like a light

丁_スエキチ

 

「フェネックー!留年の危機なのだー!!!」

 放課後の教室で宿題を解いていたら、アライさんが絶叫しながら泣きついてきた。

「どうしたのさー」

「英語の和訳問題が全然わからないのだ!このままでは次のテストで赤点を取ってしまうのだ……。絶体絶命なのだ……」

「たぶん留年はしないと思うけどねー?」

「とにかく英語を教えてほしいのだフェネックぅ……」

「しょうがないなー」

 自分の開いていた教科書を一旦閉じてアライさんに向き合うと、アライさんは、黒板に英語のフレーズを書き始めた。チョークの音が私たち二人しかいない教室に響く。

「どれどれ……"like a rising star"が訳せないの?」

「一応訳はつくったのだ。"like"は『好き』って意味だったはずなのだ……。でも『のぼっている星が好き』って書いたらバツをもらってしまったのだ!」

「あー、アライさんやってしまったねぇ。『好き』の"like"は動詞だから、主語が必要なんだよー。これはたぶん、前置詞の"like"なんじゃないかなー」

「ふえぇぇ⁈」

 さっき閉じた教科書をまた開いて、問題のフレーズが出てきた箇所を探す。たしかにこの"like"は前置詞として使われているみたいだ。

「ほら、アライさん、見てここ。この文は既に動詞があって、その目的語にくっついてるから前置詞句だよ。」

「ぐぬぬ……」

「あと、"rising star"は『新星』とか『期待の星』って意味みたいだねー。ページ下の脚注に書いてあるよー。『のぼる星』だとそのまま過ぎるみたい」

「不注意で見落としていたのだ……。"rising star"ってそういう意味だったのか、まるでアライさんのことを表す言葉なのだ!……フェネック、笑わないでほしいのだ」

 思わずふふ、と笑ってしまったけれど、別に莫迦にしてるわけじゃないのさ。いつもまっすぐで、何かに夢中になる眩しい後ろ姿はたしかに星のようで。そんなアライさんを見ていると笑顔になるから。

「ひとまずありがとうなのだ、フェネック。でも折角だから、他にも色々教えてほしいのだ」

「いいよー。それじゃあ、アルパカさんのカフェに行って一緒に勉強しようか。かばんさんに聞いたんだけど、期間限定のメニューができたらしいよー」

「何っ⁈それは是非とも行かなきゃダメなのだ!善は急げなのだ、フェネック!!」

「ちょっと待ってアライさーん」

 アライさんは黒板も消さないで、荷物を持って駆け出してしまった。こうなってしまったら止まらないんだよなあ、やれやれ、と思いながら付いて行こうとしたけれど、ふと思い立って、黒板に書かれた文字列の初めに一文字、"I"とだけ付け加えて、それからアライさんを追いかけた。

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