第57話

「マム!マム!マム!マム!」


 パニックに陥ったドナは、マムを抱きかかえて、ヒステリックに泣き叫ぶ。

 佑麻が駆け寄りマムの様子を見た。体が冷たかった。

 マムの状態を詳しく見ようとしても、相変わらずパニック状態のドナは、抱えたマムを離そうとしない。佑麻はドナの頬に平手打ちをした。


「ドナ、しっかりしろ。お前は看護師になるんだろ。わめいている暇があったら、救急車を呼べ!」


 佑麻の叱咤に我に返ったドナはようやくマムを離し、自分の携帯電話で救急へ電話した。


 佑麻は、マムに話しかける。反応はない。次にマムを床の上に上向けに寝かせると、片手を額に当て、もう一方の手の人差指と中指の2本をあご先に当てて、頭を後ろにのけぞらせた。気道確保を終えると佑麻は、自分の顔をマムの胸の方向に向けながら、頬をマムの口と鼻に近づける。マムの胸や腹部の動きがなく、呼吸音も聞こえず、吐く息も感じられない。


「ドナ、救急車を呼んだが?」


 目を見開き固唾を飲んで、佑麻のことを見守っていたドナだったが大きく「Opo!!(はい!)」と返事をする。


「ならば、AED(自動体外式除細動器)を探して来い。必ず銀行にはあるはずだ!それから、銀行のスタッフに言って、マムを周りの人から見えないようにカーテンで囲ってくれ」


 ドナは、叫びながら銀行のスタッフに指示を飛ばすと、みずからも駆け回ってAEDを探しまわった。


 佑麻はマムの気道を確保したまま、額に当てた手の親指と人差指でマムの鼻をつまみ、自分の口を大きくあけてマムの口から空気が漏れないようにして、息を約1秒かけて吹き込んだ。

 マムの胸が持ち上がるのを確認すると、いったん口を離し、同じ要領でもう1回吹き込む。2回の人工呼吸の後、ただちに胸骨圧迫を開始。

 胸の真ん中を、重ねた両手で「強く、速く、絶え間なく」圧迫し全身に血液を送る。強すぎれば肋骨が骨折することを意識し、加減しながら胸骨圧迫を30回連続して行った。そして再び人工呼吸を2回。

 この胸骨圧迫と人工呼吸の組み合わせ(30対2のサイクル)を、絶え間なく続けていると、佑麻のもとにAEDが届けられた。


 佑麻は、AEDのふたを開け、電源ボタンを押す。そして「マムごめんね」と言いながらマムの衣服を取り除き、胸をはだけた。 電極パッドを袋から取り出し、シールで胸部にしっかりと貼り付ける。心臓をはさみ、ひとつは右前胸部、もうひとつは左側胸部の位置。電極パッドを貼り付けると佑麻は「体に触れないでください!」とすべての人を遠ざける。

 自動的に心電図の解析が始まった。やがて、AEDが電気ショックを加える必要があると判断し、自動的に充電が開始される。数秒の後、充電が完了すると、「ショックします。みんな離れて!」と再び佑麻は周りの注意を促し、誰もマムに触れていないことを確認すると、ショックボタンを押した。

 マムの体が瞬間痙攣する。それを見て佑麻は、ただちに胸骨圧迫を再開。

 心肺蘇生法を再開して2分、再びAEDは自動的に心電図の解析を始める。同じ手順を繰り返し、2回目のショックの後に、マムがわずかながらうめき声を出した。

 そして、その声に呼ばれたように救急隊員が到着。マムはAEDを装着したままストレッチャーに乗せられ、病院へと搬送された。救急車には、ドナと佑麻が同乗した。

 ドナは心配そうにマムの顔を覗き込み、付き添う佑麻はそのドナの手をしっかり握っていた。

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