9-2 The declaration of war【宣戦布告】
「それはもちろん。誰だってTOEGGの名前くらいは聞いたことあるでしょう」
TOEGGとは、日本で最も有名な英語の試験の一つである。名前くらいは僕も知っていたが、主に社会人向けのものだと思っていたし受けたことはない。
「あれ受けてみようぜ。模擬試験もいいけど、あれは完全に受験用の試験だから、実践的に使われる英語とはちょっと違うだろう。その点、TOEGGは学生以外にも認知されている試験だし、実用的とまではいかないにしても、もっと厳しいリスニング試験もあるだろう」
「面白そうだな。でも、僕ら高校生でも受けられるのかな?」
模擬試験もいいモチベーションになったが、TOEGGという試験は模擬ではなく本番の試験であるから、より緊張感も出てさらにいいモチベーションになるだろうと思った。
「お金は五千円くらいかかるけど、子どもから大人まで誰だって受けられるよ」
「まあ、五千円くらいならなんとかなるかな」
当初、この英語の勉強には予算三万円を設けていたが、今のところ参考書代として、一万八千円ほどを使ったくらいで余裕はまだある。
TOEGGを受験するとして、受験費用といくらかは対策の参考書も買うことができるだろう。
「それでさ、また勝負もしようぜ」
勝負と言われて模擬試験の時のことを思い出す。あの時は負けこそしたが、翔に肉薄することはできた。今度こそ負けるつもりはない。
「なんだよ、またラーメンでも賭けるつもりか?」
「いいや……」
「じゃあ、何を?」
てっきり賭けというのは遊び的なものだと思っていたのだが、翔の表情が神妙なものになり押し黙る。
「ジェシーちゃんだ」
「……、はあ?」
今度は僕が押し黙る番であった。
「俺が譲二に勝ったら、ジェシーちゃんに告白する。譲二が勝ったら、ジェシーちゃんは譲二の好きにすればいい」
「いや、どういう意味だよ……」
言っている言葉の意味はわかるが、どう非難すればいいかわからない。
「俺がジェシーファンクラブの会長だったってことだよ。そして、お前に宣戦布告する」
今まで、僕は翔がなんで熱心に英語を勉強しているのかよくわからなかった。しかし、今それがはっきりとわかった。
つまり、翔は僕とまったく同じ目的で英語を勉強していたのだ。
英語を習得するには、なによりその目的意識が重要だというのに気づいていたが、翔はそれをしっかりと持っていたのだ。
あるいは、その目的意識は僕以上のものがあるかもしれないと、翔のぎらつく視線に僕は怖じ気つく。
こうして、最も信頼できた友が、突如として最強最悪の敵にもなってしまった。
発音の勉強の仕方が、僕と翔とでやり方が変わるのは必然だったのかもしれない。
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