020 保存食を作ろう (2)
場所を移して、宿の井戸横。
そこには簡単な竈と鍋が据え付けられていた。
もちろん、宿の親父さんに許可はもらっているので、問題は無い。
「さて、時間も無いことだし急ぐわよ」
肉の塩漬けに時間を取られたおかげで、日が沈むまであまり余裕がなくなってしまった。
元の世界ならまだまだ働ける時間でも、この世界では日が沈んだら仕事は終わり、というのが常識である。
一応、魔法で明かりを作って作業を続けることもできるが、それを使えるのは作業にも魔力が必要なハルカだし、第一に目立ちすぎる。
周りがほぼ真っ暗な中、煌々と明かりを照らして作業をしていれば当然人目を引くし、そこで扱っているのが高価な果実ディンドルとなれば、面倒なことになる可能性も否定できない。
「まずはお湯を沸かすわよ。これはナオ、お願い」
「了解」
「その間に私たちは、ディンドルのヘタを取って洗っておくから」
お湯を沸かすと言っても、今の俺では薪に火を着けるのが楽、程度のことしかできない。
薪の代わりに指先から『着火』を使い続ける、なんてことをすれば湯になる前に俺が倒れる。
なので、火が安定したら2人を手伝ってディンドルを洗っては、ザルに積んでいく。
このザルも今日買ってきた物で、梅干しを干すときに使うようなザル、と言えば解りやすいだろうか。
ただし、素材は竹ではなく、ススキのような物が使われている。
これは冬前に山に入れば簡単に入手できる草で、ザルのような物は農家が冬の手仕事として作って卸しているらしい。
おかげで、10個セットがかなり安く入手できたのだった。
半分ほどディンドルを洗い終えたところで湯が沸騰し始めた。
「ハルカ、結局どうするんだ?」
「どうと言っても、現状できるのはお湯に浸けることでしょ? 時間を変えて試してみましょ」
ひとまず1個ずつ、何もしない物、一瞬だけ浸ける物、1分から5分まで、1分刻みで浸けた物の7種類を作ってみることになった。
6個のディンドルを鍋に放り込み、順番に引き上げてザルに並べていく。
時計なんて無いので、感覚で数を数えるしかない。
「こういうときには時計が欲しくなるな」
「そうね。多少はこの世界の時間感覚になれてきたけど……」
この世界、時計が一般的ではないので、皆さん結構曖昧に動いている。
一応、日の出から日没までの間に5回鐘が鳴るので、おおよその時間は解るのだが、『もうすぐ鐘が鳴る』というのは解らないため、『何回目の鐘で待ち合わせ』などという事は難しいのだ。
だから、待ち合わせるなら『鐘が鳴ってから待ち合わせ場所に向かって、到着するぐらいの時間』程度の曖昧さを許容できないとやっていけない。
また、日没後には鐘が鳴らないので、酒場などの閉店は明確に決まっていなかったりする。
この宿だと親父さんの気分次第らしく、全員が帰るまで開いていることもあれば、客を追い出していることもあるようだ。
俺たちは夕食後は酒場に近寄らないようにしているので、階下から聞こえてくる声を聞くかぎり、ではあるが。
「よし! 多少の誤差はあると思うけど、これでいいかな?」
ザルに並んだ7個のディンドル。
見た目はほとんど差が無い。
流石に5分茹でた物と生の物を比べれば、茹でた方が若干しんなりしている気もするが、見比べなければ気付かない範囲だろう。
「思った以上に変化しないな?」
「あぁ、混ざったらまず解らないな」
「そうね。果物だとこんな感じ、なのかしら? さすがに果物をまるごと茹でた経験なんて無いし……」
だよな。普通、生で食べる物だよな。
精々ジャム作りぐらいだろうけど、あれだって茹でると言うより、潰して煮詰めるという感じだろうし。
「取りあえずやってみるわね……『
「「おおぉぉぉ!」」
まるでタイムラプス映像。
ハルカが手をかざして魔法を使った瞬間、丸々と膨らんでいたディンドルの実がみるみるうちに
「――っと、これぐらいかな?」
そう言って手を下ろすと変化は止まり、見事に乾燥したディンドルの実ができあがった。
その間、僅かに1分足らず。
現代の科学技術でも、なかなかできない技じゃないか、これ?
