第3話 ギルドの昼
お昼前になるとギルドに居る人がぐっと減るの。みんな討伐や採集に出ちゃうからね。
討伐と採集を受けつけるカウンターに座ってる女性二人も、暇そうにしているでしょ。可愛い感じがミリーさん、落ちついた雰囲気がシェリルさん。二人とも、冒険者に凄く人気があるの。
この時間にギルドにいるのは、よほどのベテランか、入ったばかりの初心者が多いわね。
ほら、あの依頼書の前でまごついている少年は、最近冒険者になったばかりのリンド君ね。
「リンド君、どうしたの?」
まだ十五才のリンド君は、小柄な上に童顔だから年齢よりずっと幼く見えるの。
「あ、ギ、ギルマス……」
「分からないことがあったら、遠慮なく尋ねればいいのよ」
「ええと、ボク、字が読めないんです」
ああ、そういうことか。冒険者は学歴が無くてもなれるから、中には字が読めない人もいるの。この世界なら、字が読めるのは五人に一人くらいね。
「どんな依頼が希望なの?」
「できれば討伐依頼で簡単なものがいいです」
「そうね。でも、君には、まだ討伐は早いかな。慣れるまでは、絶対に一人で出かけちゃだめよ。ちょっと待ってね」
私は、ちょうどギルドに入ってきた兄妹に声を掛けた。
「スタン君、スノーちゃん、ちょっと来てくれる?」
スタン君は十七才で銅ランク、スノーちゃんは十六才で鉄ランクなの。
「君たち、パーティ組みたいって言ってたよね」
「ええ、誰かいい人がいましたか?」
「今日だけ、この子とパーティ組んでみてくれない?」
「えっ? この子ですか? 君、成人してるの?」
この国では、冒険者になれるのは成人、つまり、十五歳以上なの。
「してるよ! 冒険者だもん!」
リンド君は、自分が幼く見られた事で、ちょっと腹を立ててるみたい。
「スタン君、今回も採集依頼でしょ?」
「ええ、白雪草の依頼があれば受けようかと思ってます」
「いい判断だわ。確か『聖騎士の森』で白雪草の依頼があったはずよ。できたらそれに、このリンド君を連れていってほしいの」
「えっ、でもボク、やっぱり討伐の方が……」
リンド君は、じっと討伐依頼が貼ってある壁を見てる。全く分かっていないわね。
冒険者になるときもらう革表紙の本には、初心者がすべきこと、してはいけないことがきちんと書いてあるの。
でも、字が読めなかったり、めんどくさがって読まない人が多いのよ。
そういう人は、怪我をして引退するか、命を失うわね。
そういえば、瞬く間に金ランクになった、あのどこかぼーっとした少年は、字が読めないから教えてくれって私に頼んでたわ。
やっぱり一流はスタートから違うってことよね。
「リンド君、シローって知ってる?」
「もちろん知ってますよ! あっという間に金ランクになった有名なルーキーでしょ。ボクは彼に憧れて冒険者になったんです」
リンド君の目がキラキラしてるわ。
「これは、スタン君たちにも聞いてほしいの。彼が選んだ最初の依頼が何だったか知ってる?」
「有名な、ゴブリンキング討伐ですか?」
彼にあこがれてるリンド君が、すかさず答えたわね。
「外れ。
「「「えっ!?」」」
三人とも驚いて目を丸くしてるわ。
「彼は普通の三倍以上も白雪草を採ってきたのよ」
「へー、すごいですね!」
スタン君が感心してる。
「彼も字が読めなかったけど、冒険者入門書を読んでって私に頼んだの。それがどういうことか分かる? 一人前の冒険者になるには、小さなことからコツコツ積みあげるしかないのよ」
三人の目がキラキラ輝く。
「ボク、きちんと基礎から積みあげます!」
リンド君も、やっと分かってくれたみたいね。
「君、白雪草の採集だけど一緒に行くかい?」
スタン君が自分からリンド君を誘ったわ。
「はいっ!」
「お兄ちゃん、私にもきちんと教えてよ」
「分かってるって」
三人は、採集コーナーで依頼書を読み始めたようね。
スタン君は字が読めるから、リンド君とスノーちゃんは彼の話に耳を傾けているみたい。
こうなふうに新人を手助けするのも、ギルマスの仕事なの。ただ、少し慣れたら後は本人任せ。
冒険者は、命懸けの依頼も多いから、全て自己責任で行うの。自分で考え、その場に合った行動をする。一流の冒険者は、技術はもちろんのこと判断力が一流なのよ。
これは、長いこと冒険者を見ていて気づいたことね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます