080 実践 (1)

 ガンツさんの店を出た後は、駆け足で森へ向かい、奥へと進む俺たち。

 そこで早速、ハルカたちの剣――小太刀でいいか――が役に立った。

 いつもはトーヤの剣で藪を払っているのだが、切れ味は悪いので、枝を折る程度にしか効果が無い。だが、小太刀の場合は、スッパリと切ってくれるので、道作りが捗るのだ。

「切れ味の良さは見事ね」

「そうですね。雑に扱っても大丈夫なのはありがたいですよね」

 藪の切り払いだけを考えれば、マジックバッグもあるし、なたと草刈り鎌を買ってくれば良いだけなのだが、そのためだけに出し入れするのは面倒なので、小太刀だけで済むというのはやはり便利なのだ。

「そろそろ、オークたちの領域だが……ターゲットとしては10匹前後だよな?」

「そうね。それ以下のグループがいれば、それはそれで普通に狩れば良いと思うけど」

「20匹とかそう言うグループでの行動は……ないか?」

「食糧確保のための狩りと考えれば、可能性は低いんじゃないかしら? 以前偵察した巣、100匹とかは居なかったんでしょ?」

「そうだな、索敵した範囲だと、50匹程度だったと思う」

 その時に巣に居なかったオークを考慮しても、100匹までは行かないだろう。

 さすがに50匹も巣の外をうろついていれば、俺の索敵にもっと引っかかっているはずである。

「オークの全数がどのくらい居たかですよね。オークリーダーが複数いるのは確定でしょうが、オークキャプテンがいるのかどうか……」

 俺たちの遭遇したオークリーダーが、オークの巣、唯一の上位種と考えるのは、さすがに都合が良すぎるだろう。

「オーク30匹あたりオークリーダー1匹、オークリーダー30匹でオークキャプテン1匹と考えるのは単純すぎか?」

「その計算で行くと……オークキングは81万匹のオークの頂点、って事になるよ?」

 トーヤの言い分に、素早く計算したユキが疑問を差し挟む。

「さすがにそれはないか……?」

「この世界の人口を考えれば、簡単に国が滅ぶレベルだろ、それ」

 いくらこの世界の人間が身体能力高めと言っても、一般人がオークを斃せるようなレベルではない。何となくの感覚でしか無いが、門番をしている兵士でも少し微妙だと思う。

 そう考えれば、81万匹というのは、非現実的である。そこまで増える前に普通に国が滅んでいるだろう。

「上位種10匹で、一つ上の上位種なら?」

「それなら3万匹だから、まだ現実的?」

 それでも国が滅びそうなレベルではあるが。

「仮にそれぐらいを想定すれば、オークリーダーが後2、3匹、オークキャプテンはいないって事になるわね」

「一先ずはそう仮定して行動するか。俺の索敵もある。危なそうなら逃げれば良いしな」

 強敵相手なら、接敵前に逃走に移れる。安全性確保に於いて、【索敵】スキルの有用さはダントツである。

 これがあるからこそ、俺たちの行動が成り立っていると言っても過言ではない。

 方針を確認した俺たちは、オークの巣を中心として、その周囲をオークのグループを探して歩く。半周ほどした時点で俺の索敵にオークの集団8匹が引っかかる。オークリーダーらしき反応もないのでカモなのだが……。

「どうする?」

 もしもの時を考えると、街道に近い側で戦いたい。

 この位置で戦闘になると逃走が必要になったとき、逃げられる方向が制限される。森の奥とオークの巣の方向は除外されるため、左右どちらかにしか逃げられない。

「8匹なら大丈夫じゃない? ナオとユキで4匹始末できれば、戦闘自体はすぐに終わるでしょうし、例の袋もあるわけだから」

 でっかいマジックバッグか。

 はっきり言って、戦闘中よりも解体中の方が危ないんだよなぁ。

 血の臭いを撒き散らすし、解体中は武器を手放していて手は脂まみれでとっさに武器を掴んでも戦いに支障が出る。かかる時間も戦闘よりも長い。

 索敵を怠ることはないので、不意打ちの心配はあまりないが、獲物を放置して逃げることになるのは業腹である。

「分担は?」

「ユキとナオはさっき言ったとおり、後方の4匹を攻撃。可能なら一撃で斃して。私はその1匹前。ナツキとトーヤは前の3匹をよろしく」

 ハルカの指示に全員が頷いたのを確認し、オークの方へ向かう。

 最近は少し経路にも注意して、風下から近づくようにしている。気にせず近づくと、結構な距離からでも気付かれているっぽいんだよな、オークの場合。多分、鼻が良いんだろう。

 足音の方は、今のところ【忍び足】を持っているのは俺とユキだけだが、それでも以前に比べれば全員が静かに行動できるようになっているし、森ではいろんな音に紛れるので、あまり心配はしていない。

