036 鳥を捌く

 ハルカたちの所に戻ると、猪2匹はすでに綺麗に解体され、肉、皮、牙に分別されていた。

 臓物類はすでに埋め終わったらしく、側に穴を掘った跡がある。

 すでに焚き火を起こしているのは、多分昼食のためだろう。

「お帰り。無事に狩れたみたいね」

「ああ、何とかな」

 俺が手に持っていたクーラスと、道中で拾ってきた薪を置くと、トーヤも同じようにコタス6羽と薪を置く。

「猪を焼こうかと思ったけど、待っていて正解だったみたいね」

「はっはっは、狩ってくるって言っただろ?」

 ギリギリだったのは言わなくて良いよね?

「担当は今置いたとおりだがな」

「おぉいぃ! これは、そう、作業分担ってやつじゃないかい? 獲物見つけたの、俺だよね?」

 秘密にしたのに暴露したトーヤにツッコみつつ、失地回復を図る。

 全部俺の索敵で見つけたんだから、少しぐらい手柄を分けてくれても良いよね?

「でも、ナオじゃなくてトーヤが仕留めているのは、そっちの方が良かったからでしょ?」

「えぇ、そこは、止むに止まれぬ事情がね?」

 そう、俺の魔法だとまだ命中率が低いという事情が。

「ま、良いわ。それより、せっかく獲ってきてくれたんだから、ナツキも解体してみましょうか」

「あ、はい。解りました」

「ユキは?」

「ゴメン、【解体】得たんだから、今回は勘弁して……」

「えっ、もう使えるようになったのか?」

「ええ、なんとか」

 ちょっとグロッキー状態のユキに聞いてみると、ハルカの指導を受けながら2匹の猪を解体した段階で、スキルが有効になったとか。

 ただ、2匹目の途中あたりからかなりスムーズに解体が進むようになっていたらしいので、おそらくはその時点で有効になっていたと思われる。

「それだけで取得できるとか、かなり便利だな。ナオでもまだ生えてないのに」

「さすがにそろそろ生えてきても良さそうなのにな。しかし、この程度で覚えられるなら、こりゃ、時間を取って、全員でユキにスキル講座をすべきじゃないか?」

「是非是非。役立たずは嫌だから!」

「そうね。みんなで教え合いましょうか。ユキみたいにスキルとして取得できるかは解らないけど、少しでも意味はありそうだし」

 知識系スキルは別にしても、多少でも【回避】などの肉体系のスキルを知っていれば、危険性を減らせるかも知れない。

 訓練の時間が取れる程度には稼げそうだしな。

「なぁ、それは後にして、鳥をさばこうぜ? ある意味、猪より面倒なんだし」

「それもそうね。分担は……コタスは私とナツキが1羽ずつで教えながら解体して、ナオとトーヤで2羽ずつ。クーラスは……ナツキにやってもらう、で良い?」

 そのハルカの提案に、全員が頷く。

「まずお湯に浸けるんだけど……トーヤ、鍋持ってきてたわよね?」

「おう、あるぞ」

 保存食を作るために買った鍋。

 中に物を入れてリュックの底に入れればそれほど場所を取らないので、一応、持ってきていた。

 それをトーヤが取り出すと、その中にハルカが魔法でお湯を注ぐ。

 熱湯までは行かないが風呂よりは大分熱い。

 その中に鳥を全部浸していく。

「ねぇ、ハルカ、それって魔法だよね? 何の魔法?」

「一応、水魔法の『水噴射ウォーター・ジェット』がベース。だけど、あまり関係ないわね。ユキも解ってると思うけど、魔法はかなり融通が利くから」

「その代わり、魔力消費が重いけどね。それは?」

「これはそこまででも無いわよ。温度は高いけど、噴射せずにチョロチョロと出す分だけ消費が軽減されるから」

 魔法と魔力の関係は、ある種、エネルギー保存の法則みたいなところがある。

 例えば『ライト』。

 10ルクスで10分光らせるための魔力と、100ルクスで1分光らせるための魔力はおおよそ似た値になる。

 『水噴射ウォーター・ジェット』にしても、噴出速度を速くすれば魔力が多く必要になるし、水の量を減らせば魔力は少なくて済む。

 但し、常にそれが適用されるわけではない。

 さっきの『ライト』の例でいえば、60,000ルクスで0.1秒光らせられるか、といえばそれは無理で、必要魔力が跳ね上がる。

