第3話

 ブルースは身体をライダーにすりよせて、嬉しそうにしている。


 達也はあらためてそのライダーの姿を眺めた。赤いヘルメットに赤いチーフ。肩幅の割にはウエストのしまった皮のライダースジャケットを身にまとい、引き締まったお尻と長い脚が強調されるピッタリのデニムのズボン。そして黒光りする長靴。

 立ち上がると思いのほか細身である。次第に達也の目の光が、驚愕から憧憬へと変わっていく。

 ライダーは、ブルースの首輪を持って達也に近づいてきた。ブルースの首輪を達也に握らせると、ライダーはグローブを外す。その指先は、細い上に爪が整えられ、いかつい出で立ちに反してとても繊細に感じた。


「自分の犬ぐらい、ちゃんと面倒見なさい」


 そう言いながらヘルメットに手を掛けて持ち上げる。

 すると、日差しに透けると赤く輝く艶やかな長い髪がヘルメットから飛び出してきた。よく見ればライダースジャケットの胸も少し盛り上がっている。髪の間から覗く瞳が、少し怒気を含み、それがブラウンの瞳により赤みを増して情熱的に輝く。

 潤う唇とすこし鋭角的ではあるが柔らかい線で描かれた顎が、男性的な出で立ちに反発して、その女性としての美しさを際立てていた。ネオではなく、トリニティなのか…。達也は彼女を見てそう思った。


 赤いヘルメットを腕に掛けて、自分のバイクに戻るトリニティ。

 達也はブルースにリードをつけると、慌てて彼女の後を追う。信じられないことに、トリニティは、200キロもあるバイクを難なくひょいと立ちあがらせた。カウルの一部が割れ、片方のハンドルミラーがだらしなく垂れ下がる。しかし、セルボタンを押すとエンジンは問題なくかかった。


「あの、身体は大丈夫ですか…」


 達也がトリニティに呼びかけるも、メットを被り、余計なガソリンを飛ばすためにエンジンを吹かす音にかき消されて相手に届かない。


「あのーっ、修理代を!」


 達也の必死の呼び掛けも虚しく、彼女はスタンドを上げてギヤを入れると、けたたましいエンジン音とともに走り去ってしまった。

 かっこ良過ぎる…。達也とブルースは、走り去るトリニティの後ろ姿をいつまでも眺めていた。

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