037 異世界、お食事事情

 久しぶりに食べた焼き鳥はとても旨かった。

 コタスは小骨が多くて少し食べ辛かったが、それが気にならないくらいに。

 ついでに、ハルカが調理した物とユキが調理した物も食べ比べてみた。

 ユキの物も十分に美味しいのだが、ハルカの物と比べると明らかに違いがあるのが解る。

 まぁ、例の如く、ユキの【調理】スキルが有効化されたので、次からは同じくらい美味しい物が出てくる可能性が高いのだが。

「しかし、このクーラスという鳥はちょっと硬いわね」

「そうですね。小骨が無いのは食べやすいですが、コタスに比べると少し……」

「そうか? 歯ごたえがあって、咬むと味があるからオレは好きだな」

「調理方法次第じゃないかな。焼き鳥には向いていないだけじゃない?」

 俺が最後に仕留めた鳥の評価は意見が分かれた。

 半々? ユキの評価は少し微妙だが。

 俺の意見はどちらかと言えば、トーヤに近い。

 ただ、硬いというのは女性陣と同意見なので、ミンチとか、牛タンみたいな薄切りが適しているかも知れないとは思う。

「でも、ハルカたちと合流して美味しい物が食べられるようになったのが、本当に嬉しいです」

「だよねっ! ホント、どうしてあの料理であんなにお客が来ていたのか不思議だよ!」

 それは多分、ユキとナツキの存在が影響していたと思うぞ?

 かなりの部分で。

 まさか他の店が、あれより不味い食事を出しているとは考えにくい。いや、考えたくない。

 それってつまり、この世界で旅すると、あれ以下の食事が普通に出てくると言うことになってしまうのだから。

「俺たちも、街に来て最初の食事は酷かったよなぁ」

「あぁ。思いっきり、期待を裏切られたよな。黒パン、もっと美味いと思ってた」

「あと、エールな。1回試した後は、もう要らねぇと思った」

「やっぱり、ナオくんたちも食事に苦労したんですね」

 しみじみ、と言った風にナツキが頷くが、ハルカは苦笑して首を振る。

「いいえ、その1回だけだから、あんな食事を食べ続けたナツキたちとは比べものにならないわ」

「確かに。俺たち、それなりに食事が美味い宿屋に泊まれてるからなぁ」

 紹介してくれた名も知れぬ――いや、名前も忘れた門番の青年、君は滅茶苦茶良い仕事をした。

 会いたいとはこれっぽっちも思わないが。

 ハルカに微妙な下心があったっぽいし。

 ユキとナツキも可愛いから。

「あたしたちの場合、選択肢が無かったからなぁ。1日100レアじゃ、外食する余裕も無かったから……」

「そうですね。リスクをおかせば別だったんでしょうが、やはり女2人では」

「その点、私はトーヤとナオがいたから助かった部分はあるわね。やっぱり、性別って影響するから」

 この1ヶ月弱、ハルカに声を掛けてくる男が皆無だったとは言わないが、俺とトーヤを押しのけて、と言うほどに強引なものは、幸いにしてなかった。

 トーヤが獣人でがたいも良いし、一般的に力が強いと認識されていることも影響したのだろう。

「あの状況で一緒に転移できる3人の絆が羨ましいよ」

 そう言ってユキが俺たちを微笑ましそうに見るが――それを言われると心が痛い。

 俺は解らなかっただけに。

 単に俺が鈍いだけだよな? 心の奥底で実は、なんて事は無い、はず。

 うぅ、自分の心が信じられないとか、くそぅ、邪神めっ!