 逆に0.1ルクスで1,000分というのも同様で、一般的には『ある程度の範囲を外れると魔力効率が悪化する』と考えられている。

 尤も、すべて魔法を使う人の感覚で測るしかなく、定量的な実験はできていないのだが。

「さて、そろそろ良いかな?」

 鍋から引き上げた鳥の羽を、各自むしっていく。

 この工程は毟りやすくするために行われるのだが、今までは鍋を持ち歩いていなかったので省いていた。

 やらなくても毟りにくくなるだけなので、そこは努力でカバーである。

「次は、内臓の取り出しね。傷つけないように注意して」

 猪などでも同じだが、腸や胃を傷つけてしまうと色々ヤバい。すっごくヤヴァイ。

 そこに入っている物を考えたら解るだろ?

 練習中、何度かやっちゃったんだよなぁ……。

 ハルカの『浄化ピュリフィケイト』のおかげで事なきを得たが、気分的にそれは自分たちでは食べずに売り払った。

 え、不誠実?

 いやいや、きちんと『浄化』してるから、汚くは無いんだよ?

 気分的な問題なだけ。

 知らなければ大丈夫。

「モツは食べられる部分も多いけど、今回はハツ心臓きもだけ取っておきましょ」

 猪のモツは、日持ちしないこと、それに綺麗に洗って下処理しないと臭いこともあって、基本捨てている。

 鳥の場合は、串を打ち、塩をして焼けば美味いので、大抵この2つは回収している。

 あぁ、肝は砂肝じゃなくて、肝臓の方ね。

「あ、要らない部分はこの穴に捨ててね」

「サンキュー」

 ユキが土魔法でボコッと穴を作ってくれたので、その中に残りの内臓を放り込む。

 適当に放置されていた羽も、ユキが回収して穴の中に入れている。

「あとは足を切り落として、皮に産毛が残っていれば軽く火で焙ってやる。最後に全体を洗えば完了だけど、これは私の『浄化ピュリフィケイト』でやるから大丈夫よ」

「――できました」

 すでに何度か処理している俺たちは2羽目に取りかかっているが、初めてやったナツキも殆ど遜色ない速度で1羽目を終わらせた。

「うん、上出来。その調子で、クーラスもやってみて」

「解りました」

 頷いてすぐにクーラスの羽を毟り始めるナツキ。

 見た感じ、さほど拒否感は無いのか?

 俺たちは先に猪の解体を経験していたから、『鳥ぐらい』という部分があったんだが。

 まぁ、食材と割り切ってしまえば、でかい魚を捌くのも、鳥を捌くのも似たような物かも知れないが。

「私はその間に料理するわね。ユキ、手伝って。【調理】スキル、コピーして。レベル1だから」

「おー、料理なら喜んで手伝うよっ! でも、料理にスキルっているの? あたし、料理できるよ? ナツキも上手いよね?」

「元の世界では多少は嗜んでいましたが、スキル自体は持っていませんね。取ってないからだとは思いますが……」

 ちなみに、ナツキの料理の腕は『多少』どころではなかった。

 食べる機会は少なかったが、恐らくハルカ以上。

 プロレベルと言っても良いと思う。

「そのへん、どうなの? ハルカ」

「はっきり言えば……」

「言えば?」

「全然っ、違う。私は普通に料理してるつもりなんだけど、例えばパラパラッと振った塩が絶妙な塩梅で料理が美味しくなるの。正直、不思議さで言えば一番かも」

 魔法なども不思議と言えば不思議なんだろうが、これはそう言う物と受け入れられる。

 それに対して、料理は元の世界でも普通にやっていたことだから、余計におかしく感じられるのだろう。

「そこまでかぁ。これは楽しみだね!」

「私も凄く興味があるんですが……取れないでしょうか?」

「この世界の料理人も持っているみたいだし、努力すれば生えてくるんじゃないかしら?」

「ですか。時間があったら、私も頑張って料理しますね!」

 拳を握って、ふんっ、と鼻息も荒く宣言するナツキ。

 かなり珍しい光景だなぁ。

 あれだけ上手かっただけに、やっぱり料理、好きだったんだろう。

「うん、それも街に帰ってからね。取りあえずユキ、焼き鳥を作るわよ」

「はーい」

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