第8話
「だからさ、副長。あの時は俺も若かったわけで…」
酔いが回ったのか、次郎は排気ガスよけに使っているライムグリーンのバンダナで鉢巻をして盛んに言い訳をしていた。今日は、仕事終わりに待ち合わせた哲平と居酒屋で飲んでいるのだ。
「理由になるか。相手の団長の女に手を出しやがって」
「…ですね。今考えると、よくうちの団長は、自分を庇ってくれましたよね」
「ああ、…。俺も団長の命令とは言え、ケンカに付き合わされていい迷惑だ」
「大変失礼いたしました」
次郎が深々と頭を下げて、哲平のグラスにビールを注いだ。
「そこまでして奪った女と暮らせて幸せか?」
「うーん…、なんとも答えようがないですね。今頃あいつは、でかい腹を突き出して、俺の稼ぎを取り上げようと、家で待ち構えていますよ」
ビールを飲みかけた哲平の手が止まった。
「出来たのか?」
「ええ、どうやら…」
「なんだ、お前の話って…それか?」
「ええ、まあ…」
「いつ生まれるんだ?」
「あと…3カ月で、ご対面です」
「そうか、めでたいなぁ…お前が父親ねぇ」
「申し訳ありません。」
「謝ることじゃないだろう」
「でも、なんか自分でも変な気分ですよ」
「父親になるんじゃ、お前の好きなライムグリーンのZRX(400 カワサキ)も、しばらくはお預けだな。」
「そんなもんでしょうか…」
「当たり前だろ。父親になったらそう簡単には死ねないんだから…」
「聞こえたぞ。次郎君は父親になるのか」
突然、哲平と次郎の席に初老の男が割り込んできた。
「先生!」
哲平と次郎が声を合わせて叫ぶ。いきなり登場した男は、かつて彼らが悪さをしていた中学時代、彼らを厳しく叱り、そして優しく庇い続けてくれた恩師なのである。
教師の類に洩れず酒好きだから、たまに飲む席で遭遇することがある。しかし、ここ最近は哲平も忙しくて顔を合わせていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます