002 やって来ました、異世界! (1)

 視界が戻った時、俺は草原に立っていた。

 視線を下げると、やや華奢になった感じの自分の手が見える。

 横を見ると、俺と同じように自分の身体を確認している美形のエルフが1人。

 金髪で長い髪。

 美女の一歩手前、間違いなく美少女なその面影にどこか親しみを覚える。

「えっと、アナタは、アナタは、はるかさん?」

「そういうアナタはなおかな?」

「Yes. その通りです」

 問い返されて首肯する俺。

 改めてみると、確かに別の容姿だが、どことなく悠の雰囲気を残している。

 身長は……少し低くなったか?

 悠は160後半で比較的背が高く、プロポーションも良かったが、今目の前にいるエルフはそれより少し低く、プロポーションの方も残――もとい、スレンダーになっている。

「――なによ?」

 そんな俺の視線を感じたのか、目を細めてこちらを見つめてくる悠。

 声がちょっと低いぞ。

「いやいや、美人になっちゃって、まぁ! さすがエルフだな!」

 俺は慌てて首を振り、話をそらす。

 もともと悠は綺麗な顔をしていたので、そんなに違和感は無いけど、何というか人間離れしている。

 あ、人間じゃないか。

「ふん。尚だってエルフにしてるじゃない。――思った通りね」

 そんなことを言ってちょっと視線をらす悠。

 頬がちょっと赤いので照れているのかもしれない。

 うん、普段、幼馴染みに『美人』なんて言うこと無いしな。

「おいおい、仲が良いのは知ってるが、ちょっとはこっちも気にしてくれよ!」

 後ろからそんな声が掛かり、慌てて振り向くとそこに居たのは――獣人?

 頭の上には犬のような耳、お尻にはふさふさとした尻尾。

 顔は……あ、これはすぐ解る。知哉だな。

 ちょっと目つきが鋭くなったぐらいでほとんど変わってないし。

「おう、知哉か。それは何だ? 犬か?」

「狼だぜ! ケモナーとしてはやっぱり獣人を選ばないとな!」

 そう言って胸を張り、嬉しげに耳と尻尾を動かす知哉。

 ああ、コイツ、そういう奴だったよな。

「個人的には、男の獣人なんて誰得だって思うんだが、そのあたりどうだ?」

「うむ。それにはオレも激しく同意する。だが! もし獣人が他の種族とは結婚できないとかだったらどうだ? 諦めるのか? いいや!! 獣耳けもみみの嫁を手に入れる機会を逃すことなんてオレにはできない!!!」

 すっごい力を入れて断言する知哉。案外考えて種族を選んでいたようだ。

 その方向性はどーかと思うが。

 いや、まあ、気持ちは少し分かるけどね。

 『獣耳けもみみの嫁』、ちょっと心かれる。

「ふーん、知哉も一緒に来たのね」

 知哉の身体をじろじろと眺め、悠がふむふむと頷く。

「な、なんだよ。邪魔だったか?」

「そんなことは言ってないじゃない。――盾は必要だしね」

「おい、今盾って言ったか? 盾って!?」

「おほほほ、まっさかぁ~~。頼りにしてるわよ、肉弾戦負傷担当!」

 ボソリと悠が呟いた言葉に、知哉が目を剥いて抗議するが悠は軽~く微笑んで躱す。

 ちょっと怪しい発言が聞こえた気がするが、きっと気分を軽くするための冗談だろう、うん。

「でも、やっぱり幼馴染みね。あんな状態でも互いが判るんだから」

「おう。なんか知り合いっぽい雰囲気が感じられたからな!」

「そ、そうだな。さすがに過ごした時間が長いだけあるよな!!」

 当たり前のように頷き合う2人に、俺も慌てて追従する。

 言えない!

 引っ付かれるまで全然解らなかったなんて!

