第13話 外出
玄関を出ると、リナさんの言っていた通り、門の前で明日香が右へ行ったり、左へ行ったりとウロウロしている。
庭を歩く僕から見えている訳だし、明日香から僕も見えるはずなのに、オロオロして気付いていないみたいだ。
「明日香。何してるの?」
「え? ……ゆ、優斗っ!? ど、どうしてここにっ!?」
「どうしてって、僕の家だし。とりあえず、上がって行く?」
そう言って門を開けると、小さく頷いて明日香が僕について来た。
「ち、違うんだからねっ! 優斗に会いに来た訳じゃなくて、ミウちゃんが心配で来たんだからねっ!」
いや、明日香が僕に会いに来てくれる訳が無いっていうのは分かっているけれど、何故にツンデレ風? それともただの天然かな?
背中から聞こえた声にクスリと笑い、
「えっと、明日香は家も近くて父さんや母さんだって知っているし、琴姉ちゃんや優子とも面識があるでしょ? だから、何も気にせず入って来て良いんだけど」
「そ、そうね。優斗とは幼馴染みだもんね」
「そうそう。家族を除けば、一番一緒に居る時間が長いんだから」
自分で発した言葉だというのに、色々と考えてしまう。
明日香は、従姉弟で家に居候している琴姉ちゃんよりも長い時間を過ごしてきた。
小学校、中学校、高校、そして大学。小学校と中学校はともかく、高校に大学の学部まで同じ。これは明日香も、運命とかって思ってくれているかもしれない。
……まぁ高校も大学も、願書提出時にさり気なく明日香の志望校を聞いて、それに合わせたんだけど、きっと気付かれていないはず。
だから、一刻も早く想いを伝えたいのだけれど、
「優ちゃーん! ミウと一緒に公園へ行く事になってんけど、水筒って無かったっけ?」
明日香と共に玄関へ入った途端、リナさんが僕の腕に抱きついてきた。
「ま、また抱きついたっ! ちょっと、いい加減にしてくださいっ! 優斗が困っているじゃないですかっ!」
「ふふっ。そうかなー? 優ちゃんは困ってないと思うけどなー」
あ、あれ? 昨日とは違って、明日香に対するリナさんの態度が少し違う気がする。
何て言うか、余裕がある? みたいな。
「優斗。どういう事?」
「え? いや、僕にも何の事だか」
「うんうん。ちょっと記憶が混乱してるかもしれへんけど、ちゃんと優ちゃんの本能が覚えてるから大丈夫やで」
そう言いながら、リナさんが僕の右腕にグイグイ胸を押しつけてきた。
でも、一方でリナさんの視線は、明日香の控えめな胸に注がれている。
これはまさか、今朝と先程のお風呂でのやり取りで、僕が大きなおっぱいに弱いというのがバレたのかっ!?
「……」
気付けば無言のまま明日香がジト目で僕の事を見ていた。
違う、違うんだっ! 僕は明日香の控えめな胸も好きだよ? でも、おっぱいの感触に逆らえる男なんて……
「ミウちゃん! ほら、ミウちゃんが待ってますよっ! 水筒も探しましょうっ! 明日香も手伝って」
あえて苦手な子供――ミウちゃんの事を考え、テンションを下げて冷静になる。
危ない所だった。明日香の前だというのに、フニュフニュした感触で頭が真っ白になって……まさか、この為にあえて明日香を招き入れたとか!?
リナさん……おそろしい子!
いや見た目はともかく、僕より年上で、しかも人妻なんだけどさ。
「いやーん! 可愛いー! このニット帽も可愛いっ! スカートとタイツの組み合わせも良いっ! 可愛いぃぃぃっ!」
リビングへ戻ると、着替えを終えたミウちゃんの前で、琴姉ちゃんが悶えながら、床の上を転げ回っていた。
かと思うと面白そうだと思ったのか、ミウちゃんも寝転び、琴姉ちゃんの真似をして笑いだす。
「きゃはは、きゃわいー! きゃわいー!」
「あぁぁぁ、舌っ足らずなのも可愛いっ!」
ミウちゃんはともかく、琴姉ちゃんは一体何をしているんだよ。
とりあえず楽しそうなので、ミウちゃんを琴姉ちゃんに任せたまま、キッチンで水筒を探し始める。
「優斗。これなんて、どう?」
「コップも付いているし、サイズ的にも良さそうかも。リナさん、どうですか?」
「そんなに沢山飲まへんやろうし、小さくて重くなさそうやから、えーんとちゃうかな」
無事に水筒も見つかったので、ミウちゃん用にお茶を注いで、いざ出発。
琴姉ちゃんがミウちゃんの右手と手を繋ぐと、リナさんがミウちゃんの左手を握りつつ、さり気なく僕の右腕に腕を絡めてきた。
この流れで行くと、僕は左手で明日香と手を繋ぐべきか? いや、繋ぐべきだ!
今なら、琴姉ちゃんから始まったからノリで……と、最悪冗談で済ませられるだろう。
幸い、明日香は僕の左隣を歩いている。
さり気なく、さり気なくだ。ただ、偶然そこに手があったから繋いでみたら、明日香の手だった。それくらいの何気ない感じで、何も気取られない様に手を握るんだっ!
ゆっくり、だけど慎重で確実に明日香へ手を伸ばし、僕の指と明日香の指が触れ合い、
「パパーっ! だっこーっ!」
まだ少ししか歩いていないと思っていたけれど、歩き疲れたミウちゃんに抱っこを求められてしまった。
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