061 オークを求めて
あれから昼食を挟んで歩き続けること数時間。
いつもならそろそろ帰路につく頃になっても、マジックキノコの採取は捗っていなかった。
「これは……あまり効率が良くないかも知れないわね」
小休止のために休んでいると、ハルカが自分のバックパックを覗き込んでそう言い、ため息をついた。
今の段階で薬草も合わせ、多分4万レアほど。
雨での休みも考えると、5人分の稼ぎとしては確かにあまり良くはない。
「単体で見ると悪くは無いんですが、将来的なことも考えると……ですね」
「これは、大山椒魚を捕りに行くのも考えるべきかしら?」
そう言ってハルカは俺たちを見回す。
大山椒魚か。上手く捕獲できれば儲かりそうではあるんだよなぁ。
昨日、一応大きめのマジックバッグも作ったので、1メートルぐらいまでなら数匹まで対応できるし。
難点は、狩り場までの距離だが。
「私としてはオークを薦めたいですね」
「そうなの? ちょっと予想外ね」
別の意見を言ったのはナツキ。俺も少し意外である。
オーク討伐はトーヤが言いそうな意見で、ナツキはどちらかと言えば戦闘は避ける方向かと思っていた。
「理由は2つです。1つは、泊まりがけの遠征をするには準備が足りない上にコストがかかること。もう1つは、魔物を討伐することも安全を確保する1つの手段であること、ですね。所謂、キャラレベル、ですか? それも上げていくべきでしょう」
「……うん、説得力あるな」
「トーヤに言われたら反対したところだけど、ナツキが言うと違うわね」
「え、酷くない?」
「だって、トーヤだもん」
ウンウンと頷く俺とハルカ、そしてユキ。
トーヤは逆に俺たちに対して非難の目を向けるが、そこは普段の行い……というか、説得力だな。俺たちだってきちんと理由があれば無下に反対したりはしない。
「キャラレベルを上げるというのは私も考えていたから、反対はしにくい。私としてはしばらくは、ゴブリンを基本に考えていたんだけど……トーヤ、どう思う?」
しばらくの間唸って頭を捻っていたトーヤは、少し困った顔で口を開いた。
「う~ん………正直に言うなら、判断は付きにくい。ただ、ギルドで調べた情報と、これまで戦ったゴブリンとヴァイプ・ベアーの強さから論理的に考えるなら、1匹なら俺1人でも問題ない。ナツキがいればかなり楽。他の3人の援護があれば、楽勝。そんな感じ。もちろん、戦力分析上は、だがな」
「何匹までなら危険性が低い?」
「全員が冷静に行動できるなら、3匹まで。4匹になると危ない。安全マージンを取るなら2匹だろうな」
ナツキの方に視線を向けると、頷いているので彼女の判断もそうなのだろう。
まぁ、ナツキの槍レベルは4だ。俺の槍を貸せば、オークぐらい一撃で確殺しそうである。と言うか、普段から貸しているのだが。このままナツキの槍になるんじゃないだろうか。
俺は一応、魔法があるから、パーティー戦力として考えれば妥当なのだが、少し悲しい。
「他の魔物の乱入などの不確定要素も考慮するなら、2匹まででしょうね。ナオの【索敵】があれば大丈夫かしら?」
「今のところ、見落としたことは無いな」
【索敵】をごまかせる敵が居るのかは解らないが、今のところ、索敵可能距離であれば確実に判別できている。
但し、小鳥のような小さな動物に関しては、それを意識してかなり注意深く探らないと解らないので、小動物レベルの反応で危険な魔物がいるなら危ないかもしれない。
「それじゃあ、少し森の奥に足を踏み入れてみましょうか? 全員、体力は問題ない?」
「大丈夫だよ」
「はい」
俺も問題ないので頷く。今日は荷物が軽いので殆ど疲れていないのだ。
この身体は、森歩き程度では大して疲労しないのだから凄い。
「解ったわ。1時間ぐらいを目安に奥へ移動しましょ。それで遭遇が無ければ、残念だけど今日は引き返すわよ。さすがに森の中で暗くなるのは危険性が高いわ」
「了解」
そして俺たちは、安全性を高めるため、一度普段の探索エリアまで戻ってから森の奥へと歩き始めた。
森の奥へと歩き始めて10分あまり。俺の【探索】に3つの反応があった。
ゴブリンの反応よりも大きいが、ヴァイプ・ベアーよりは小さい。初めての反応である。
「反応が3つ、距離は80メートルぐらい」
「オークかしら?」
「解らないが、ヴァイプ・ベアーよりは弱そうだぞ」
「3つなら避けていくの?」
オークなら2匹までと決めていたから、反応がオークであれば避けるべきだろうが、まだ解らないんだよなぁ。
「取りあえず確認に行こうぜ。識別してなきゃ今後も困るだろ? 俺の【鑑定】があれば、遠くから見るだけでも良いんだし」
「そうですね。仮に相手に気付かれても、ヴァイプ・ベアーより弱いならなんとかなるでしょう」
「それじゃ、慎重に進みましょうか。ナオ、案内よろしく」
「了解」
これまでとは少し進む方向を変えて森の中を行けば、数十秒ほどで相手を確認できた。
幸い、相手はまだこちらには気付いていない。
「あれは、ホブゴブリンだな。ゴブリンよりは強いが、それでも大して強くは無いらしい。魔石は600レア」
「それは勉強の成果か?」
「おう。たぶんな。一応、【鑑定】に表示された結果だが、昨日読んだ資料に書いてあったことだから」