「すごいな……。何か、まさに魔法だな……」
「あぁ。なんか、ある意味『
……おや?
なんかトーヤさんに、現状俺の最強魔法(火魔法 Lv.1)がさらっとディスられたぞ?
否定できないけども!
「ふふん。褒めても良いのよ? 結構苦労したんだから、これ」
おぉ、珍しいハルカのドヤ顔である。
あまり努力を誇らないハルカが言うのだから多分、本当に苦労したのだろう。
ちょっとふんぞり返っているハルカに、俺とトーヤは顔を見合わせて拍手を送り、讃えることにした。
「よっ! ハルカさん
「ハルカさんのおかげで俺たちは生きています!」
「ハルカ様と呼んだ方がよろしいでしょうか?」
「むしろ、女神とお呼びすべき?」
「祭壇をお作りしよう」
「そうしよう」
息を合わせて讃え上げた俺たちに、ハルカは苦い顔をして両手を挙げた。
「――いいから。ちょっと褒めるだけでいいから。無駄に息を合わせなくていいから」
おや、どうやら俺たちの賞賛はお気に召さなかったようである。
もちろんワザとである。
「そか。じゃ、味見しよーぜ」
「だな。ハルカ、切ってくれ」
「あんたらは……。まぁ、いいわ。取りあえず4等分に……」
呆れたようにため息をついたハルカがディンドルを切り分け、それを俺たちが1切れずつ味見していく。
ふむふむ。生とはまた違う味わいだな。
甘いは甘いのだが、普通のドライフルーツのようにねっとりとした甘さではなく、ちょっとあんこのような感じもあって食べやすい。
茹で時間によって少しずつ違いはあるが、いずれにしても美味い。
今、ハルカは簡単に作ったが、普通なら何日も掛けて乾燥することを考えれば、高いのも頷ける。
「さて、全部試食してみたわけだけど……どれが良かった?」
ハルカにそう言われ、俺とトーヤは少し考えて答えた。
「オレは1分のヤツかな? 生のはもちろん、すぐに上げたヤツは皮が固くてちょっと苦い」
「俺は2分……いや、2分よりちょっと少なめぐらいが良い気がする」
このディンドル、トーヤが言ったように、茹でることで皮の苦みと硬さがなくなるようだ。
生では食べられそうにない外皮も、茹でてドライフルーツにすることで果肉と一体となってより一層美味くなる。
むしろ皮があるからこその美味さだろうか。
先ほどあんこに例えたが、まさに饅頭の皮のような役割だろうか。
あんこだけ食べるよりも、饅頭として食べる方がより美味い。そんな感じである。
「1分と2分か……う~ん、十分美味しいんだけど……そうね、これは、果肉にも火が通ってるのが問題? 急冷するのかしら、半熟卵みたいに」
ハルカは俺たちの意見を聞き、自分の分をちょっとずつ食べながら頭を捻っている。
ハルカ曰く、美味い半熟卵の作り方は、きっちり時間を計った上で、時間になったら即冷水に取ることらしい。
そのまま放置すれば、予熱で黄身が固まってしまうためである。
ディンドルも同じように、皮に火が通った時点で冷却すれば果肉は生のままになり、その方が美味しくできるのでは、というのがハルカの予想らしい。
「今度は2分で急冷を試してみましょ。ナオ、水を用意して」
今度は2個、ハルカの予想に併せて煮沸、急冷、乾燥を行って、半分ずつ食べてみる。
「――うん。さっきより美味しい。2人はどう思う?」
「あぁ。少しの違いだが、こっちの方が美味しいな」
「正直言えば、オレはあまり判らん。ので、判断は2人に任す」
賛成2、棄権1か。
「取りあえず今日はこの方法で作ってみましょ。後はディオラさんに試食してもらって、どれが市販のディンドルか聞いてみるしかないわ。仮に違っていても、美味しいんだから私たちで食べれば良いんだしね」
「そりゃそうか。明日以降も採りに行くわけだし」
金儲けじゃなくて自分たちの保存食なら市販品に合わせる必要も無い。
売れなくても、俺たちは当分美味い物が食べられてハッピー。無駄にはならない。
