030 進路相談
「さて、2人のお腹もいっぱいになったみたいだし、これからのことを相談しましょうか」
「あ、そうだね。それ重要」
「ちなみにあの時、夕紀に口止めしたのは、面倒事を避けたかっただけだから。友情レベルに差はないから安心してね?」
「え、今更フォロー!? 嬉しいけど、嬉しいけれども!」
数分前の話題について今更フォローを入れてきたハルカに、なんとも微妙な表情を浮かべる夕紀。
本気でハルカが夕紀と那月に差を付けていたとは思っていなかっただろうが、今この時点で言われると逆に怪しく感じてしまうのは俺だけだろうか?
「面倒事というと、目立ちたくないということでしょうか?」
「ええ。何か夕紀は看板娘的立ち位置だったし、そんな子と仲が良いとなれば、面倒事のフラグが立ちそうでしょ?」
「それはあるかもしれませんね。悠自身も以前にも増して綺麗になっていますし、尚くんとトーヤくんも一緒に居るとなると、変な言いがかりを付けてくる人もいるかも知れません」
「あとは、元クラスメイト。【ヘルプ】を取っていれば解ると思うけど、地雷スキル、多いでしょ?」
「『地雷』ですか。上手いこと言いますね。でも、関わってくる可能性は低いかと思いますよ?」
「そうなの?」
「はい。こちらに来て直後、結構目立つように、この街の大通りを往復しましたから。それに、それ以降はここで働いていますから……」
「接触するつもりがあれば、すでに接触しているか」
「面倒なスキル持ちも、多分淘汰されたあとだと思いますし」
「ねぇ、聞いて。那月ったら、【スキル強奪】持ちをボーナスキャラ呼ばわりしたんだよ?」
『ちょっとどうかと思わない?』と夕紀が聞いてくるが――
「……なるほど。ボーナスキャラか」
「上手いこと言うなぁ」
「そっか、ボーナスキャラだったんだ。失敗したかも?」
「こっちも同類だった!?」
頷く俺たちに夕紀が『どうして!?』とでも言うような表情を浮かべるが、那月の名付けは正に言い得て妙である。
元の世界での夕紀と那月のスペックを考えれば、持っているポイントは多分俺と同等以上。
そのポイントでスキルを取れば、よほどおかしな配分をしない限り、【スキル強奪】を使った相手は一発で寿命が尽きる。
つまり、一瞬だけスキルが消えるだけで自分の寿命が増えるのだ。
ホント、ボーナスキャラである。
俺たちも目立つように動けば良かったかなぁ……あ、俺たちが街に着いた時点ですでに死んでたから、意味がないか。
「どうやらマイノリティーはあなたの方だったみたいですね、『ボーナスキャラ』さん」
「「「えっ!!」」」
俺たち3人して驚きの声を上げた。
更にハルカは立ち上がり、夕紀の肩を掴んでがくがくと揺さぶりながら問い詰める。
「夕紀! あなた、まさか【スキル強奪】を!?」
「あうあうあう、違う違う! 私は【スキルコピー】。那月も紛らわしいこと言わないで!」
「うっかり具合は似たような物ですけどね。悠、安心してください。すぐに使わないように言いましたから、致命的なことにはなっていません」
「そ、そっか……。よかった、夕紀を見捨てることにならなくて」
夕紀の肩から手を離し、ホッと胸をなで下ろしたハルカだが、その言葉を聞いた夕紀は『そんなっ!?』とムンクの叫び状態である。
「ええっ!? 私、見捨てられる可能性があったの!?」
「状況によっては?」
小首をかしげて、しれっと答えるハルカ。
「悠のこと、親友だと思っていたのに!」
「いや、だってねぇ? もし夕紀が無差別にスキルをコピーしまくっていて、一般的なスキルを全然覚えられない状況になっていたら、ねぇ?」
「少なくとも、冒険には危なくて連れて行けないな」
同意を求められたので、合理的な回答をしておく。
もし街中の人たちから無差別にコピーすれば、一般的な冒険者が必要とするスキルは軒並み封印状態になっていただろう。
そうなればもう冒険者としては終わりである。
「まあ、本当にそうなっていたら、夕紀は街でお留守番。おさんどんでもやってもらってたかな?」
「でも、一般人からも取ってたら、料理とかの生活関連のスキルも全滅じゃないか? メシマズなおさんどんはどうなんだ?」
トーヤからそんな指摘が入り、気まずげに視線を逸らすハルカ。
「あー、その場合は、雑用係?」
「ひ、酷い……けど、納得もできるだけに、文句も言えない!」
「まぁまぁ。そんな未来は避けられたんですから、良いじゃないですか。私のおかげで。感謝しても良いんですよ?」
「ははぁ、ありがとうございます。那月様! いや、ホントに!」
悪戯っぽく笑う那月を本気で拝む夕紀。
聞いてみると、スキルを知った時点で那月が使用禁止を厳命、教えられそうな物だけを那月からコピーさせて、実際にいくつかは身につけたらしい。
「コピーさせてから教えると、案外簡単に覚えましたから、使い方次第では便利そうですよ、【スキルコピー】。悠たちからも教えてもらえば、全員の下位互換みたいな感じになるんでしょうか」
「『下位互換』!? 言葉の響きが悪いよ!」
「なら……『器用貧乏』?」
少し考えて那月がそんなことを言うが、やはり夕紀には不満だったようだ。
「ちょっとマシだけど、やっぱりネガティブ!? せめてマルチプレイヤーとか格好良く言って!」
「良し解った。マルチプレイヤー(笑)夕紀」
「マルチプレイヤー(笑)夕紀、オレたちは君の加入を歓迎する」
「私たちに付いてくるには努力が必要よ、マルチプレイヤー(笑)夕紀」
「やっぱり馬鹿にされているようにしか聞こえない!」
いや、だって、ねぇ?
