第45話代表決定戦終了
「凛!」
「凛様!」
決勝戦が終わり、模擬戦ルームから出てくる薺に和葉と美桜は走りながら近づいて行く。
「あっ、和葉ちゃん、美桜ちゃん、私やったよ!」
「ああ、見てたぞ、すごかったな」
「ええ、流石は凛様です」
そんな嬉しそうにしている薺達をクラスメイト達は微笑ましそうに見ていた。それはもちろん京也達もだ。
「負けちまったなあ、楽斗。俺に勝ったのに負けてんじゃねえよ」
「まあな。でも技のキレとか凄かったんだぞ、勝てるわけねえって♪」
「はあ、何で少し楽しそうなんだよ」
「まあいいんじゃねえか? あいつが楽しそうなら」
「そうだけどよ」
負けたのに何故かテンションが高めな楽斗に、思わず呆れた京也を泡島が宥める。
「ていうか薺さん、ほんと嬉しそうだな。楽斗に勝ったのがそんなに嬉しいのか。なんかやらかしたんじゃねえのか、楽斗?」
「奏基、頼むからそういうのやめてくれ、傷つくから」
「おい、そんなんで傷つくんなら俺にやってる事はどうなんだよ。明らかに今奏基がやった以上だぞ」
「何言ってんだよ相棒! 他人にやるのと自分がやられるのなんて全然違うに決まってんだろ! 自分がやられて嫌な事をやるからこそ楽しいんじゃねえか!」
((いや、意味が分かんねえよ))
何故か目を輝かせながら言う楽斗に、京也と泡島は困惑する。
「あっ、氷室さん!」
そんな他愛も無い話をしていると、眩しくて直視できないほど喜んでいる薺が京也の方へ走りながら近付いた。
「やりました! 私やりました!」
「あっ、ああ、すごかったな」
勢いよく手を握りながら勝った報告をしてくる薺に、京也は少し照れくさそうにしながら返事をする。
「聞いてください! 氷室さんはご存知かもしれませんが佐伯すごかったんですよ! あの技の冴え、使い所、相当練習を積まれたんだと思います! さすがは氷室さんのお友達ですね! 佐伯さんがお強いのはやっぱり氷室さんの強さを見て来たからでしょうか! さすがは氷室さんです!」
勝てた事が相当嬉しいのか、先程から薺は少し興奮気味に見える。
「あれ、これって俺じゃなくて相棒が褒められてる?」
「安心しろ、楽斗もちょっとは褒められてるから」
「いや、でもやっぱり相棒がメインで褒められてね?」
口ぶりからして、おそらく薺は楽斗ではなく京也を褒めている。その事実に戸惑っている楽斗を泡島が慰めた。
「あんな凛の姿見たのは久しぶりだな。強かった楽斗はもちろん、凛になんの遠慮もなく接してくれる京也にも感謝だな」
「まあ、そうね」
薺は長い間、本気での戦闘という物をした事が無い。もちろん一族の者であれば薺より強い人は他にもいる。ただ、その誰一人として薺の相手をしなかったのだ。久しぶりに本気が出せた事に喜んでいるのはもちろん、和葉達は薺がその喜びを自分達ではなく、他の人に伝えている事が嬉しかった。今まで薺は和葉達以外の誰にも心を開かず、少し壁を作りながら接してきた。しかし、京也と接する時はその壁がない。それが和葉達にとってとても喜ばしい事だったのだ。
だが、和葉達にとっては喜ばしい事でもクラスメイトの、特に男子にはつまらない事だった。そしてその中でも特に京也に猛烈な対抗心を燃やしていた者がいた。
(くそっ、なんであいつばっかりなんだよ! あいつは俺に負けた最下位の雑魚だぞ? あんな奴より俺の方が薺さんに相応しいに決まってる! それなのに、何でっ)
「よし、全員集まれ!」
代表決定戦が終わり、盛り上がっているクラスを若宮はその一言で自分に注目させ、生徒達を集めた。京也の事を強烈に妬んでいた青木もすぐに意識をそちらは向けた。
「これでこのクラスの代表決定戦は終わりだ! これからこのクラスの代表を発表する、呼ばれた生徒は返事をしながらその場に立て! 青木 哲也!」
「はい!」
(そうだ、俺は楽斗とかいうあの雑魚の仲間に負けたがその後の五位決定戦で勝ったんだ、少なくとも実力では俺の方が上、あいつより俺の方がいい男だって事を薺さんに知らしめてやる!)
