流星因果のクオリア

姫宮未調

彼の死から始まる永遠

━━コンコン。


真っ白な病室に、縁を叩く音が静かに響いく。

窓を開け、真っ白いカーテンと共に風を感じていた少年は振り向いた。

陽の光に透ける色素の薄い髪も、風に靡く。

そんな彼は、訪問者に綺麗な顔を綻ばせる。


「司、来てくれたんだね」


病院着を纏い、優しく出迎えた。


「……智久が『今日のこの時間』を指定したんじゃないか」


溜息交じりに無表情を崩すその人は、中性的な口調に合った美人。

長いストレートの髪を無造作に搔き上げ、片目を瞑る。


「うん、そうだったね。司に話したいことがあったんだ」


「私も智久に伝えたいことがある」


司はベッドの横まで歩みを進めた。


「司も? なに? 」


「呼び出したのは智久だ。おまえから話すべきだろう? 」


「あ、そうだね。司のは話したあとの楽しみにしよう」


「……大したことじゃない」


「司の言葉だから大したこと、だよ」


瞳を細めて笑う智久に司は、少しばかり苦しそうな顔をした。

それも束の間で。


「あのね、司。俺が今から言うことはきっと残酷かもしれない。それでも司には知って欲しいです」


「勿体ぶるな」


「あはは、そうだね。"今際の際"で言うことじゃないとは思うけど、俺は……司が好きです。愛したい女性です」


司の顔がまた苦しそうになり、智久の首にに縋り着いた。


「私……だって! おまえが好きだ! おまえが死んだって変わらない……! 」


……そう、彼はもうすぐ死ぬ。

『皆』、分かっていた。


『死ぬ事が分かっているのに』


「……良いのかな? 」


『おまえが好きだと言ってくれたことに』


「良いも悪いもない」


2人は顔を寄せ合い、笑いながら泣いた。


「……恵理にさ、『伝えないで後悔するより伝えて後悔しなよ』って言われちゃったんだ」


普通なら言わないでおくべきこと。


「智久もか。『そもそも司は感情が伝わりにくいんだから、言えるとき言わないと後悔するよ』だと」


それだけ信頼されているということ。



そして、面会時間の最後に……最初で最後のキスをした。


□□□□□


次の日から智久の容態は悪化し、面会謝絶。

……想いを通じあわせた三日後、『双子の弟』和久だけでなく、『恋人』司、『親友』恵理が親族以外で呼ばれた。


三日前はなかった管かたくさん繋がっていた。

ついていなかったのは、あまり皆を心配させたくない智久の配慮だったなんて知る由もなくて。


『先天性心疾患』という、産まれながらに心臓に欠陥がありますよと読めばわかることしか知らない。

聞かされなかった。

第一、中学生になる前に入院してから毎日、代わる代わるお見舞いに来ていたのに。


「……ごめんね。ありがとう」


そう残し、智久は……智くんは息を引き取った。

17歳になれずに。あと1ヶ月切っていたのにね……。


お通夜、お葬式、人間とは残酷なもので、そういうお式は形ばかりでやってしまう。

焼き場に直行したのは流石に面食らった。

何の障害もない和くんが居ればいいのかと、思わずにはいられない。


……和くんと私は泣いた。でも、司は最後まで泣かなかった。


挨拶もそこそこに私たちは3人で、4人でよく行った土手に向かう。


「……私たちだけは、智くんのこと忘れないようにしよう」


私は決意を持って言った。


「当たり前だろ、智兄は俺たちの中にいる」


「……」


私は司を抱き締めた。


「私たちは『ずっと一緒』だよ」


私は知っているから。……すべて。


(永遠の……はじまり、だよ)

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