「ところで、解体して思ったんだけど、猪って随分量が減るね? 半分ぐらい?」

「そうね。食べられる肉というなら、もっと少ないかも。脂と骨の部分も結構あるから」

 猪は解体するとき、内臓類はすべて廃棄するので、その時点でかなり重量が減る。

 皮と牙は売れるので回収するが、余裕が無いときは頭の部分、脂身の部分の順で廃棄することになる。重量のわりに、買い取り価格が低いので。

 トーヤは頭に塩を振って丸焼きにして食べていたが……その絵面は正直やばい。

 ――いや、美味いんだけどね。その場で焼けば持ち帰る量も減るし。

「持てる場合は脂も持って帰るけど、肉に比べると安いから」

 料理用の他、灯りとしても使われるらしい。

 俺たちの場合、魔法があるので灯りとして使うことは無いが、正直背脂を灯明油にするとか、腹が減りそうである。

「所謂、ラードですよね? それなら天ぷらが作れるかも知れませんね。サラダ油に比べると、少ししつこいかも知れませんが」

「天ぷらかぁ。いいねぇ。食べたい。塩だけでも十分に美味しいし」

 ユキが、うっとりという感じで口元を緩める。

 かく言う俺も、唾が涌いてくる。うぅ、食いたい。

「トンカツも作れるな! ご飯は無いが、カツサンドにしても美味いだろ」

「鶏の唐揚げもありだよなぁ……」

「はいはい、みんな、現実に戻って!」

 各々自分の好きな料理を妄想していた俺たちに、手をパンパンと叩きながら、ハルカが声をかけた。

「トーヤ、トンカツを作っても、ソースが無いわよ。そもそも宿屋暮らしじゃ料理なんてそうそうできないでしょ」

「あぁ、それがあったか……。親父さんとは大分仲良くなった気がするが、さすがに厨房は借りられないよなぁ」

 現時点で倉庫を借りていること自体、かなりの厚遇なのだ。

 いつも客がいるあの宿で厨房を借りるのは難しいだろう。

「ハルカ、家は借りられないのですか?」

「家、かぁ……。う~ん……今までは装備を調えてナツキたちを探しに行くことを優先してたから……」

「この猪2匹でどのくらいになるの?」

「多分、15,000ぐらいにはなるわよね?」

「だな。結構デカいし、もうちょっと行くか?」

「15,000!! あたしたちの給料、150日分!」

 それは、ユキたちの賃金が安すぎるだけだと思うが。

「まぁ、5人で割れば、1人3,000。日本円だと大まかに3万ぐらいと考えれば、将来の安定も考慮すると、コンスタントにこのぐらいは稼ぎたいな」

「3万円……肉体的な衰えも考慮して老後を考えると、そうなりますか。でも、社会保障のなさをも考えると、もうちょっと稼ぎたいですね」

 休み無しで働き続ければ年収1,000万以上だが、休みは欲しいし、年を取ると狩りなんてできないだろうしなぁ。

「荷物持ちが増えるんだから、もっと稼げるだろ。種族を考えれば、2人ともナオ程度には持てるだろ?」

「そう、なのかな?」

「ああ。俺、トーヤに比べると格段に力が無いから。それでも多分、元の世界よりは上だと思うが」

 当たり前だが、俺たちの中で一番体力面で劣るのがハルカ。

 トーヤが一番で、比較するならハルカの2倍の荷物を持って同じぐらいの動きができる。

「私の場合、元の世界だと若干ひ弱で、こっちでは身体が丈夫になるようなスキルを取りましたから、比較しにくかったんですが……やっぱりかなり違うんですね」

 ハルカとトーヤの間に位置する俺でも、元の世界よりは上。

 ユキとナツキがそれと同じくらいとなれば、単純比較でこの世界の女性は元の世界の男性と同じか少し上くらいの体力があると言うことになる。

「街に帰ったら、ユキとナツキのバックパックも作らないといけないわね」

「あ、それって自作なんだ?」

「ええ。【裁縫】スキル、ありますから、頑張りましょうね?」

「うっ……はい、頑張ります」

 ニッコリと笑うハルカに、一瞬言葉に詰まって頷くユキ。

 つまりは、コピーして【裁縫】スキルを身につけろって事だろう。

「はっはっは、ユキはできることがどんどん増えて羨ましいなぁ」

「ナオ、本当にそう思ってるなら、そのわざとらしい笑いは止めてね? ハルカ、スキル無しでも手伝えることあるんじゃない?」

「いや、俺は――」

「邪魔だから要らないわ」

「うぐっ」

 訓練があるから、と言おうとしたら、ハルカにバッサリ切られてしまった。

 でも実際、できる事なんて殆ど無かったんだよなぁ、俺たちのバックパックを作るとき。

 最初の1個は試行錯誤してハルカが作り上げたし、きっちりとした型紙も無いから、できたのはハルカが引いた線で布を切ること程度。

 あとは力の必要な革の加工に少し手を貸したぐらいか?