「うん? うん、そうよね。周りには……他にクラスメイトらしき人もいないし、無事に一緒になれたことを喜びましょ」

 俺の様子にちょっと疑問を感じたような悠だが、気にしないことにしたのか、周りを見回してそんなことを言う。

 俺も悠にならって周りを見回すが、知り合いはおろか、人影すら無い。

 スキル【鷹の目】のおかげか、以前よりも遠くまで見えるが、目に入るのは草原と森程度、後は野鳥くらいか。

「しっかし、とんでもないことになったなぁ。これは不幸なのか? 幸運なのか?」

「不幸中の幸い、と思うことにしましょ。事故に遭ったことは変わらないんだから、ネガティブになっても仕方なわよ」

 ため息をつきながらそう言う俺に、苦笑しながら肩をすくめる悠。

「オレにとっては少し幸運だったかもな! 獣耳の嫁の可能性が出来たんだから!」

 根が楽観的な知哉は笑っているが、親のことを思うとちょっとなぁ。

 この世界に来なくても死んだことに変わりは無いんだから、悠の言うように『不幸中の幸い』と思うしか無いんだろうけど。

「知哉の妄想は置いておいて、まずは、行動方針の確認をしましょ。これが一致しないと一緒に行動できないし」

「お、おう、そうだな?」

 無条件で幼馴染み同士行動するつもりだったのだが、悠は案外リアリストだったらしい。

 リアルに命かかってるしな。

「それじゃ……『命大事に』。はい、復唱!」

 そう言ってビシリ、と俺たちの方を指さす悠。

「「え?」」

 これって、方針のすりあわせじゃ無かったのか?

 首をかしげる俺たちの戸惑いも置いてけぼりに、再び繰り返す。

「命大事に!」

「「い、命大事に?」」

「英雄なんて目指さない!」

「「英雄なんて目指さない」」

「堅実こそが一番の近道!」

「「堅実こそが一番の近道!」」

「悠様の言うことは絶対!」

「悠――ってちょっと待てぃ!」

「ちっ」

 危なく妙なことまで口走りかけた。

 ていうか、舌打ちしたよな、悠?

 知哉は知哉で、しっかりと口をつぐんでるし。

「ま、そんな感じの方針で行きましょ。反対は、無いわよね?」

 俺の抗議はさらりと流されるらしい。

 まぁ、いつもこんな感じなので、平常運転と言えば平常運転なのだが。

「オレは別に構わないぞ。そのうち獣耳けもみみの嫁さんでも見つけて、慎ましやかに暮らせたら言うことは無い!」

「俺もだな。というか、お前たちと離れようとは思えないし」

 何も解らない異世界で一人とか、心細すぎる。

 そんな俺たちの様子に悠は満足げに頷き、腕を組んで胸を張った。

「ふむふむ。ならば良し! じゃ、互いの状態を確認しましょ。ここで生きて行くには、協力して安全を確保しないといけないんだから」

「そうだな。えーっと、『ステータス』で良いのか?」

 おっ! 表示された。やはりこれで良いらしい。


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 名前:ナオフミ

 種族:エルフ(17歳)

 状態:健康

 スキル:【ヘルプ】     【槍の才能】     【魔法の素質・時空系】

     【槍術 Lv.2】   【回避 Lv.1】    【頑強 Lv.2】

     【鷹の目 Lv.1】  【忍び足 Lv.1】   【索敵 Lv.1】

     【看破 Lv.2】   【罠知識 Lv.1】

     【時空魔法 Lv.2】 【火魔法 Lv.1】

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 名前がカタカナになっているな。漢字だと尚史なおふみなんだが。

 数値で表す能力値というのはないのか。

「HPやMP、STRやDEXなんかは無いんだな。あとレベルも」

「そうね。状態やスキルが表示されるだけマシだと思うけど」

 二人も確認したのか、虚空を見つめながらウンウンと頷いている。

 状態は今は『健康』か。これが『毒状態』とか『呪い』とか表示されるなら、確かにある意味便利だな。早期治療ができるわけだし。

 ちなみに、悠はそんなにゲームをやる方では無いが、俺と知哉と仲が良い関係上、たまに付き合ってもらっていたので、ある程度の知識はあり、そんなに違和感は無いようだ。

「重要なのはスキルよね。まずは【ヘルプ】。これは持ってるわよね」

「当然だな」

 悠もやっぱり取ったか。

 あれが5ポイントとかなら、逆に取らなかったかもしれないが、20ポイントとか『重要です』って言ってるようなもんだろ、やっぱ。高いだけに悩んだけどな。

「え? お前らそんなの取ったのか? 無くてもキャラメイクぐらい出来るだろ?」

 ――はい?

「「まさか取ってないの(か)!?」」

 俺たち二人に詰め寄られ、目を白黒させる知哉。

 マズい、マズいぞ。下手なコトしてたらかなりヤバイ!

「知哉! あなたのスキル、全部言いなさい!」

「え、うん、解った……」

 悠の剣幕に圧倒されつつ、慌てて自分のスキルを上げていく知哉。


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 【剣の才能】  【剣術 Lv.3】  【チャージ Lv.1】 

 【咆吼 Lv.1】 【回避 Lv.2】  【頑強 Lv.4】

 【俊足 Lv.2】 【鑑定 Lv.2】  【鍛冶 Lv.1】

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 ……よしっ! 地雷スキルは無い!

