第12話~リズが見た白昼夢

 リズが見た夢は、洞窟の外だったと話始める――


 見覚えのある大きな木。その前に二人の人物が立っている。

 一人は男性でもう一人は女性である。二人とも白い魔術師の服を着ていた。


 リズはどうして突然外にと、辺りをキョロキョロと見渡すが、何故か二人は彼女を全く気にも止めずに語り始める。


 「ねえ、ハラルド。あなた、研究結果を王様に提出したそうね」


 「したが何か? ちゃんと君の名前も記載した。問題ないだろう」


 男は、手にしている水晶を撫でながらそう答えた。


 リズは、男が手にしている水晶を見て驚く。さっき触れた水晶と同じモノのように見えたからである。


 「あるから聞いたわ。研究は失敗に終わった。そう提出したのよね?」


 「本当の事だろう? 不老不死は不可能。君もそこにたどりついただろう」


 不老不死という言葉にリズは更に驚く。

 どうやら、この二人は王の命令でその研究をしていたようだ。


 「確かにそうね。でも、その延長線でわかった事は乗せてないわよね」


 「乗せたところで理解など出来ないだろう。それにその発見は私の産物だ。他の者に教える必要はない」


 「残念ね。それには私もたどりついているのよ?」


 「誰かに教えるつもりか? それとも王に報告でも?」


 ジッと男は、女を見つめる。


 「いいえ。これは封印するべきだわ」


 フッと口元をゆがませると、男は水晶を目の前に持って来る。


 「いい事を教えてやろう。これは、私が開発した特別な水晶だ。これで私は、永遠を手に入れられる。人間の身体はどう頑張っても永久的に存在させる事は出来ない。だが、能力を魂ごと移動させる事はできる。そして、この水晶はその魂を保つ事が出来るのだ」


 それを聞いた女は驚いた表情を見せる。


 「まさか、自分の身体を捨て、他の者の身体に入り込むつもりなの?!」


 「そうだ。魔力がなければ形を留めておくことが出来ず、ある程度の時間で消滅してしまう。だが、この水晶の中にいればずっと留まる事が出来る。その間、じっくりと相手を選ぶことが出来るってわけさ。水晶なら魔術師が喜んで手元に置いておくだろう?」


 「そう。奇遇ね。私も似たような物を作ったわ」


 女は、そういうと懐からナイフを取り出した。


 「これはね、そういうモノを強制的にその場に留めておくものなの。これで、あなたを封印するわ」


 「なるほど。そうきたか。非常に残念だ。最後に教えておこう。この水晶は私専用だ」


 男は、水晶を地面に置きながらそういうと、突然倒れこんだ。


 『まずは手始めに君の身体を頂こう。少々手荒になるがな!』


 身体からではない場所から、男の声が聞こえる。

 女は少しずつ下がり、大きな木の前で止まった。


 『もう、あきらめたのか? 声だけしか聞こえないというの恐怖だろう?』


 「何を言っているのかしら? ちゃんと見えているわ! ほら、ここ!」


 女は手を伸ばすと、声の主をがっしりと捕まえた。

 そして、不思議な事にリズにもその声の主が見えていた。


 『何! は、離せ!』


 「今、離してあげるわ!」


 女はそう言うと、声の主を大きな木の中に押し込んだ。そして、用意していたナイフを突き立てた!


 『ギャー! お、おのれ……』


 女は、ズルズルとその場に倒れ座り込む。


 「バカ……。本当はこんな事したくなかった。何故、思いとどまってくれなかったのよ……」


 そういうと女は涙を流した。そして、こうもつぶやいた。


 「私が何度でも封印して、あなたを助けてあげるわ……」


 この声を最後に、リズはふっと気が遠くなった――



 ☆―☆ ☆―☆ ☆―☆



 「ナイフで封印? それって……」


 話を聞き終えたジェスが、神妙な顔つきで呟く。


 「なんだよ。何かわかったのか?」


 「いい話じゃないよ。そのナイフはもう処分されたかもって事ぐらい……」


 それを聞き、ディルクは大きなため息をつく。


 「結局、どうにもならないのかよ。って、どうしたレネ」


 レネは、俯きながら泣いていたのである。


 「大丈夫よ、レネ。この話をソイニさんにすればきっと……」


 リズの言葉にレネは首を振った。


 「リズの言う通りだよ。なんとかなるよ。ここにだってたどり着いたんだし……」


 ジェスは、レネにそう言いながら彼女の肩に手を置いた。だが、驚いてすぐに離す。


 ――この邪気! 嘘だろ!