 そうやって近づくこと暫し。オークたちに反応があったのは、その姿が視界に捉えられるようになってからだった。

 完全に不意打ちできるようになるには、要精進ってところか。

「来るぞ!」

 こちらに気付いたオークがドシドシと近づいてくるのに合わせ、俺たちも最適な位置へと移動する。

 ナツキとトーヤの間合いに入る直前、俺とユキはタイミングを合わせて『火矢ファイア・アロー』を発射、倒れた仲間に動揺したオークに2人が切り込む。

 ナツキの槍は一撃必殺。身長の差を利用して、顎下から頭を貫く。

 トーヤは剣で膝を砕いて崩れてきたオークの頭を一撃。

 1匹はハルカの矢を3本受けて倒れ、残りの1匹もナツキの槍、それにトーヤの追い打ちを受けてすぐに沈んだ。

「ふぅ……」

 その結果を見て俺は息を吐く。戦闘時間としてはほぼ一瞬。

 オークに殆ど抵抗する間も与えずに斃しきり、俺やユキは武器を振るうことすらなかった。

「この数だと余裕があるね」

「そうだな。【筋力増強】のおかげで威力も増したし」

「そういえば、膝を砕いていたな」

 かなり嫌な音を立てていた。その直後の頭蓋骨を砕く音もアレだったが。

「前回は攻撃しても砕けなかったからなぁ」

「ん? たしか、最初に出会ったときに折っていなかったか?」

「あれは【チャージ】を使ったシールドバッシュだろ? 普通に剣を振っただけだと、ダメだったんだよ」

 助走無し、膂力だけで砕けるようになったのが進歩、ってことらしい。

「解体のことを考えると、微妙だけどね。一番綺麗に斃すのはナツキよね」

「うっ……そう言うなよ、ハルカ。崩さないと届かないんだから」

 3メートルほどの高さにあるオークの頭は、トーヤが普通に剣で攻撃するには高すぎるのだ。

 前はジャンプして直接攻撃を狙ったのだが、その時に受け止められて以降は控えているらしい。空中にいる状態は、案外無防備になるしな。

「ナツキみたいに、下から狙うことはできないの? 槍みたいに鋭くはないけど、刺さらないわけじゃないでしょ?」

「いや、ナツキは毎回、あっさり成功させてるけどさ、腕の隙間を縫ってあそこを的確に貫くって、めっちゃ高度だぜ?」

「あぁ、俺も無理」

 狙ったことはあるが、普通に対峙している状態で狙うのはほぼ不可能である。不意打ちでも、多分俺では無理だろう。

「そうなの? さすがね、ナツキ」

「恐縮です」

 照れたように微笑むナツキ。だが、褒められた内容はその表情に似合わない、物騒な中身である。

「ねぇ、それより早くオークを片付けない?」

「えぇ、そうね」

 頑張って作った例のマジックバッグ。それを女性陣3人が広げ、そこに俺とトーヤで運んできたオークを突っ込む。このサイズのオークを2人で苦労なく運べるのも【筋力増強】のおかげである。

「しかし、こうやって見ると異様だね……」

「はい……」

 ユキとナツキが言っているのは、オークがマジックバッグに入る様子のこと。

 ハルカたちが作った袋はちょっと変わった縫製で、直径2メートルぐらいの楕円形に広がるにも拘わらず、その深さは20センチほどしかなく、そこに3メートルほどもあるオークの巨体がするりと飲み込まれていく様はかなり不思議な光景である。

 これまでもマジックバッグに大量の荷物が入るところは見てきたが、『1つなら普通に入る』物が何個も入れられる光景と、『1つも入らない』サイズの物が飲み込まれる光景は一線を画している。

「いいじゃねぇか、便利なんだから」

「さすがトーヤ、単純ね」

「不思議と言ったら、魔法全般が不思議だろ? 『そういう物』と言う認識で良いと思うがな。――よし、これで最後!」

 8匹目のオークを放り込み、広げていたマジックバッグを畳むと、そのサイズはレジ袋に突っ込める程度にまで小さくなる。この中にトータル2.5トンぐらいのオークの死体が……うん、トーヤの言うとおり、考えるのは止めよう。

「どうする? もう森から出て解体するか? それとももう少し戦うか?」

「あっさり終わったし、このままぐるりと回って、見つかったら戦う、無ければ帰るで良くないか?」

「そうね。私たちの武器もまだ使ってないし」

「いや、ハルカがそれを使う状況って、ヤバい状況だろ? 使われない方が良いんじゃ?」

「でも、練習は必要だし……次、余裕があったら、3匹残して、後衛組で戦ってみる?」

「賛成! あたしも成果を試したい!」

 俺としても反対する理由はないので、頷いておく。

 上手く都合の良い敵が見つかれば、だが。

「それじゃ、行くか」


 結果として、帰るまでにオーク10匹の集団と遭遇し、戦闘することになった。

 半端な数はトーヤとナツキ、それに魔法でサクッと斃し、残った3匹を俺たち後衛組が1匹ずつ担当し、トーヤとナツキはいつでもフォローには入れるように側で待機。

 俺は比較的簡単に斃せたのだが、ユキは新しい武器になったことで少し苦戦しながらも、きっちりと1人で斃した。

 それに対し、ハルカはこれがほぼ初めての接近戦だけあって時間がかかり、全員に見守られた状態で戦う事になってしまったが、結局は誰の手を借りることもなく斃しきった。

 残念ながらオークの皮は売り物にならない状態になってしまったが、ハルカでも小太刀でオークの皮を切り裂ける事が解った事は収穫だろう。

 これらのオークもやはり巨大マジックバッグに収納し、森の外まで移動してから全員で解体作業にかかる。

 全部で18匹分のオーク。肉の量も膨大だが、廃棄する部分も膨大である。

 森の中ではそのまま放置するのだが、街道から見えるこの場所に放置するには多すぎる。

 そのため、今回はユキの土魔法を使ってきっちりと後始末を行い、俺たちは街へと引き上げたのだった。

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