おっさん消防士が最強の水属性スキルで次々と炎を消し止める
森山智仁
第1話 うちの助手めっちゃかわいい
ごおおおお!
ごおおおお!
ごおおおおおおおおお!
なんというすさまじい炎だ! レッドドラゴンのウロコで編んだこの耐火服を着ていなければ、とっくに消し炭になっていただろう!
そうとも……
「消し炭だッ!」
くわっ!
と、目を見開く俺こそが、ボルケノン大陸最強の消防士、グレン・マスケット45歳である!!
「グレン様!」
と、俺の名を呼ぶきゃわいい声の主は、愛しの助手、カンナ・プリチェット18歳である!
灼熱の炎の中、桃色がかった金髪がきらきらと輝いている! ふつくしい……!
「グレン様、あぶない!」
「むっ!」
天井から真っ赤に燃える梁が落ちてきた! 当たったら痛そう!
「むぅん!!」
バキィィィィ!
俺の拳の一撃で、梁はまっぷたつだ!
「ステキです、グレン様!」
「うむ!」
カンナ君がほめてくれる! うれしい!
というか、正直抱きたい! カンナ君も抱かれたがっていると確信できる! 以前「歳上の頼れる人が好みです」って言ってたし! あの小動物のような潤んだ瞳を見れば、火を見るより明らかだッ!
しかし、今は火を見ねばならん! なぜなら! 国一番の大金持ち、ステブン・ジョップス氏の豪邸が火事だからだ! そして俺はこの炎を消し止めるために呼ばれたのである!
ごおおおおおお!!
ごおおおおおお!!
どんどん勢いを増す炎の中で、
「ほおおおおおお……」
合掌し、集中力を高めていく俺。
そのかたわらでカンナ君は、
「えいっ! えいっ!」
と、初等スキル【アクアボール】をがむしゃらに投げまくっている!
かわいいけど、正直意味ない! その程度の水量では時間稼ぎにもならない!
「私、役立たずですか?」
と、俺の心を読んだかのようにカンナ君が訊いてきた。
「そんなことはないッ!」
と、力強く答える。
ウソではない! 俺はカンナ君にいいところを見せたくて頑張っていると言っても過言ではない!
ごおおおおおおおお!!!
ごおおおおおおおお!!!
「ほおおおおああああ……!」
俺の中に渦巻くさまざまな思いがエナジーとして凝縮されてゆく。
カンナ君にほめられたい! というか全人類にほめられたい! 拍手喝采を浴びたい! ゆくゆくは自伝とか出したい! 歴史に名前を残したい! 俺をリストラしたかつての上司をけちょんけちょんにやっつけたい!
み、な、ぎ、っ、て、き、た……!
ぎゅいいいいん!!
「グレン様、お願いします!」
「うむ!」
解放ッ!
【パシフィック・ストライク】ッッ!!!
ぶわっ!
俺を中心に水属性の衝撃波が一気に広がり! 部屋中の! 否! 屋敷中の炎を一瞬にして消し止めた!!
炎の音がぴたりとやみ、あたりは別世界のような静けさに包まれている。今回も大成功だ。
しかし……
「じゃ、帰りましょうか」
と、カンナ君の冷めきった声。つい先ほどまでキラキラしていた目は死んだ魚のようになっている。
そうなのだ。俺の必殺技【パシフィック・ストライク】は、実物の炎だけでなく、「心の炎」も鎮めてしまうのである……!
実に残念だ! またいちからコツコツと好感度を上げていくしかない!
「何やってんですか? 行きますよ」
「う、うむ」
まぁ、実を言えば、この冷たいカンナ君も嫌いではないのだが……!
◆ ◆ ◆
屋敷の主、ステブン・ジョップス氏は、ありがとうございますを100回ぐらい述べた後、法外な報酬を提示した。
「全財産の半分を差し上げます」
うおおおお! マジかあああ!!
ううううめっちゃほしい! だが……!
「そんなにいただくわけには」
と、言わざるを得ないッ……!
火消しの報酬は消防士ギルドが基準を設けている。具体的には建物の資産価値や被害状況に基づいて計算する。俺もギルドの一員である以上、勝手な報酬をもらうわけにはいかない。
すぐそばにカンナ君がいるからなおさらである!
「そうおっしゃらずにお収めください。ご存知の通り、私は国一番の大金持ちです。半分差し上げてもまだ、愚民どもの1000倍ぐらいの財産が残ります」
「……」
「愚民どもが一生あくせく働いても私には遠く及ばないのです」
「……」
「あなたが来てくださらなければ、私は豪邸と貴重な美術品の数々をすっかり失うところでした。それでも銀行に預けてある大金や別荘がありますから愚民にまで成り下がりはしませんが、平凡な上流階級の一人になってしまったでしょう」
「……」
「私は気前がいいのです。どうか全財産の半分をお受け取りください」
ぐぬぬ……! ほしい……! めちゃくちゃほしいッ……!
人間、金がないと生きていけない! そして、金さえあれば何でもできる!
喉から手が出るほどほしい!
「しかし受け取れません!!」
金はほしいが、賞賛もほしい! 世間やカンナ君にちやほやされたい! そのためにはギルドの定めたルールを破るわけにはいかないのである!
それでもどうにか押しつけようとしてくるステブン氏を何とか振り払い、我々は現場をあとにしたのであった!
つづく!
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