彷徨える勇者の剣
齋藤 龍彦
第1話【放課後、用も無いのに学校なんかにいてはいけない】
『紹介文』(680文字)
夕方の、とある高校のグラウンド真ん中。そこに一本の〝剣〟が突き立てられていた。
少女がひとり、興味本位でその剣を引き抜こうとしていた。
その少女に想いを寄せる少年は〝この機会に二度目は無い〟との衝動に突き動かされ、少女の元へと急行する。
だがその剣はひとたび手に取ったら最後手が束に吸い付き離れなくなる——
〝少女の手の平に貼り付く剣〟
そして手にした人間の意志に関係なく身体を動かす——
〝少女からの斬撃を受ける少年〟
『剣』によって夕方の高校のグラウンドで殺人未遂事件が起こされた! それはまさしく呪いの剣だった。
事態は現実世界そのものとも言える『教師』と『警察官』、それに加えて『剣を手にした少女の友人(少女)』をも巻き込み進行していく。ファンタジーが現実世界に挑戦を始めたのだ。
時間の経過とともにさらに事態は混迷。剣は握り主を変え、そんな中遂に魔王が現実世界に姿を現し、剣の正体が明らかになっていく。それは手にした者に魔王との戦いを強いる魔剣だったのだ。
『魔王』は魔王ぶりを発揮し到底〝正しき者〟とは思えない。だがこの〝魔剣を使うやり口〟。——『魔王を倒そうとする者』も到底〝正しき者〟とは思えない。
しかし、災いを及ぼす〝物〟だけは現実にここに存在している。
『少年』、『ふたりの少女』、『教師』、『警察官』の5人の総意は必然的な流れで〝魔剣封印〟へと収れんしていく。
が、その魔剣を〝勇者の剣〟だと信奉する者達にはそのような目的は到底容認できるはずもない。
封印しようとする者達と、封印させじとする者達がぶつかる中、魔王はひとり〝魔剣・勇者の剣〟に挑もうとしていた————
===============(以下本編)===============
秋の日は午後三時を過ぎた辺りで、はや夕方の空気。中間テストも終わりこれから文化祭——という時節、ここは県立東王東(とうのう・ひがし)高等学校。文も武も、可もなく不可もなく、な県立高等学校。始まりは水曜日。
『高二男子・水神元雪(みなかみ・もとゆき)から見える光景』
「あぁ」と思わず声が出る。特になにかを考えて言っていない。テストは午前中で終わった。だから昼食の弁当食ったらとっとと帰ればいいものを動く気がまるで起こらない。あるのは空虚な開放感。充実感ゼロ。ただぼさっと自分の席にまだ座り続けている。
自分は並程度の高校の高校二年。二学期中間テストという、高校生活のど真ん中……折り返し点に差し掛かり『勉強』という分野で身を立てる事が絵空事になりつつある……いや、この高校に入学した時から絵空事だったかもしれないが——が——ぁ————
次に正気を取り戻した時、いつの間にか気を失っていたことに気がついた。なんか、急に睡魔が来た。一応昨晩、一生懸命テスト勉強をしていたせいかも……
なにか調子が悪いなぁ。肩というか首が妙に凝ってる。なんか凄く重たい。椅子に座りながら寝たせいか。
黒板上部にかかる時計に視線を送る。もう午後三時四十分になってる! どうしてこんなに長い間眠れたんだ?
教室には既にもう誰もいない。みんな帰ってしまっていた。
立ち上がる。椅子と机が床をこする音。やけに大きく響いたように感じた。さすがに『もう帰らなくては』と思いながらもなにげに窓の方向へと歩を進める。これまた深い意味などない。なにかを考えてはいない。
窓の外。グラウンドを見下ろす。ただ、なんとなく。
今週はどの部活動も休止期間でグラウンドには人気がない、と思ったら人がいた。何やら二人で戯れている様子。もうずいぶんと影が長い。その影の長さは身長の倍以上。その光景は否も応もなく『夕方である』としか言いようがない。
ちょうどその時、風の吹く方向が〝自分の方に向けて〟だったせいか——人の喋り声が耳に流れ込んできた。自然聞き耳を立ててしまっていた。自分はその声が良く聞こえるよう無意識に物音も立てずじっとしていた。
「見て見てーグランドに爪楊枝」と意味不明を喋るかん高い声。
女子の声か。
確かにグラウンドに何か一本棒のようなものが突き刺さっているのが遠目にも確認できた。ここから見ると確かに〝爪楊枝が地面に刺さっている〟ように見える。ひとりがその爪楊枝に見えるものに手を掛けている。もうひとりはすぐ傍で見ているだけで手を貸すそぶりはない。
一人の声が何か言ったようだがその中身まではよく分からない。分かったのはもう一方も女子だということ。
やがて一方が呆れ始めているであろうことが音にしか聞こえないその声の調子から察せられた。遂に愛想を尽かしたのか、その場を去っていくのが見えた。
少し前には自分は気づいていた。その二人の女子のうち一人の声の主が誰であるかを。知り合いの女子などではもちろん、ない。知り合ってなどいない。だけどこっちは向こうを知っている。
気がつけばスクバを肩に引っかけグラウンドへと身体が勝手に動き出していた。
パタパタパタパタパタパタパタ、パパン。履いた上靴が床を叩く音が調子よく誰もいない階段踊り場に響く。
もしも、もしも残った方が誰だか分かる方の女子ならこれは途方もないチャンスでは? そうだとしたら——だとしたら。今なら、いや、今しかない!
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