 「な、なんで君がその邪気を纏っているの! 洞窟の時はなんともなかったのに!」


 ジェスの驚きの声に、レネは両手で自分の肩を抱いた。


 「ごめんなさい! だ、だますつもりはなくて、ただ言い出せなくて……」


 そういうと、レネは本格的に泣き出した。


 「邪気ってなんだよ!」


 「レネに妖鬼が取り憑いているのかも……」


 なんとも言えない表情で、ジェスはディルクの問いに答えた。


 「嘘よ! なぜレネが!」


 リズのその問いには、ジェスは首を横に振るだけだった。

 そして、ジェスはレネの肩にそっともう一度置いた。


 「ねえ、レネ。よく聞いて。君はまだ完全にのっとられてない。だから、気をしっかり持って。僕がここから出る方法探してくるから」


 「もう村になんて帰れない……」


 「あぁ、もう! 何言ってんだよ! オレ達だけでどうにか出来ないんだから、言う事聞けよ! それと、なぜリズを狙った!」


 ディルクは怒鳴りけるように言った!


 「知らないわ! 知らないのよ……ううう」


 レネは更に強く泣き始める。


 「もう! こんな時に何を聞いているのよ!」


 「大事な事だろうが! それと、ジェスは探しに行かなくていい」


 「何を言っているんだ! 彼女を放って置くっていうのか!」


 「違うって。オレが探すって言ってるんだよ。ジェスの方が慰めるの向いてるだろう?」


 ディルクの言葉に、二人は目を丸くする。


 「なんだよ……」


 「いや、君が気をまわすなんて……」


 「なんだよそれ! とにかく、見つけたら何が何でも連れて帰るからな!」


 そう言って動き出そうとした瞬間だった。森の中に二人の姿が現れた!


 「え……マティアスクさん!」


 ジェスは、驚きのあまり大きな声を上げていた。

 皆の前に現れたのは、マティアスクとソイニだった。


 「ソイニさん、術を解いたのかよ! すげぇ」


 「いいえ、私は解いていません」


 ディルクの言葉に首を振って、ソイニは答えた。


 「よかった。これでなんとかなるわ!」


 リズが涙を浮かべ安堵する。


 喜ぶ三人だが、レネは悲しげな顔をマティアスクに向ける。


 「おじいちゃん、よかった……。ごめんなさい。今までありがとう……」


 「何を言っているんだ。助けに来た。間に合ってよかった」


 レネは弱弱しく首を振った。


 「みんなもごめん……ね……」


 その言葉を聞くと同時にジェスは立ち上がり、二、三歩下がった。

 邪気が膨れ上がるのを感じたのである。


 レネは、涙を左腕でゴシっと拭くとスクッと立ち上がる。


 「な、なんだ? ジェス、レネはどうしたんだよ」


 「レネが……」


 ディルクの質問に、ジェスが答えようとするも、そこまでしか言えなかった。

 皆が注目する中、レネが口を開いた。


 「やっと、手放したか。まあ、思ったよりは早いか……」


 声はレネだが、とても彼女だとは思えない話し方だった。

 妖鬼が表に出て来たのだ!


 「なんでだよ! マティアスクさんの術だって解けて迎えにも来たのに!」


 「解いてやってのは私だ」


 何故かレネに取り憑いている妖鬼が答えた。


 「孫の体を本人に返してもらおう」


 「残念だが、もうこの体は私の物だ。それとも、取り戻す方法を知っているとか? ないけどな」


 妖鬼がレネの顔で不敵に笑うのだった。

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