「泡島 奏基!」
「はい!」
(そういえば俺、美桜と戦ってねえけどあいつと俺どっちの方が実力が上なんだろ? まあ、薺さんとも戦ってねえけど、実力の違いは……一目瞭然だな)
「蘿蔔 美桜!」
「はい!」
(凛様と離れるのは絶対に嫌! そのためにも椿家に勝たないと!)
「佐伯 楽斗!」
「はい!」
(いやぁ〜、これで情報収集の言い訳も出来たな。これからは相棒やみんなに何の文句も言われずに他人の情報を知れる! これほど幸せな事があってたまるか!)
「最後に、薺 凛!」
「はい!」
(椿家にはもちろん、全部のクラスに勝って一番にならないと!)
「以上五名がこのクラスの代表だ。代表になった者はもちろん、代表になれなかった者も今後こいつらを追い抜ける精進していけ!」
「「「はい!」」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いや〜、今年の一年は豊作ですね。特に若宮先生の担当している三組! 将来有望な子達が集まってますね〜」
職員会議で歳は二十代後半といった所の男性がそう口を開いた。
『鳴細学園』の職員会議は基本的にゆるい部分がある。何故かは分からないが、そのおかげで色んな先生が何の気兼ねもなく意見を述べる事が出来ているので林道はそれをよしとしている。
「まあ、そうですね。ですが一年生としては良くても私からしたらまだまだ甘い所があります」
「さっすがは若宮先生、きっびし〜な〜!」
厳格な若宮に対して、見た目が二十代後半の男性は軽い印象を受ける。実際にその格好も大人にしてはだらしない所がある。服はシワだらけで無精髭もあり、髪の毛は寝癖で立っている。
歳は若宮が三十代前半で男性が二十代後半、それでも若宮が敬ったような態度を示すのは、彼の実力が関係しているからだろう。
「それに、月島先生の五組も同じくらい有望だと思いますが」
「若宮先生の言う通りですよ! なんて言ったって"
月島と呼ばれた二十代後半の男性と若宮の会話に、月島と同じく二十代後半で、セミロングにカーブのかかっている髪の女性が入った。
「それを言うのであれば天沢先生の二組にも四大名家の子がいるじゃないですか。確か……"
「ああ、あの子ですね。あの子……ちょっと性格に問題があって……」
月島に椿 春馬の名前を出された瞬間、天沢のテンションは先程までと打って変わって、一気に低くなった。
「で、でもまあ学年別クラス代表戦は楽しみですよね〜。ねっ、若宮先生!」
「いえ、私はそれほど」
「……そ、そうですか」
何とか天沢によって盛り下げられた場を盛り上げようとした月島だったが、それは若宮によって無駄に終わり、場には重い空気が漂っていた。
「はいはい、そこの先生方、重い空気を作らない」
「す、すみません」
「いや〜、すみません」
職員会議を進めていた先生からその重い空気について注意が入り、天沢と月島が謝るが若宮だけは平然としていた。
「あなたもですよ、若宮先生」
「え、私もですか? そうですね、確かに会話に入らなかったと言う意味では場を盛り下げていたかもしれません。そこについては申し訳ございません。このことにつきましては後ほど反省文を書かせていただきます」
「い、いえ。そこまではしなくていいのでとりあえず私の話を聞いてください。今からトーナメント表の組み合わせを決めるので」
「分かりました」
いつもながら、堅くなりすぎな若宮に職員会議を進めていた先生は戸惑う。
そしてそのまま職員会議はトーナメント表の組み合わせ決めへと移った。
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