マルチプレイヤーとかこれも微妙だろ?
『スーパーマルチクリエイター』とか変に横文字を使った肩書きって独特のおかしみがあるよな?
つい、「無理すんじゃねぇ」と肩をポンと叩きたくなる。
「まぁ、夕紀を
そんなことないよね? とハルカが確認すると、やはり那月たちは頷いた。
「いえ、仲間に入れてください。正直、ここはあまり労働条件が良くないので」
「そうだよねぇ。全く将来の展望が見えないし、何かあったらすぐに破綻する。いくら住み込みで食事付きとは言っても、丸一日働いて給料が100レアなんだよ!? 信じられる?」
「げっ、マジモンのブラック企業だ!」
「しかもあの食事だろ? 俺なら3日で心が折れる」
「弟子入りなら給与無しもあり得るけど……いくら何でも安すぎじゃない? 他に仕事はなかったの?」
昔の丁稚奉公のように、衣食住を保障して仕事を教える代わりに給与無しということはあるらしい。
ただし、夕紀たちの場合は『衣』の補償はないし、仕事は所謂ウェイトレス。
契約も非正規雇用以下でいつ首を切られるか解らない。
その状況で日給が100レアというのは、異世界ということを考慮しても安い。
「それが、この街、小さいし、働ける場所が少ないの。それに、休み無しだから探しに行く時間も無かったし」
「正確には、休んだ日は食費と宿泊費が請求される、ですけど」
「でも今日は初めて那月が休んで、探しに行ってたんだよね。何かあった?」
「いいえ、全く。街の外に出る物はありましたが」
俺たちが受けていた仕事のように、このサールスタットでも街の外での採取や狩り、魔物討伐などの仕事がゼロではないらしい。
ただ、それを那月と夕紀の2人で受けるとなると、どうしても危険が伴う。
聞けば那月の持つ攻撃系スキルは【槍術 Lv.4】と【体術 Lv.3】で、単純な攻撃力なら恐らく俺たちよりも高いのだが、夕紀の方は那月からコピーしたそれぞれがまだレベル1。
一応、土魔法がレベル1で使えるようだが、どうこう言っても女の子2人だけでは、人間の悪意という危険性も考えると、そういった仕事を受けるのは躊躇われた。
かといって、このままここで働いていても、日給100レアでは生活の目処は立たない。
那月たちとしては俺たちと合流できる可能性に賭けていた部分もあったのだが、もうしばらく来ないようであれば、多少無理してでもそういう仕事を受けるしかないという状況だったようだ。
「だって、着替えすらまともに買えないんだよ? 最初に着ていた服が丈夫じゃなかったら、あたしたち、かなり危なかったよね?」
「ええ、本当に。ここだけの話、着替えがなくて裸の夕紀が、私の布団に忍び込んできたことも――」
「え、それ言う必要ないよね!?」
よよよ、と泣き真似をする那月の言葉を夕紀が慌てたように遮る。
「ほう、夕紀はゆりゆりだったのか」
「那月と夕紀レベルならありだなっ。鑑賞対象として」
「夕紀、私はノーマルだから」
とか言いながら、夕紀から少し離れた位置に座り直すハルカ。
「あたしもだよっ! あと、トーヤ、不穏なことを言わない! そもそも、あの時は2人とも服を洗濯して干してたから、一緒に寝ようという話だったよね!?」
「そうだったでしょうか? 最近忙しかったですから、記憶が……」
どうだったかしら、とでも言うように小首をかしげる那月の肩を夕紀がガシリと掴む。
「覚えてるでしょ!? 多少忙しいくらいで、那月の物覚えが悪くなるわけ無いじゃない!」
「まあ、それくらい私たちはピンチだったのです。だから、悠たちと一緒に行けるのは、大歓迎です」
おう……サラリとその手を外し、平然とそんなことを言う那月にちょっぴり戦慄を覚えずにはいられない。
夕紀のフォローしてあげようぜ?
「まぁ、夕紀の百合疑惑はどうでも良いとして。何時出られる? 正直私たちとしては、早くラファンの街へ帰りたいんだけど……」
「どうでも良くないよっ!?」
「契約としては、明日、即でも良いんですが、さすがに申し訳ないので、明後日でどうですか?」
「あら、良いの? もう少しなら待てるけど」
「大丈夫です。最初に突然辞める可能性は伝えてますし、冒険者ギルド経由の依頼ですから」
このあたりはまるで元の世界の直接雇用と、人材派遣会社経由の間接雇用みたいな感じである。
逆に何の補償もなく、簡単に辞めさせられる事もあると言えるわけだが。
あと、さらっと無視されている夕紀が可哀想。
「夕紀も大丈夫よね?」
「うん、もちろん。あと、私は百合じゃないから!」
そんな夕紀の力強い主張と共に、その日の話し合いは終わったのだった。
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