6-3 Movie theater【映画館】

 お城見学が終わった後には、本日の社会科見学のもう一つのメインイベントとして映画館に行く。


 映画は、語学研修になるだけでなく、その国の文化を手軽に知れる媒体であるから、これも立派な社会科見学である。


 見る映画も事前に決めてあったのだが……。


「あれれ、今日はやっていないんですか?」


 ジェシーなら絶対に気に入るであろうとあらかじめ決めていた日本のアニメ映画は、昨日で公開を終了していたようだ。ちゃんとネットでチェックしていたはずなのに、そんなことにも気付かなかったのかと自分のことを責めたくなる。


「そうみたいだね……」


 今日一日、ずっと楽しそうにしていたジェシーが初めて落胆の表情を見せる。


「ちゃんと調べたんじゃなかったの? お兄?」


 愛も僕のうっかりに呆れているようだ。


「いや、調べはしたんだけどね……」


 アメリカでは、映画館の大スクリーンで日本語の映画を見れる機会なんてものは滅多になさそうだし、絶対にジェシーにも喜んでもらえると思っていたから、期待させるだけさせておいて、このざまではその落胆も大きいだろう。


「しょうがないですよ。他の映画でも日本語の映画が見られるならオレはいいですよ」


 ジェシーが落胆の表情を見せたのは一瞬で、僕が気落ちしている間にも、気持ちを切り替えて、映画の上映スケジュールを確認していた。


「そうだね……。じゃあ、どの映画がいい?」


 そういうわけで、当初の予定に変わり、アメリカのアニメ映画の日本語翻訳版を見ることになった。

 

 その映画は、ジェシーが見るのを望んでいた日本のアニメ映画ではなかったが、日本人の感性では作られないようなファンタジーの話で、僕はとても面白く見られた。

 

 一方で、今まで映画を見る時には意識しなかったことであるが、翻訳版というのには、なにか名状しがたい違和感があるように思えた。元々が英語で作られたものであるのだから、日本語に変える上で少し無理があるのは当然のことで、その違和感を強く感じる人の為に、字幕版というものがあるのだろう。


 僕は字幕版の映画を見たこともあったが、字幕の簡略化された表現ではストーリーの把握に支障があるし、英語を聞こうにも英語が分からないうえに速すぎて聞き取れないから、基本的には翻訳版を見ることの方が多かった。


「ジェシーは日本語の映画を速いと感じたりしないの?」


 ジェシーは、そのあたりどう感じたのだろうと、映画が終わった後に聞いてみた。


「うーん、最初はすごく速いと感じていましたけど、今はそうでもないです。それに、この映画を見るのは初めてでしたけど、小説は読んだことありますからね」


「そうなんだ……、それで面白かった?」


 ジェシーの日本語力を考えれば、そういう違和感はあるにしても、相当克服できているのだろう。


「はい、面白かったですよ。今日はありがとうございました!」


 そのジェシーの笑顔を見れば、日本語で表現されたものであっても、ジェシーがどれだけ映画を楽しんでくれたのかがわかった。

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