第52話

 月曜の朝、佑麻は、朝早くから学校へ行くソフィアを見送った。


 真っ白な制服が眩しい。小学校は午前と午後の2部制。ソフィアは、今期は午前の部のスケジュールになっている。この国では、公立小学校の授業料は無料なので、貧しい家庭もそうでない家庭でも皆小学校へいける。

 どの地域も子どもの多さに教室や先生の数が追いついていないため、2部制をとっているのだ。そして子供達の親は、どんなに貧しくともとことん真っ白なシャツと制服を着せ学校に送り出す。服の白さに対してはなにか特別な意地があるようだ。


 ソフィアを送り出すと、ドナと佑麻は連れ立って長距離バスに乗った。マムの命令で、田舎にあるドナの親戚の畑を手伝いに行かなければならない。実は、田舎はちょうど野菜の収穫期で、手伝いを理由に、マムの大好きなアンパラヤ(ゴーヤ)やタロン(ナス)を大量に分けてもらうのが目的だ。


 3時間ほどバスに揺られて、ようやく目的地であるNueva Ecija(ヌエバ・エシジャ)へ到着。

 親戚達から手荒い歓迎を受けたのち、早速畑へ移動し収穫作業となった。初めての佑麻は収穫作業のやり方などわかるはずもなく一向に仕事が進まない。それでもドナは辛抱強く指導し、佑麻がやっと作業のコツが飲み込めた頃には、もう昼になっていた。


 昼は、畑に食べ物を広げて作業しているみんな一緒に昼食を取る。ランチは、バナナの葉に包まれたスーマン(フィリピン風ちまき)だ。ドナは、器用にバナナの葉をむいてスーマンを渡したり、水を渡したり。甲斐甲斐しく佑麻の世話をする。


「ドナや。畑仕事もできない男に惚れるとは、さぞかし夜は上手なんだろうね」


 親戚の女性達にからかわれて、ドナは顔を赤くする。

 片言のタガログ語を理解する佑麻は、『Garin mo(あなたは上手だ)』だけ聞き取れた。


「だろ、何をさせてもうまいんだよ。僕は」


 仕事ぶりを自慢するつもりで囁いたが、なぜかドナは、さらに顔を赤くして佑麻に肘鉄をくらわすのだった。


 午後、佑麻は脇腹をさすりながら日が傾くまで作業に励み、その日は親戚の家へ泊まることになった。

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