「よし、トーヤ、
「ん、解った」
「なるほど。それなら混ざらないな。頭良いな、ハルカ」
俺、別々の袋に分けて入れないと、とか思ってた。
明日、ここからギルドまで持ってく程度なら、楊枝程度でも十分だよな。
「区切り付きのお弁当箱でもあれば別だけど、無いからね。私たちはこれを量産していくわよ」
まさに量産。
バックパック1つ分あまりもあるのだ。
当然魔法を使うハルカの負担は重い。
だとしても、魔法以外の作業を俺たちが受け持つ以外、できることはないのだが。
結局その日は、疲れ果てて食事をしながら眠ってしまったハルカをベッドに押し込む事になり、俺も塩漬けの樽に全力で『
1人、魔法を使わないトーヤだけは体力が余っており、翌日聞いてみると、俺たちが眠った後でやる時間の無かった自主練を熟していたらしい。
頼もしくはあるが、なんともタフなことである。
◇ ◇ ◇
翌日の目覚めは、まあ、そう悪くはなかった。
魔力をギリギリまで使っていても、一晩ぐっすり眠れば翌日は問題ないのは正直助かっている。
数値化できれば解りやすいのだが、一度ハルカに何回魔法が使えるかで試してみたら、と言ったところ、『例えば、体重計を5キロの力で押さえる。これを100回、ズレもなく行える?』と聞かれて即座に断念した。
魔法の威力を調整できると言うことは、消費する魔力も可変であると言うことである。
それに、魔力の使用効率の問題があるため、同じ威力の魔法でも同じだけの魔力を消費したとは限らない。
最初に比べると俺たちも多くの魔法が使えるようになっているが、その理由が魔力量の増加にあるのか、それとも魔力の使用効率が上がっただけなのかは解らないのだ。
「さって、起きるか!」
すでに夜明けの鐘は鳴っているので、いつもベッドから出る時間は過ぎている。
俺がベッドから出て立ち上がり、ふと隣のベッドを見ると、珍しくそこにはハルカが寝ていた。
いつも俺たちが目を覚ます前に起き出し、身支度を調えているハルカがまだ寝ているあたり、やはり昨日の作業は結構な負担だったのだろう。
起こしてやろうかと手を伸ばし掛け、思い直して止める。
いつもなら朝食後、すぐに森に向かうのだが、今日は事前に冒険者ギルドに寄り、ディオラさんに試食してもらう予定なのだ。
とはいえ、流石に忙しい早朝にお邪魔するのは迷惑なため、今日は宿を出るまでかなり余裕がある。
ならば、まだしばらくは寝かせておいても良いだろう。
逆側のベッドを確認すると、こちらはすでにもぬけの殻。
トーヤの行動パターンから考えるに、自主練だろうか。
あちらにいたときのトーヤは朝早くからジョギングするようなタイプでもなかったし、熱心に部活に打ち込むようなこともなかった。
だが、こちらに来てからは時間を見つけては訓練に励むほど、熱心に剣の腕を磨いている。
それは俺も同じなのだが、やはり『やらなきゃ死ぬ。マジで』となれば、力の入りようが違う。
この状況で怠けられるのは、よほど考え無しか、根拠の無い自信家、もしくは『自分は主人公だから大丈夫』とか考えている痛いヤツぐらいだろう。
――クラスメイトにそういうのが居ないと断言できないのが怖いが。
もちろん俺はそのいずれでもないので、できる努力を惜しむつもりはない。
俺は槍を手に取ると、音を立てないように注意して部屋を出た。
それからしばらくして目を覚ましたハルカに、昨日かけてもらえなかった『浄化』を頼み、いつもより少し遅い朝食を食べる。
軽い食休みを経て、俺たちは乾燥ディンドルの試作品を持って冒険者ギルドへ向かった。
普段はあまり訪れることのない時間帯。
ギルドの中は数組の冒険者がいるだけで、すでに
ディオラさんの居るカウンターも空いていたので、早速そこへ向かう。
「おはよ、ディオラさん」
