第54話

 路上で待機していた次郎の業務用の携帯に、配送依頼メールが着信した。


 開いてみると、2本の仕事依頼。つまり2本持ちの仕事が来た。本来バイク便の配送は、仕事配分の公平性のため、荷受けして届けが終わるまで次の仕事が入らない、つまりひとり一本ずつというのが原則だ。しかしたまに、周りに待機ライダーがいないとか、配送の効率性が優先され、ほぼ同じ位置で荷受けする仕事が同時に2本来ることがある。一回の走行で2本分の仕事が出来るのだから、受けたライダーには美味しい。


「朝からついてるぜ…」


 次郎は、ほくそ笑みながらふたつの配送伝票を作成すると、まず一本目の荷受先に走る。

 一本目は荷受け時間指定だった。時間通りに到着すると、およそ人が働いているとは思えない廃墟のような事務所の様子に、次郎は行き先を間違えたかと思った。しかし事務所のドアを見ると、配送依頼メールの特記にあるように、ドアのノブに手提げ袋がぶら下げてあった。手提げ袋の中には、確かに書類封筒と現金の入った封筒がある。

 後請求の契約会社の配送依頼とは違って、個人の配送依頼では、その場で現金を支払うケースが多い。現金を確認すると、規定料金より多めだ。しかも、封筒に釣銭はいらないとの指示が表記されている。


「ダブルラッキー」


 次郎は、伝票の控えと領収書を手下げ袋に入れると、書類封筒を取り出して、次の荷受先へ急いだ。


 次の荷受先では、荷待ちになった。ライダーを呼んでおきながら、配送する荷物の準備が出来ていない状態だ。

 次郎は、一本目の荷物をボックスに入れている都合上、早く配送先に走りたく、いらいらしながら2本目の荷物が出来あがるのを待った。


 結局20分待たされて荷物を受け取ると、荷受先の担当から、先方に30分以内に届けて欲しいとの依頼。次郎は、2本目の配送を優先せざるをえなかった。

 得てして偶発的な事象が重なり、計画したことが思わぬ結果を招くことがある。本来なら1本目は、次郎が受け取ってから30分後に先方に届くはずだった。それが2本目の荷待ちと配送優先で、先方に届くのに1時間半に近い時間を要することになったのだ。本当にバイク便を使いなれている人間だったら、一本目の配送依頼は荷受け時間指定ではなく、着時間指定をしていただろうに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る