいくつか訂正が。

1つは観察力はあくまでも推理力の内の1つであると私は考えております。

そしてもうひとつ、今回の件もを垣間見ることができています」

その一言に開いた口がふさがらない2人。

「それは…」

「簡単に言うとご主人が不倫をしている可能性は十分に高く、また私の推理通りならばそれを証明することはとても簡単です」


そしてここから、零弐による、鮮やかな逆襲が始まるのであった。

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