第56話

 田舎から帰ってきたドナと佑麻は、休む暇もなく今日はマムのおともで街の銀行へ出かけることになった。


 足の弱いマムは、ほとんど街を出ないのだが、銀行預金の事務処理でどうしても本人が出向かなければならないらしい。マムがドナをお伴にしたのは当然だが、佑麻も引き連れていったのは、彼以外の男達はみな忙しくてボディーガードの役に就けなかったからだ。


 市外へ出る交通手段は、長距離バス、タクシー、ジプニー、バイク、トライシクルとあるが、地下鉄がないマニラでは、市民はそれらを距離に応じて上手く使い分けて使用する。家を出て10歩ですぐ自転車トライシクルに乗り、ジプニーの捕まえられる通りまで出る。ジプニーでタクシーが集まるショッピングセンターまで行き、さらにタクシーで銀行まで。こうして乗り継いでいけば、家からほとんど歩かずに目的地に着ける。

 さらにショッピングの帰りなど、お金をセーブしたければ、4人から5人の家族全員を1台のバイク・トライシクルに同乗させ帰宅することも可能だ。実際通りでは、危険だと思えるくらいの量の荷物と人を乗せた小型バイクをよく目にする。

 また、女性にとっては夜遅くなった帰り道、ジプニーを降りてから自宅までの暗い夜道を、自転車トライシクルを利用していくことにより、危険な目にも遭わずに済むというセキュリティ対策にも貢献している。そう考えると東京とマニラの都市交通はどちらが便利なのか、佑麻にも判断が難しくなってくる。


 銀行に着いたマムは、ドナの手助けを得ながらカウンターで事務処理をし、サインを終えたところで待合ロビーに戻り、書類ができるのを待っていた。どの国の銀行も同じと思うが、この銀行のロビーも冷房が利きすぎている。あまりにも外気との温度差があったので、さすがの佑麻も銀行に入った時は体が震えた。


 マムの異変に最初に気づいたのはドナだった。


「マム、大丈夫!」


 見ると、マムの顔の血の気は失せて唇は紫色になっていた。そしてロビーの椅子から床へ崩れるように倒れ込んだ。

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