 俺と悠は顔を見合わせ、安堵のため息をつく。

「いや~~、ホントは経験値増加系とか取りたかったんだけど、『オレの考える格好いい獣人』を作ったらポイント足りなくなってさ。泣く泣く諦めたんだ」

「いや、取らなくて正解だから!」

「そうよ! あなたの変なこだわりが珍しく役に立ったわね!」

 危ねぇ! 死にはしないけど、すっげぇ苦労することになるとこだったぞ!

「え、そうなの? でもあれ系って、後々大きな差にならない? 別に競争するわけじゃ無いけどさ」

「それ罠だから! めちゃくちゃ罠だから!」

 追加スキルの地雷具合を、2人して代わる代わる説明すると、聞く度に知哉の顔色がだんだんと悪くなり……。

「MA・JI・DE!?」

 叫んだ。

 某ムンクのごとく。

「え? なに? スキル選択ミスったら、ほぼ人生終了じゃん!!」

「そうね。下種げすな事考えて、【スキル強奪】とか取った奴なんて、もう死んでるんじゃないかしら?」

「そうだよなぁ。あれだけは即死の危険ありだよな。この世界の人のスキル構成や平均レベルは解らないが、もし俺相手に使ったら、その瞬間即死だからなぁ」

 しかもスキルは返却されるので、俺の寿命だけがデメリットなしで延びるという結果に。

 全スキルを無条件で強奪というあたりに、ある意味、悪意を感じる。

 いや、まぁ、人が苦労して覚えただろうスキルを奪おうとする方が悪いのだが、美味しそうな餌をぶら下げているあたりがなぁ……。

「怖っ! 超怖っ! さすが邪神!」

 顔がムンクのまま叫ぶ知哉。

 うん、気持ちは解る。俺も【ヘルプ】を取って最初に見たとき、心の中で叫んだから。

「でも、あの人(?)、結構親切だったと思うわよ? 【ヘルプ】のアドバイスは的確で便利だし、選択前にも『チートは無い』って強調してくれてたじゃない。その上でチートっぽいスキルを選んだんだから、ある意味、自業自得?」

「いや、そうかもしれないけどさぁ。経験値増加系とかイジメじゃね? メリットゼロじゃん」

 ああ、それは確かに。

 他のスキルは一応メリットもあるが、あれだけはデメリットだけな気もするんだが……なんでだ?

 例えばスキルの組み合わせで効果を発揮するとか?

 ゲームでもたまにある、単体だとほぼ無意味だが、あるスキルと併用するとすっごい便利だったりするタイプ。

「うーん、それはわかんないけど、確か『努力は君を裏切らない』って言ってたから、楽しようとするのが気に入らないとか? それに努力すれば何とかなる分、まだマシじゃない? 他のは努力ではどうにもならないし」

 そういえば、邪神らしからぬ事、言ってたなぁ。

 楽しようとしたら、人の何倍もの努力が課せられるとか、何というか……神っぽい厳しさだよな。

 スキルもほとんど取れないだろうし。

「それに引き替え、元からあったスキルはまとも……というか、便利な物ばかりだったな。【頑強】は必須っぽかったけど」

「そうね。SFとかでも耐性の無い病気で全滅とか良くあるし」

「え? 【頑強】ってそんなに重要だったのか?」

 ああ、知哉はヘルプが無いんだったな。

 それでもしっかり取っているあたり、リアルラック高いな、知哉。

 【ヘルプ】無しでも地雷はしっかり避けているしさ。

「説明に『未知の病気があるかも』と書いてあったぞ。俺もそれを見て取ったしな」

「そのうち耐性を獲得できるかもしれないけど、病気にならないに越したこと無いしね」

 失業保険なんて無いだろうし、とつぶやく悠。

 そうだよなぁ。国民健康保険もなければ生命保険みたいなのも、多分無い。

 一定期間働けなければ死ぬ可能性が高いのだ。俺たちに頼れる保護者なんて居ないんだから。

「そうだったのか! 良かった~、取っておいて」

 そう言って知哉はホッと胸をなで下ろす。

 【頑強】の字面から病気のことは考えてなかったんだろうが、Lv.4あれば大抵の病気は大丈夫だと思うぞ。

「さて、次は私のスキルね。こんな感じだけど――」


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 【ヘルプ】       【弓の才能】      【錬金術の素質】

 【魔法の素質・光系】  【魔法の素質・風系】  【魔法の素質・水系】

 【魔力強化】      【異世界の常識】    【弓術 Lv.2】

 【頑強 Lv.2】     【投擲 Lv.1】     【看破 Lv.2】

 【解体 Lv.1】     【光魔法 Lv.3】    【風魔法 Lv.1】

 【水魔法 Lv.1】    【高速詠唱 Lv.1】   【錬金術 Lv.1】

 【裁縫 Lv.1】     【調理 Lv.1】

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