11-4 The colorful English world【カラフルな英語の世界】

 同人誌即売会が終わると、その日の内に新幹線で帰る予定であったから、駅へと向かった。


 出発の時間までは少し時間があったため、僕らは旅行の締めとして東京のラーメンを食べた後、本屋さんで時間を潰した。


「今日は本当にありがとうございました」


 適当に本棚の間を回って何か良い本はないかと探していた僕に、私服のジェシーが話しかけてくる。あれほど人の注目を集めていたジェシーが、今は私服で僕の側にいると考えると、なんとも感慨深い。


「お礼なんか言わなくてもいいよ。家族なんだし、僕だって楽しかったから」


「そうですね……。オレも楽しかったです」


「うん、それならよかった」


 この旅行は、ジェシーのために企画したようなものであるため、そのジェシーに何よりである。もちろん、僕もこんな旅行ができる機会は初めてであったし、一緒にジェシーと旅行ができてよかったと思う。


「ところで、どんな本を探しているんですか?」


「別に、どれを探しているわけじゃないけど、なんとなく見ているだけだよ」


「それでは、これなんかどうですか?」


 ジェシーは一冊の本を僕に手渡す。


「これは……」


 その本は、ジェシーと初めて見た映画の原作の洋書だった。


「ジョージならもう読めるでしょう?」

 

 ジェシーは、にっこりと優しく微笑む。


「そうだね。がんばって読んでみるよ」


 クリスマスプレゼントの京都の和菓子の詰め合わせは家族全員に宛てたものであったから、僕個人的にもらったプレゼントはこれが初めてであった……。


 帰りの車内では、ジェシーも愛も疲れからか、ぐっすりと寝てしまっていたので、僕はその本を読んで過ごした。


 今までに、英語学習者向けの小説というのは読んだことがある。そういう小説は、親切な単語訳がついていたり、そもそも本文が読みやすかったりと、僕のような人間によってとても親切な小説であった。


 そういう加減のない、純粋に英語だけで書かれた小説を読むのは、それが初めてである。


 映画を見たのは半年以上前とはいえ、ある程度のストーリーを覚えているし、今の僕の英語力なら洋書でもそこそこ読めるだろうと思っていた。しかし、読み始めてみると意外と正確に文章を捉えるのが難しく、ストーリーについていくのがやっとの状態であった。


 ただ、なんとなく読み進めていく内に、僕はなぜだか涙が出てしまっていることに気づいた。


 その小説は、泣くほど感動する話でも悲しい話でもない、大人も読めるが子ども向けのファンタジー小説だ。にもかかわらず、僕の頬には涙が流れていた。


 結局、新幹線が姫路に着くまでの間にその本を読み終わってしまう。この英語の世界の冒険は、それほど面白かったのだ。この感動を言葉で表す術は僕にはないが、おそらくこの感動は、ジェシーが初めてカラフルな世界を見たときと同じくらいのものだったと思う。

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