第34話 川村優太

「中身が違うどころか、ミウが普通では有り得へん状態になってるねん」


 僕の問いに対して、リナさんが補足を始める。


「普通、子供は父親と母親の双方の血を受け継ぎ、それを身体に内包するものやけど、今のミウからはウチの――母親の血しか受け継いでいない状態やねん」


 僕らの世界で言うと母親の遺伝子しか無い状態だって事だろうけど、遺伝子は必ず父と母の両方から貰うと、生物の授業で習ったと思う。

 それはつまり、リナさんの言う通り、ミウちゃんが有り得ない状態になっているという事だ。

 ただ、父親の遺伝子が存在しない事によって、具体的に何がどうなるかは僕には分からないけど。


「リナさん。ミウちゃんの状態が異常なのは分かりました。でも、この状態を救うために、僕と明日香が子供を作る……というのが繋がらないんですが」

「……優ちゃん。優ちゃんはウチの夫で、ミウの父親である川村優太の事を知らんって言ったやろ?」

「えぇ。名前も聞いた事がないです。でも見た目や声が僕にそっくりで、だけど父さんの隠し子とかでは無いって言っていましたよね?」

「うん。優ちゃんの兄弟って事は絶対にない。でも、優ちゃんと血縁関係ではあるねん」

「え? でも従兄弟や親戚に、そんな名前の人は居ないと思いますけど」


 僕の言葉にリナさんが頷き、肯定する。

 だけど兄弟や従兄弟ではなく、親戚でもないのに血縁関係にあるというのはどういう事だろうか。

 新たに湧いた疑問を余所に、リナさんが話を続ける。


「優ちゃん。この前、優ちゃんがウチの夫じゃなかったって気付いた時、どうして家に来た事があるのかって、ウチに聞いたやろ?」

「そうですね。その時は説明出来ないって言っていましたけど」

「あれな、ホンマの事を言うと、ウチが結婚の挨拶を優ちゃんへするために来てん」

「リナさんが川村優太と結婚するから、僕の家へ挨拶に来た……ってどういう意味ですか?」

「ごめんな。分からへんやんな。でも、そのまんまの意味やねん。ウチは、優ちゃんと明日香さんの二人の間に出来た子供、川村優太の妻やねん」

「……は?」


 リナさんの話が理解出来ず、間の抜けた言葉と共に、その意味を考える。

 僕は明日香の事が好きだけど、付き合っている訳でもなく、結婚している訳でもない。当然、僕と明日香との間に子供なんて居ない。

 けど、僕とそっくりだという川村優太という人と間違えて、リナさんは僕を夫だと思い、ミウちゃんもパパだと言う。その上、家まで知っていて、川村優太と共に結婚の挨拶をしに僕の所へ……


「もう一度言うな。ウチは、優ちゃんの息子の妻――義娘カワムラ=リナ。そしてミウは、その娘やから優ちゃんの孫やねん」

「……僕は未だ子供なんて居ないよ?」

「うん、今はね。でも、優ちゃんと明日香さんが結婚して子供が生まれて、その子供が十七歳になった時、異世界――ウチが住んでいた世界へやって来るねん。それから、滅びかけていたウチら獣人族の国を救って、第二王女であるウチと結婚する事になって……」

「ちょ、ちょっと待って! 一気に話が飛躍したけど、僕の子供が異世界へ行くの!? しかも、そこで一つの国を救って、王女と結婚……って、リナさんってお姫様だったの!?」

「せやで。優ちゃんの子供は、ウチらの国が手も足も出んかった敵国を打ち倒して、さらに痩せた土壌を回復させて、穀物が沢山採れるようにしてくれてん。だから英雄扱いされていて、元々恋仲やったとはいえ、王族であるウチとの結婚も認められてん」


 これは、ラノベの話かな? よくある異世界もの? 日本人の少年が異世界へ転移して、チートで英雄になって、お姫様と結婚……って、有り得ないよね。

 そもそも異世界へ転移……って、でもリナさんは魔法を使ってみせたし、獣耳が生えていた。

 え!? まさか、本当に本当の話なの!?


「つまりウチらは、優ちゃんからしたら、未来から来てんねん」


 いやいやいや。ツッコミ所が有り過ぎて、もう何から突っ込めば良いか分からないんだけど。

 異世界の話かと思ったら、今度はSFみたいな話になってきたし。

 仮にリナさんの話が全て真実だとした場合、おそらく僕の子供――川村優太が生まれなくなってしまって、その娘であるミウちゃんが異常をきたしているっていう事なのだろう。

 だけど、そもそもリナさんは、どうして今の僕の世界――過去へ来たの? というか、異世界間を行き来するだけでも無茶苦茶だというのに、時間まで行き来出来るの!? 異世界の魔法って、何でもアリなの!?


「一先ず話を聞いたけど、とにかく僕と明日香が子供を作って、無事に川村優太が生まれれば、今ミウちゃんに起こっている事が解決するはずだと、リナさんは考えているって事かな?」

「うんっ! 流石、優ちゃん。理解が早い! というわけで、今から早速夜這いに行こっ!」


 ようやく考えが伝わったと喜ぶリナさんとは対照的に、僕は溜息と共に頭を抱える事になってしまった。

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