「あら、この時間帯は珍しいですね、みなさん。おはようございます」
「おはよう」
「おはようございます。例の試作品ができましたから」
そう言った俺に、ディオラさんは驚いて目を見開いた。
「もうですか!?」
「試食、お願いできますよね?」
「ええ、もちろん! ディンドルにはうるさい私が、ビシッと評価してあげますよ!」
驚きから立ち直り、一転して嬉しげな笑みを浮かべる。
『ビシッと』とか言っているが、どっちかと言えば『喜々として』って感じだよな。
とはいえ、試食して評価をもらえるのはありがたい。
乾燥ディンドル、手に入らないから比較対象がないんだよ。
なので、食べたことのある人に訊くしか無いのだ。
「ありがとうございます。助かります」
「いえいえ~~。――ふっふっふ、役得ですね」
何か小さく呟いてる。別に良いんだけど。
「ところでディオラさん、評価できるほど乾燥ディンドルを食べたことあるの? 高いんだよね?」
「……えぇ、色々ありますが平均して1,000レア程度はしますね」
おやおや、ディオラさんの視線が泳いでいるぞ? あえて言うなら、バタフライぐらいの勢いで。
「生のディンドルも、買うの厳しいって言ってませんでしたっけ?」
「乾燥ディンドルはそれより高い……」
「ついでに言えば、ギルドでも扱ってないよな。加工品だし」
俺たち3人の視線がディオラさんに向かう。
必死で視線を逸らしていた彼女は俺たちの視線に耐えられなかったのか、がばりと頭を下げて言った。
「すみませんっ! 偉そうに評価できるほどは食べてません! でも、食べたことあるのは本当なので、それとの比較はできます!」
きちんと聞いてみると、実際に乾燥ディンドルを食べたのは数回のみで、それらは人からの頂き物、自分で購入したことはないらしい。
俺たちからすれば入院したときなんかに、お見舞いとして高級フルーツをもらうような感じだろうか。
「いや、別に良いんですけどね、食べたことあるなら」
「そうそう。私たちは比較して欲しいだけだから。取りあえず食べてみて」
そう言ってハルカが試作品をディオラさんの前に並べた。
昨日も思ったが、見た目では差が解らないので、楊枝に着けた
評価に影響しないよう、順番をランダムに並び替える。
「8種類、ですか?」
「ええ。ちょっとずつ処理方法が違うのよ。食べ比べてみて」
「はい、それでは」
ディオラさんは右から順に、少しずつ何度も食べ比べながら、「ほうほう」とか「これは……」とか呟いたり、頷いたりしながら並び替えていく。
何か思った以上にしっかりと評価してくれてるな。
パクパクと食べて、「これが美味しい!」とかそんな感じだと思ったんだが。
「はい。できました。ここからこっちは以前食べた物より美味しいです」
印を見ると、加熱・急冷の物と、茹で時間1分、2分、3分の物だな。
「これは同じぐらい、これらはちょっと違うかな、って所でしょうか」
4分が同じぐらい、5分と生、一瞬浸けた物がダメって事か。
「ありがと、ディオラさん。じゃあ、売っているのはこれって事?」
ハルカが指さしたのは4分の物。
ディオラさんが同じぐらいと評価した物だ。
だが、ディオラさんはちょっと首を捻った。
「どう、でしょうか? これ、どうやったのか知りませんが、昨日作ったんですよね? いくら乾燥させていても保存状態によっては味も落ちるでしょうし、私が食べた物がどれくらいの物か判りませんから……」
そりゃそうか。
時間をおくことで味が劣化するのか、それとも熟成されて美味くなるのかは判らないが、全く変化無しということはないよな。
現時点で同じレベルでも、保存したときにどうなるかは判らない。
もしかすると、味は良くてもカビやすいとかの欠点がないとは限らないのだから。
う~む、それを考えると、保存食としては来年まで売り出せないって事じゃないか?
