魔法少女になる方法
森野コウイチ
前編
――助けて――助けて――
「な、なに?」
自分の頭の中に直接声が響いてきたから当然である。
それは彼女の10年の人生の中で、未だかつてなかったことだった。
――助けて――助けて――
頭の中に直接響いてくるのに、なぜかどの方向から聞こえてくるのかがわかった。
その方向を見れば、見慣れた公園の茂みであった。
そこへ向かって歩くと、声の発信源に近づいているのを実感する。
(黒――猫?)
彼女が見つけたのは倒れた黒猫だった。
よくみると額の部分の白い模様が星形のように見えなくもない。
――た――す―け―て―
声は弱々しくなっている。
野良猫をいちいち拾って助けていたらきりがないことぐらいは幼い彼女でも理解していた。
しかしながら、直接助けを求められたら助けるしかない。
彼女はその猫を抱えると、自宅へ走り始めた。
*
――ガチャ。
「ただいま~」
靴を脱ぎ、ドタドタと走ってリビングに向かうと、彼女の母親はのんびりとテレビを見ていた。
「おかえり~って、なにそれ?」
「たぶん、猫だと思う」
「そうじゃなくて、どうして拾ってきたの? 生き物を拾ってこないで言ったでしょ?」
「助けてって言われたから」
「誰に?」
「この子に……」
「気が狂ったのかしら?」
そう考えるのも仕方がないかもしれないが、酷い言い方である。
母親は猫を観察し、
「ケガはしていないけど弱ってるみたい……」
「どうしちゃったのかな? 病気なのかな?」
――何か――食べさせて――
黒猫は語りかける。
その“声”は穂乃香にしか届かない。
「お腹減ってる見たいだよ? お母さん、何かある?」
「う~ん、でもうちってネズミいないしぃ」
「何言ってるの? 牛乳とか煮干しとかないの?」
「あるにはあるけど~、でも猫にあげていいのかよくわからないわ……」
――それで――いい――
「それでいいって言ってるよ」
「……そう?」
※創作物を鵜呑みにせず、実際に動物に餌をあげる場合は事前によく調べましょう!
穂乃香とその母は急いで猫の食事を用意した。
それらが眼の前に差し出されるやいなや、先程まで虫の息にも思えていた猫は目にも留まらぬ素早い動きで食事に飛びついた!
猫はひとしきり食べると、ある程度満足したのか、ゴロンと寝っ転がった。
穂乃香は試しにつついてみたが、特に大きな反応はなかった。
彼女は猫を抱きかかえると、二階の自分の部屋へ連れて行った。
*
次の日になっても、猫はまだ寝ていた。
「ほら、起きてよ」
「ムニャムニャ……もう食べられないよ……」
脳内で再生される寝言に穂乃香は少しイラッとした。
「カラミティエンド!」
穂乃香の手刀が猫の額を叩いた。
「あ痛っ……なんだよ……」
猫は仕方なく起き上がる。
「あなた、名前とかあるの?」
「……アル」
「なんていうの?」
「だから『アル』っていう名前」
「まぎらわしい名前はやめてよね」
「そんなぁ……」
「まぁ、いいわ。それじゃアルくん。さっそくはじめようよ!」
「なにを……?」
「決まってるじゃない? 契約よ!」
「は? 何の?」
「魔法少女の!」
「あ……え?」
「言葉を話す不思議な小動物が目の前に現れた! つまり、わたしを魔法少女にしてくれるんだよね?」
「え」
「すっかり元気になったみたいだし、もう大丈夫よね?」
「いや、まだ眠――」
「何か
アルの言葉を遮り、穂乃香は
「いや、そういうのはとくに……ま、まぁとりあえず冷静になろうよ?」
「わかってるわ、“敵”がいるんでしょ? 妖魔? 魔女? それともザケンナー?」
「あー、そうなんだ。敵がいるんだ。危ないんだ。やめておいたほうがいいよ?」
「わかってるわ、本当は私のチカラが必要――だけどか弱い女の子を危険に巻き込みたくない――そうよね?」
「そうなんだ、やめてお――」
「わたしにやらせて欲しいの! お願い、アルくん!」
「えー」
「ね?」
「とりあえず、今日は星の巡りが悪いから、また今度ということで――オヤスミ!」
アルは再び眠りについた。
「……」
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