備忘録的効果だとしても、十分便利だよな。今は数匹程度しか遭遇していないが、今後遭遇する獣や魔物が増えたら、覚えきれないだろうし。
「取りあえず先制しましょうか。私とナオ、ユキはいけそう?」
「一応、『
例の如く、俺からコピーして簡単に使えるようになったんだよな。多少カスタマイズ(?)してある俺の『
「私がフォロー入れますから、大丈夫です」
「それじゃ、左から私、ナオ、ユキの担当ね。斃せなくても追い打ちを掛けるから、トーヤとナツキは敵がこちらに来たらお願い」
「おう」
「解りました」
俺はハルカ、ユキと頷き合い、魔法を準備する。
一番慣れていないユキに俺とハルカが合わせ、ほぼ同時に発射される魔法と弓。
だが、一番最初に着弾したのはハルカの矢だった。ホブゴブリンの側頭部に当たった矢はストンと頭の中に潜り込み、ホブゴブリンは少し身体を揺らし、そのまま崩れ落ちた。
それとほぼ同時に、俺の魔法が真ん中のホブゴブリンの頭の上半分を吹き飛ばし、少し遅れて到達したユキの魔法が、左側のホブゴブリンの顔を炎で包む。
同時に発射するとよく解るが、速度的にはハルカの矢、俺の魔法、ユキの魔法の順のようである。
威力重視でイメージしていたが、もう少し速度も考慮して魔法を使うべきか? ホブゴブリンには少し過剰な威力だったようだし。
逆にユキの方は威力が弱い。最初の頃に俺が使っていた初期状態の『
「うっ、あたしだけ討ち漏らし……あっ、逃げる!」
攻撃されて向かってくると思っていたホブゴブリンだが、一瞬で仲間2匹が殺されて怖じ気づいたのか背を向けて走り出そうとし、その次の瞬間、転倒した。
「よしっ!」
そう声を上げたのはユキ。
そしてホブゴブリンは立ち上がる暇も無く、追い打ちで放たれたハルカの矢を頭に受け、僅かに藻掻いてから動きを止めた。
「今、転けたの、ユキの魔法か?」
「うん。走っている敵にタイミングを合わせるのは難しいけど、走り出すのを邪魔するぐらいならね」
踏み出した足下を少し陥没させたらしい。
走り出そうとした時、わずか数センチでも地面が陥没したら、そりゃ転けるよな。『
「ナオの魔法は凄いね。同じ魔法なんだよね?」
「一応はそうだが、この世界、魔法の名前は目安でしかないからなぁ」
呪文を唱えると自動発動するわけでは無いので、込める魔力やイメージ次第で威力も消費も変わってくる。
尤も、ある程度呪文名と効果を固定していた方が、戦闘に使うときには戦術が安定するので、本来は威力別に違う名前を付ける方が良いのだろう。
「ホブゴブリンは初めてだったが、あんまり強くない感じか?」
「どうだろうな。取りあえず、急所に当たればハルカの矢、一撃で斃せるみたいだが……俺の場合、さっきの魔法なら連続だと3発程度、休み休みで数十発だな、たぶん」
「それだと、私とトーヤくんが参加すれば、10匹ぐらいは大丈夫な感じでしょうか」
「そうね、先制攻撃できれば、接敵までに私とナオで4匹ぐらいは減らせるでしょうし、私以外は接近戦も出来るわけだから……10匹以下なら斃すようにしましょ」
「了解~。……取りあえず、魔石を回収するか」
トーヤがホブゴブリンの頭をかち割り、魔石を取り出す。俺は、自分が吹き飛ばしたホブゴブリンの魔石を探すか……お、あった。良い感じに側に転がっている。魔石も壊れたかと心配したが、きれいで傷も無い。
グロテスクな作業をせずに済むし、頭を吹き飛ばすのは案外良い方法なんじゃ無いか? トーヤの方は苦労しているし。
「魔石の回収だけはまだ慣れないよなぁ……6千円、6千円……」
嫌な作業をお金の力で誤魔化そうというのだろう。そう呟きながらトーヤは作業を続け、俺が斃したヤツ以外から魔石を回収して、ハルカに『
作業にトーヤの剣が都合が良いのもあるだろうが、女性陣に任せず自分で率先してやるのはさすがだよな。俺なら……『
「ゲーム並みにエンカウントするならホブゴブリンでも儲かるけど、魔石回収と探索時間を考えると、割が合わないね」
「そうですね。特に場所が良くないです」
魔石のある位置は魔物毎に異なるが、その多くはゴブリンのような頭の中、もしくは人間で言えば鳩尾のあたり、身体の中心部分のどちらか。
当然、回収のしやすさで言えば後者である。ゴブリンがこのタイプであれば利益も上がりやすいのだが、通常のゴブリン、ホブゴブリン、その他の亜種、上位種すべてが前者のタイプ。
逆にオークがこのタイプらしいのだが、こちらは肉も売れるので、多くても2匹も斃せば街に帰ることになり、メリットが薄い。
なかなか上手く行かない物である。
「3匹斃して18,000円。わざわざ斃したいほどじゃないし、可能なら避けていくか。ナオ、判別できそうか?」
「うーん、慣れれば可能、だろうが、しばらくは判定をミスるかもな」
「それは仕方ないだろ。なぁ?」
「そうね。ただ、できれば斃すのは、ナオかユキの魔法にお願いしたいかな。魔石の回収的にね」
「了解。それじゃ行くか」
そうして俺たちは再び、オークを求めて森の奥へと向かった。
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