 その『力』もユキがいるなら不要になる。

「まぁ、良いじゃありませんか。私も手伝いますし、裁縫は私たち女性陣に任せてください。適材適所ですよ」

「うぅ、フォローありがとう」

 いえいえ、と微笑むナツキに癒やされる。

 ここで力仕事なら任せてくれ、と言えれば良いのだが、俺だと同レベルなんだよなぁ、筋力。

「ハルカ、このバックパック、自分で作ったのは、やっぱり節約のためですか?」

「いいえ。こういうタイプの鞄が売ってなかったから。自作の分、色々工夫してるから、かなり使いやすいわよ?」

 ハルカはそう言って、少し嬉しそうに2人に苦労した点や工夫した点を説明し始める。

 うん、気持ちはよく解る。

 かなり頑張って作ったこのバックパックだが、3人で相談しながら作った関係で、誰かに自慢する機会というのが無かったのだ。

 良い感じにできたら、やっぱり人に言いたくなるよな?

 意見を出したのは俺たちだが、実現したのはハルカ。

 それだけでも俺たちに自慢しても良いのだが、どういう物か判っているだけに張り合いは無かっただろう。

「ふーん。でもバックパックが売ってないなら、これ、売れるんじゃない?」

「ですよね。冒険者にはかなり便利そうですし」

 確かに。

 街で売っている鞄の値段、原価などを考えると、そう悪くない商売かも知れない。

 販売チャンネルがあることと、ユキとナツキが手伝ってくれれば、と言う前提はあるが。

 俺とトーヤだけだと、ほぼすべてハルカがやることになるからな。

「それは思わなくも無いけど……宿屋でやるのはちょっと」

「そういえば、家を借りられないかという話だったよな。ハルカ、その程度の金は貯まってるんじゃないか?」

「金額だけならまだ25万レア以上あるけど――」

「25万! 250万円以上!?」

 驚いて声を上げるユキ。

 だけど、実は俺たち、1,000万円ぐらい持ってたんだぜ? 数日前まで。

「でも、これを使うと、ユキとナツキの装備が買えないわよ?」

「10万レアもあれば借りられないか? 日本の地方都市なら、一軒家でも100万円あれば1年程度は借りられるだろ?」

 この世界の賃貸の仕組みは解らないが、少なくともラファンの街は都会と言うほどではない。

 田舎寄りの地方都市と考えれば、なんとかなりそうな気がする。

「そうねぇ……土地に関する部分は日本より物価が安いからなんとかなりそうだけど」

「残りの15万で2人の鎖帷子、ナツキの槍と、ユキの――ユキって何使うんだ?」

 ユキの武器スキルって何だったか、と思って視線を向けると、ユキは俺からすっと視線を逸らして呟いた。

「……武器スキルは持ってません」

「あぁ、うん、そうか。ユキの……ナニカぐらい買えるんじゃないか?」

「ナニカって何よ、ナニカって! 私にはどんな武器でも使える素質がある! ――ナオたちが持っていれば」

 『ナニカ』はちょっと気に入らなかったらしく、猛然と抗議し、最後にボソリと付け加える。

 うん、嘘じゃないね。

 かといって、金銭的余裕などを考えると……。

「あっ、じゃあ、棒だな」

「棒?」

「そう、【棒術】。トーヤ、以前買ったの、残していただろ?」

 誰も【棒術】スキルを使っていない上に、丈夫な武器も残っている。

「【棒術】が生える原因になったあれか。でもあれ、ほぼ鉄の棒だぜ? ユキに扱えるか?」

「【棒術】が得られればなんとかなるんじゃないか? 俺は無理だったが」

 マジで鉄の棒なので、俺の筋力ではまともに扱えなかった。

 スキルが無いので、適当に振ってみた程度だが。

 それでも俺と同等以上の力があるユキが【棒術】スキルを持てば、なんとかなるかも知れない。

「まぁ、覚えられるスキルは全部覚えてみるつもりだし、やれというならやるけど……」

「しばらくの間、メインは【土魔法】で、鉄棒は防具的に使えば良いだろ。俺たちのパーティー、ハルカ以外は前衛、中衛が可能だから、ユキが無理する必要も無いし」

「そうね、幸い、ユキは魔法系の素質を取ってるから、そっちを伸ばす方が良いかも」

 ユキは【土魔法】しか使えないくせに、なぜか、『火』、『水』、『時空』の素質だけは取っていたのだ。

 ユキに曰く、『素質って先天的な物で、後からは取れない気がしたから』らしい。

 実にグッジョブである。

 このへんは【スキルコピー】ではコピーできないし、恐らく取得もできないんじゃないだろうか。キャラメイク時の説明を見る限り。

「うん、トーヤとナツキが前衛なら、確かにあまり必要ないよね。解った。しばらくは魔法優先で練習するね」

 ユキはそう言って頷いた。

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