万全を期すなら、対照実験として市販の乾燥ディンドルを入手して両方を保存しないといけないだろう。
まぁ、この世界、消費期限の表記なんか無いから、気にせず売るという方法もあるが。
「ただ、これは文句なしで美味しいです! 結構、高く売れると思いますよ」
ディオラさんが「これ」と指さしたのは、俺たちにも最も評価の高かった加熱・急冷した物。
味の方向性としては間違っていなかったようだ。
「そっか、保存性じゃなくて、味を前面に出して売る方法もあるわね」
ハルカも俺と同じ事を考えていたのか、ディオラさんの評価を聞いて何やら頷いている。
「あ、でも……ハルカさん、ご自分で売るんですか?」
「まだ考え中だけど、朝市の露店とかなら売っても大丈夫よね?」
俺たちが仕事に行く前にチラリと覗いたりする朝市は、近辺の農家が作物を売りに来ていて、場所さえ取れれば自由に売買ができる。
ほとんどの市民は食料をここで調達していて、店舗で購入するのは日持ちのする穀物や加工品などがメインらしい。
俺たちが店を構えることはできないし、朝市では果物も売っているので、乾燥ディンドルを売るならここが最適――というか、他に選択肢がない。他の場所で勝手に露店を開くと、商業ギルドに排除されるのだ。
「もちろん店を出すこと自体は問題ないですけど、売れるかどうかは……」
少し言いにくそうに言葉を濁すディオラさんに、ハルカは首をかしげる。
「え? ディオラさん、高く売れるって言ったよね?」
「はい、高く売れる『価値』はあると思いますが……あの、比較的お給料をもらっている私でもなかなか手が出ないんですよ? 乾燥ディンドル。それを朝市に来る人たちが頻繁に買えるとは……」
「――あっ! そっかぁ……」
「確かに、朝市には馴染まないな……」
ディオラさんのその指摘に、俺たちは顔を見合わせる。
そのへんのスーパーで贈答用マスクメロンが頻繁に売れるかと言えば、まず無理だろう。
デパ地下とか、病院前の果物屋とかそういう所なら別かも知れないが、朝市は明らかに近所のスーパーの方である。
また、仮にそういう所で売ったとしても、この街の人の所得、人口を考えれば毎日100個は明らかに供給過剰である。
「くっ、いきなり頓挫したぁぁ」
ガックリと肩を落とすハルカに、ため息をつく俺たち。
自分たちで消費することも考えていたので無駄にはならないが、作業しているときには『ちょっと儲けて懐に余裕ができるかも?』とか思っていたのも確かなのだ。
「あー、結構頑張ったのになぁ」
主にハルカが。
「う~ん、ねぇ、生のディンドルとか日持ちしないよね? ギルドはどうやって処分してるの?」
「私たちは貴族や商人、それに加工職人とも繋がりがありますからねぇ。あの程度の量なら全く問題ないんです。乾燥ディンドルの場合は、他の街にも送りますからむしろ足りないですね」
「流石に紹介してもらうわけには――いかないよね?」
「えぇ、流石にそれは。卸しの手数料が私たちの収益源ですから」
苦笑するディオラさん。
判りきったことなので、俺たちも素直に引き下がらざるを得ない。
「あの、ギルドなら一括で買い取れますよ? 流石に小売りするよりは安くなりますけど、ハルカさんたちなら、販売に時間を使うより、その時間、他のことをした方が儲かるかと」
「それは、そうなんだよねぇ。2人はどう思う?」
「多少勿体ないが、俺たち素人が売るより任せた方が安心だろ。無理しても良いことないと思うぜ」
「オレも同感。狩りとかを頑張った方が良いんじゃないか?」
俺たちは商人じゃないし、そっち方面のスキルも無い。
変な商人に引っかかって詐欺などに遭う危険性を考えれば、冒険者ギルドに丸投げというのもそう悪い選択肢ではないだろう。
多少安くなるのも、保険料と考えれば仕方ない範囲だろう。
「わかりました。ではまた持ってきますね」
「ありがとうございます。あの、サンプルを1つもらえますか? いくらで買い取るか決めないといけませんので」
「でしたらこれで」
非常食用にと、早速いくつか持ち歩いていたうちの1つをディオラさんに渡す。
ちなみに、店で購入した非常食も持ち歩いているが、幸いなことに今まで活躍の機会は無かった。
以前、1つを3人で分けて味見したときには、初日の屋台以上の衝撃が俺たちの間に走ったものである。
干し肉が完成したら、非常食は乾燥ディンドルと干し肉へと即刻バトンタッチすることは確定事項だ。
「確かにお預かりしました。夕方――いつもの時間には決まっていると思いますので、お寄りになるなら、その時お伝えしますね」
「はい、よろしくお願いします」
俺たちはディオラさんに軽く頭を下げ、少し気落ちしながら冒険者ギルドを後にした。
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