第89話ライブ会場到着
「おお、ここがライブ会場ね。これあれか、いわゆる屋外ライブってやつか♪」
「ひぇ〜、流石は歌姫のライブ会場。でけぇな〜」
ライブ会場に着いた京也達は早速桜小和のいる所を聞こうとスタッフを探した。
「あ、あのすみません。私桜小和ちゃんの友達なんですけど。小和ちゃんがどこにいるかご存知ですか?」
すぐにスタッフを見つけられた薺はその中年の男性に桜小和の居場所を聞いた。
「ああ? なんだ君達。桜小和の友達だって? はあ、君達みたいな一般人が桜小和の友達な訳無いだろ。そんな事言ってただのファンなんだろ君達。そんな奴等を桜小和に会わせる訳にはいかないね。さあ帰った帰った。はあ、まったく。これだから最近の若者は。大人をすぐ騙せると思ってやがる」
薺が丁寧に聞くが、中年のスタッフは聞く耳を持たなかった。
「えっ、薺さんを知らないのかこいつ。ただのアホじゃん」
「京也の言うことも分かるけど、ソーサラーじゃない人間は国の上の方に立っている四大名家の当主にしか興味ないからね。四大名家の跡取りは顔も見たこと無いのよ。多分そのせいだわ」
「いや、まあ、ていうか相棒に関してはソーサラーなのに薺ちゃんが誰か分からなかったけどな♪」
「うっ」
「えっ、マジかよ京也。それ無知所じゃねぇよ。一体どんな生活を送って来たんだよお前」
京也が薺を知らなかったという事実を知り、奏基があからさまに驚く。
「うっせぇ! 馬鹿にだけは言われたくねぇ!」
「えっ、なに逆ギレ!? 逆ギレだよねこれ! なんで俺がキレられてんの!?」
「相棒は中学ん時世間の事に一切興味を示さなかったからな〜。そのせいだろ。まあ、俺も最初は呆れたけど」
「君達、なにをそんな所で話しているんだ。さっさと帰りなさい。ハッキリ言って邪魔なんだよ。明日はなんか『鳴細学園』とか言うソーサラーの養成学校の生徒も来るし大忙しなんだよ。君達みたいなただのミーハーには構ってられないの。分かる?」
京也達の会話を遮るようにスタッフの男性はそう言い放った。主に桜小和の友達だと言った薺に向けて。ただ、その行動が彼の命を脅かす物となる。
「凛様に向かってその台詞はなに?」
「は? 凛様? なに君そんな歳で同い年の子に様付けで呼ばしてるの。へぇ、とんだ女王様だね」
「あんた、どれだけ凛様を侮辱すれば気が済むの?」
「な、なあ相棒。これって?」
「ああ、奇遇だな楽斗。俺も身に覚えがあるぞ」
美桜の異変に気付いた京也と楽斗がお互いに目を合わせる。過去にこのような光景に立ち会った事があるのだ。当事者として。
「あんたなんか死になさい! "豪魔炎"!」
「あれ、なんか技の威力が上がってる!」
美桜は怒りに身を任せたまま両手をスタッフの男性に向け、炎を放つ。その炎は明らかに"豪炎"よりも威力が高く、美桜の実力が前よりも上がっている事を証明した。だが、今気にすべきはそこではない。ここは模擬戦ルームでは無い上に相手はソーサラーでは無い一般人だ。確実に重傷を負ってしまう。
「う、うわっーーー!」
迫り来る炎にスタッフの男性は思わず悲鳴をあげる。きっと今頃走馬灯でも見ているのだろう。何せ彼からしたら完全に死に直面しているのだから。
「はあ、"絶対零度"」
だが、その男性が重傷を負う事は無かった。京也が"絶対零度"で炎を消したのだ。鵜島の時とは違う、純粋な京也のタビアで。
「なっ、何をするのよ京也! こういう奴は一度分からせた方がいいのよ!」
「アホかお前。分かる前にこのおじさんが重傷を負っちまうだろうが。ちょっと気持ちは分かるけど落ち着け」
「何言ってるの! こういう奴はいっそ痛い目見た方が世のためって物でしょうが!」
京也の指摘に美桜は臆すること無く反論する。
「美桜ちゃん」
「は、はい。なんでしょう凛様!」
そこで薺がすこし怒気のはらんだ声で美桜の名前を呼ぶ。薺の声に僅かに混ぜられた怒気に気付いたのだろう、美桜はピンッと背を伸ばし、薺の方を向く。
「気持ちは嬉しいけど模擬戦ルームの外で敵でも無い人にタビア使っちゃダメでしょ。今の氷室さんが止めなかったらこの方重傷を負ってたかもかもしれないんだよ」
「で、ですが……」
「ですがも何も無い。美桜ちゃんはもう少しソーサラーとしての自覚を持った方がいいよ。次こんな事したら一週間口きかないからね」
(((えっ、優しいなおい)))
薺の口にした罰に京也、楽斗、奏基の三人はそう思った。
「えっ、一週間も……は、はい!」
だが、薺が大好きな美桜にはよっぽど効くのだろう。美桜は姿勢を崩さないまま、緊張感のある声で返事をした。
「な、なんだ君達は! はっ、もしかして桜小和を殺しに来た刺客か何かか! そうはさせんぞ! 食らえ、中学の頃からボクシングをして鍛え上げられたこの拳を!」
「えっ」
そう言い、男性は美桜に拳を喰らわせようとする。相手に重傷を負わす意思が無かったとはいえ、先程は酷い怪我を負わされそうになった身だ。やり返そうとするのは分かる。
(それはやり過ぎだな)
ただ、京也の目から見て明らかにやり過ぎだった。その拳は流石は中学の時からボクシングを続けていただけの事はあって、中々の物だった。このままだと美桜が骨を何本か折ってしまうかもしれないほどに。だからこそ京也はそれを止める事にした。
「面倒だな」
「くはっ!」
京也はそう言うのと同時に、美桜と男性の間に立って、男性の腕を掴み、そのまま背負い投げをする。男性は受け身も出来ずにそのまま地面に転がってしい、苦悶の表情を浮かべた。その流れるような動作にその場にいたほぼ全員が見惚れていた。
だが、不可解な点が一つある。それは京也がいくらなんでも早すぎるということだ。男性が拳を繰り出してから美桜にその拳が当たるまでの時間に京也が割り込むなどいくら京也が早くても、自己加速系のタビアを持っていないと無理なのだ。つまり男性に異変が起きた事になる。薺達は気づかなかったが、唯一楽斗だけは男性の異変に気付いた。
男性が一瞬、時が止まったかのように動かなくなった事に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます