夢幻の塔〜クリスマスイベント企画〜
参星(カラスキボシ)
夢幻の塔 − 1(クリスマスソングを聞くと虚無になる)
「今日は"夢幻の塔"というダンジョンに行こうと思うんですが」
「喜んで!」
どうでしょうと依頼書を差し出され、シキミは一も二もなく頷いた。
もとより養っていただいている身。強制などされないが拒否権などは無い──と、彼女は勝手に思っている。
トレーニングのつもりなのか、上から数えたほうが断然に早いランクA冒険者であるジークはいつも優しい依頼を取ってくる。
無理難題を吹っかけられなければ、シキミとてそれはもう喜んで首を縦に振るわけで。
「どんな依頼なんですか?」
「名前の通り塔の形をしているダンジョンなんですが……最上階に行って、そこにしかない"夢幻の鐘"を一つ取ってきてほしいと」
「……ははぁ、鐘、ですか。持って来られますかね」
「鐘とは言っても小さい物ですから、そう心配しなくても大丈夫です」
結婚式に使いたいんだそうですよ、と言われてシキミは思わず立ちくらむ。なるほど、これが幸せのちからか。
てっきり何かの素材になるものばかりだと思っていたが、ドロップアイテムにはそうした使い方もあるらしい。
幸運を運ぶのだと言われているそれは、確かに晴れの舞台には相応しく。
ダンジョン産であるが故に、滅多なことでは壊れないという鐘に二人の仲をかけているのだと聞けば、どの世界でもそういうのは変わらないんだ、と小さな親和性に思わず頬が緩んだ。
──と、いう事があって、私は意気揚々とダンジョンに足を踏み入れたわけだが。
思っていたのと少し違う景色が、そこには広がっていた。
いつも通り、ダンジョンの入り口である魔法陣の刻まれた門を通り抜ければ、直後耳を打つ軽妙な音楽。
聞き覚えがあるそれは、可愛らしい子供の声でジングルベル、ジングルベルと口ずさむ。
思わず見上げれば、青い空を背景に「Merry Xmas!2018」と楽しげな書体が垂れ幕の上で踊っていた。
「は……????」
いや、ちょっとこの世界に慣れていないのでお伺いしたいんですが、ダンジョンって基本的にこんなに浮かれているものですか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます