電子創世記の四兄妹

地雷原

第一章 電子創世記

第1話 プロローグ




 西暦二XXX年、世界の電子制御技術は目まぐるしく進化、向上し、様々な分野での生産体制が機械による無人プラントで管理されるようになった近未来の地球文明。


 海外のとある無名ゲーム会社が開発した携帯型ゲームデバイスとたった一本の専用ソフト


 “|Psycho・Description(サイコ・ディスプリクション)”


 それは現実世界に投影されたバーチャルモンスターを、己の肉体とゲームデバイスが生み出す武器を駆使して狩るハンティングゲームであり、そのリアリティーや自分だけの固有武器パーソナルウエポンと成長システム、総数が全く判らないほど多くのバトルスキルの存在に、人々は瞬く間に“サイコ・ディスプリクション”に熱狂し、その人気は世界中を駆け巡った。


 しかし、世界中に携帯型ゲームデバイスが出荷され、その人気が絶頂を迎えたと思われたある日——突如として基幹システムが暴走し、世界中のあらゆる電子制御プログラムをハッキングしてそのコントロール下に置いてしまった。


 各国の政府は即座にサイコ・ディスプリクションを制作したゲーム会社へ家宅捜索に入り、ゲームサーバーが置かれている施設へ軍隊や警察組織を送り込んだが、そこに待ち受けていたのは溢れるほど多くのバーチャルモンスターたちだった。

 政府はそれをただのホログラムだと侮ったが、暴走したシステムによって改変されたバーチャルモンスターたちの攻撃には、人体に悪影響を与えるほどの電磁波が組み込まれており、倒す手段を持たない軍隊や警察機構などの政府組織は瞬く間に瓦解し、全滅した。


 政府は施設そのものを破壊する選択肢もとったが、システムは自身をネット上に無限コピーすることで対抗し、それをあらゆる電脳スペースへと拡散していく。

 結果的にそれが全世界の掌握を早める事となり、システムは自らを世界と同化した神——“機械神デウス・エクス・マーキナー”と名乗った。





 電子創世紀サイコ・ジェネシスより一六年が経過し、世界の——日本の様相は様変わりしていた。


 あらゆる電子システムがハッキングされて使用不可能となり、海外との情報通信も不可能となった。

 遠隔地との情報伝達手段はたったの二つ、直接現地へ赴くか、携帯型ゲームデバイス“PBサイコ・バンド”によるメールと通話だけだった。


 日本国内の人口もこの一六年で激減し、“機械神デウス・エクス・マーキナー”が管理する生産プラントがまだ少なかった地方や過疎地では、いくつもの市町村が現代人としての暮らしを維持できずに死の都市となり、人々は電気やガスなどの現代技術を全く扱わない近代以前の暮らしを余儀無くされた。


 そしてなにより、バーチャルモンスターである“電脳鬼オーガ”の存在が人々の生活をおびやかした。


 電脳鬼オーガPBサイコ・バンドが生み出す固有武器パーソナルウエポンでしか倒せないが、その武器を使えば誰もが簡単に倒せるわけでもない。


 固有武器パーソナルウエポンを扱うのはあくまで人であり、サイコ・ディスプリクションというゲームシステムを柔軟に受け入れることが出来なければ、モンスターを倒すことは難しい。

 それが出来なかった多くの者たち、戦う恐怖に勝てなかった者たち、そして何より——デバイスを手に入れることが出来なかった者たちが次々に死んでいった。




 そしてこの物語の舞台は“機械神デウス・エクス・マーキナー”による新しい秩序とことわりによって管理される都市、ネオ・トウキョウ。その中でも比較的安全なエリアの一つであるシンジュクから始まる。


 そこに、今日から新たな成人として一六歳の誕生日を迎えた少年少女たちが暮らしていた。

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