第97話 初めての晩餐会

 俺はエリックさんと離れ、ミシェルに客間に案内されたが誰もいなかった。

 テーブルに紅茶とお菓子が残っているだけである。


「みんなどこに行ったんだ? 姫さんと喧嘩してないと良いが……」


「その心配はない。たぶん雅様達は、あそこ・・・にいるだろう。私が見てくる。海彦はココで休んでくれ。あとで、女中メイドに会場まで案内させる」


「分かった。晩餐会まではジッとしてる。しかし、俺はパーティなんぞ行ったことがないから、マナーなんか知らんぞ? いいのかミシェル?」


「問題ない。これは海彦の歓迎会なのだから」


「俺は偉くもないんだがな……」


「謙遜するな、少なくとも私は感謝してるぞ。またあとでな海彦」

「ああ」


 ミシェルは笑いながら、そそくさと部屋から出て行った。

 一人残された俺は、残っていたポテトチップスとチョコレートを食べる。


「美味い……食い物も日本と変わりなくなってきたな、やれやれ」


 あまり食いすぎてはマズイと思うが、どうにも手が止まらず食うのをやめられない。

 あちこち歩いたせいで、小腹が減っていた。


 結局残っていた菓子を全部食ってしまったが、量が少なかったので満腹にならずにはすんだ。

 そこにメイドさんがやってくる。


「勇者様お待たせしました。会場に御案内いたします」


「あ、はい! よろしく」

 俺はメイドさんの、後についていく。


 荘厳そうごんな両扉の前にくると、メイドさん達が開けてくれた。

 大部屋の中は思った以上に明るい。天井には大きなシャンデリアがある。


 蝋燭ろうそくは使っておらず、おそらく魔法による光だろう。

 二列あるテーブルには、真っ白なテーブルクロスがかけられ、料理が並べてあり湯気が立っている。


 花瓶に飾られている花も綺麗だった。


 会場を見ているうちに俺は、クルーザーに戻りたくなる。


「……貧乏人の俺には、場違いな空間なんだよなー」


「海彦殿、こっちに来てくれ」


 先に座っていたエリックさんに呼ばれて、俺は上座に向かい勧められるまま、椅子に座るしかなかった。


 主賓しゅひんで招かれたからには、パーティをいまさら辞退する訳にもいかない。

 居心地の悪さを察してくれたのか、エリックさんが俺の肩をポンポンと叩く。


 どうも気安いが、王様なのに偉ぶらないのは好感がもてる。


「なーに、飯を食って酒を飲んでくれりゃーいい。今宵こよいは要人をもてなす、親睦会でもあるんじゃよ」


「あ、そうか! フローラ達は部族の代表なわけですね?」


「そうそう、亜人達とは仲良くしておきたいからのー。雅の出迎えがひどかったから、詫びねばならん。娘はじゃじゃ馬で、本当に困ったものだ」


「なるほど……て、あいつら何時いつまで何してるんだ?」


「まあまあ、女は支度に時間がかかるものじゃよ。もうそろそろ来る頃じゃろ」


 そうエリックさんが言って間もなくすると、部屋の両扉が開け放たれた。


「なっ!」


 振り返った俺は思わず立ち上がり、口を開けて固まってしまう。

 雅を筆頭に会場内に女達が入ってくる。驚いたのはその格好だ。


 全員、絹のドレスを身にまとい、きらめいていた。

 衣装も様々でそれぞれの体型に合わせてある。色も赤・青・黄・紫・白・黒で多彩だ。

 女達は化粧をしており、別人かと俺は見まがうほどだった。


 えーと、どこの女優さん?


 ああ、「女は化ける」とはこのことか……。


 固まっている俺を他所よそに、フローラ達はエリックさんに挨拶と御礼を述べている。

 族長の娘達は堂々としたものだった。


 ボーッとしていた俺は、エリックさんに肘で突かれて正気に戻る。

 はっ! いつのまにか目の前にはフローラがいた。


 ここで世辞を言うのはマナーだが、俺は思わず本音で言う。


「うん、綺麗だ」


「見直した?」


「ま、まあな」


「よし!」


 フローラは嬉しそうにしながら自分の席につく。他の女性達も俺に褒められて、喜んでいた。

 俺も空気を読める男になったな、うん。


 と格好をつけてみたものの、胸のドキドキが収まらず、着飾った女達に見惚れていた。


 ……やばいな。

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