第34話
仕事を終えた翔子が家に戻ると、台所からいい匂いがする。見ると忙しく叔母が立ち働いていた。
「叔母ちゃん、来てたんだ」
「ええ、肉じゃがをたくさん作りすぎちゃったから、少し食べてもらおうと思って…」
翔子は叔母が嘘をついていることがわかっていた。わざわざ父と自分のために余分に作ってくれたのだ。心に負担を掛けないようにとちょっとした気遣いが出来る叔母だからこそ、翔子は頭が上がらない。
「翔子ちゃん、お腹空いたでしょ。ついでにご飯炊いておいたから、夕ご飯にする?相変わらず兄さんは飲み屋だろうし」
「ありがとう、叔母ちゃん」
手と顔を洗って戻ると、温かいご飯と肉じゃがが、食卓で湯気を立てて翔子を待っていてくれた。叔母は両肘をついて頬に手を当て、箸を動かす翔子を眺めていたが、ついに我慢が出来なくなったように口を開いた。
「その後、達也さんとはどうなの?」
「どうって?」
「会っているのかってことよ」
「前の週はよく会っていたけど、最近は会ってないわ」
「喧嘩でもしたの?」
「別に…」
「実は達也さんから電話があってね…」
「えっ、なんで叔母ちゃんの電話知ってるの?」
「あたし…達也さんの病院に通院してるでしょ」
「あいつ…」
「ねえ、達也さんからの電話にも出ないって…本当?」
翔子は答えずに肉じゃがを頬張っていた。
「達也さんが浮気でもしたの?それで怒ってるの?」
「そんなんじゃない。」
「電話の様子じゃ、達也さんだいぶ困っているみたいで、土下座でも何でもしそうな勢いだったわよ」
「やめてよ、叔母ちゃん…」
話しが段々こんがらがっていく。もともと達也を恋人などと嘘をついた自分のせいだ。そして嘘に巻き込んだ達也に悪いことをしたとはわかっているのだが、自分の心に意味不明な気持ちを運んできた達也になぜか苛立っている。彼に会いたくない。もう叔母に嘘をつき続けるのも限界かも知れない。
「一度話しを聞いてあげなさいよ」
「実はね、叔母ちゃん…」
翔子が箸を置いて叔母に、本当のことを告げようとした時、ドアチャイムの音がした。叔母が慌ててドアフォンに走る。
「どなたですか?」
「上田達也です。翔子さんいらっしゃいますでしょうか?」
叔母が翔子に振りかえって愛想笑いをした。
「ごめんね、私が呼んじゃった…」
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