第53話

 夕食後、散歩に出ようとドナに誘われ、佑麻は喜々として後を追う。


 久しぶりに手を繋いで田舎道を歩いた。しばらく歩くと、平屋の立派な田舎家にたどり着く。ここもドナの親戚の家らしい。

 家主は品のいい初老の女性でドナの遠縁の伯母にあたる。今は引退しているが、もと大学の教授だったそうだ。二人がのぞくと、伯母は前庭で下働きの女性に髪を切らせていた。久しぶりの来客だと、大袈裟と思えるくらいの喜びようでふたりを迎えてくれた。ドナは佑麻を友達と紹介した。


「こんな処まで連れてくるなんて…。地球上のどんな文化の常識に照らしあわせたって、そんな仲であるわけがない」


 伯母はそう言ってまるで信じない。


 女同士のおしゃべりにしばらくつき合っていた佑麻だったが、手持無沙汰であたりを見回しているうちに、年代物のこの田舎家に関心を持ち、家の中を見学させてくれないかとドナを通じて伯母に申し入れた。もちろん伯母は快諾してくれた。


 東南アジアらしい熱帯植物と石で構成されたリビング。数世代にわたり家主に仕えている家具たち。それらが、開け放れた大きな窓からわたるわずかな風にそよぎながら、百年前に定められた自らの居場所に静かにおさまっている。

 揺らぐろうそくの光と月光をたよりに、きっと精霊が住んでいると思えるような部屋を渡り歩いていると、やがて天井から虫除けのネットが吊られた小さなベッドルームにたどり着く。

 ベッドを見てはっとした。確かに精霊と見まがうような可愛らしい女の子が横たわっているではないか。しかし、よくみると様子が変だ。口を開き息はしているものの、見開いた瞳はジッと天井の一点を見つめ、微動だにしない。


「あら、紹介しようと思っていたけど、もう顔見知りになっていたのね」


 振り返ると、伯母がドナとともに、ベッドルームの入り口に立っていた。


「私の孫のメリー・ローズよ。メリー、ドナの彼氏のクヤ・ユウマよ。ユウマ、メリーと握手してあげて」

「はじめまして、メリー」


 佑麻は、メリーの手を取った。子供らしいみずみずしい肌だなと感じながらも、メリーからの生体反応は全くなかった。


「ごめんなさいね、ユウマ。メリーは6歳の時から、天使とのおしゃべりに夢中で、なかなか私たちに返事を返してくれないのよ」

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