幼馴染に告白したいのに、金髪美少女(子持ち)が全力で迫ってくる

向原 行人

第一章 どちら様!? 金髪母娘現れる

第1話 告白

「明日香。僕は、前から君にずっと言いたかった事があるんだ。それは……」


 好き。

 小学生の頃から一緒に居る幼馴染みの少女を前に、たった二文字が言えずに僕は口籠る。


 しっかりしろ、川村優斗!

 明日香と同じ大学に合格したら告白するって決めたんだろ!? そのために必死で勉強したんだろ!?


 今、僕と明日香が居るのは、伏見稲荷大社という大きな神社の中にある、人気の無い静かな池の前だ。

 池の周りには朱色の柵があって、周囲には大小様々な鳥居が沢山ある。

 決してロマンチックな場所とは言えないけれど、僕にとっては幼い頃に明日香と仲良くなるきっかけとなった思い出の場所だから、告白するのであれば今しかない。

 頭が真っ白で、ここまで何を話してきたかは忘れてしまったけれど、明日香はいつもの様に微笑みながら、僕の言葉を待ってくれている。


 言え! 言うんだ!

 明日香と恋仲になって小さな唇にキスしてみたり、艶のある黒髪を撫でてみたり、控えめな胸を触ってみたりしたいだろ?

 少しの勇気と口を動かして、僕と明日香は幼馴染みという関係から、恋人という関係になるんだっ!


 意を決して、僕は再び口を開こうとして、


「あ、パパー!」


 突然可愛らしい声が耳に届く。

 さっきまで誰も居なかったのに間が悪い。

 早く通り過ぎてくれないかと思って声がした方に目を向けると、金髪の小さな女の子が視界に映った。

 一歳? それとも二歳? かなり幼いし、幼稚園児ですらないだろう。

 トコトコとゆっくり歩く様から、二歳前後だと思う幼女が一人で近づいてくると、


「パパァー! だっこー!」


 何故か僕の足元で、甘えるような声と共に小さな両手を大きく広げて上に向ける。これって、僕をお父さんだと勘違いしているのだろうか。

 僕はまだ十八歳だし、髪の毛だって真っ黒で、顔も背丈も外人っぽい要素なんて無いんだけど。


「パパー! パパー! だっこぉーっ!」


 どうして良いか分からず固まっていると、女の子が両手を上げたまま、身体を上下に揺らしだす。

 早く抱っこしてって事だよね?

 言いたい事は分かるけど、そもそも僕は君のお父さんじゃないんだ。

 それより、お父さんかお母さんは何をしているの!? こんなに小さな女の子を一人にして。


「ねぇ、どうしたのかな? パパと逸れちゃったの? お姉ちゃんと一緒にパパを探そっか?」


 何も出来ない僕に代わり、明日香がしゃがみ込むと、女の子に目線を合わせて話しかける。

 明日香の優しい笑みを向けられた女の子は、


「やだっ! パパがいいー!」


 プイッと顔を背け、何故か僕の右足にしがみついてきた。

 小さな額を僕の脚にくっつけ、短く細い腕がふくらはぎに伸ばされる。


「えぇー。いいなぁー、優斗。妖精みたいに可愛い女の子から、もの凄く好かれて」

「いや、好かれるも何も、お父さんと間違えられているだけなんだけど」

「あはは、そうだね。でも、この子のお父さんはどこに居るのかな? こんなに幼い子が居なくなったんだから、凄く心配してると思うし、探さないと」


 そう言って、明日香が立ち上がる。

 残念ながら、もう告白するような空気ではなくなってしまった。

 けど、僕たち三人を除いて周囲に誰も見当たらないし、とにかく親を探さないと。


「見た目は完全に外国人だけど、日本語を喋っているから、ハーフなのかな?」

「たぶん、そうじゃないかなー。優斗をお父さんと間違えているくらいだし、きっとお父さんが日本人で、お母さんが外国人なんじゃない?」


 僕たちが住む京都府伏見区にある伏見稲荷大社は、日本でも有数の外国人観光客が多い場所で、普段の週末なら外国人が大勢いる。

 そのため、金髪の女性という条件だけで探すのはかなり難しそうだけど、幸い今はゴールデンウィークだ。

 纏まった大型連休だけど、それは日本だけの話。今なら外国人もそれほど多く無く、すぐに見つけられるかもしれない。


「ねぇ、お名前は何ていうのかな? お姉ちゃんに教えてくれる?」


 明日香が再び目線を合わせて女の子に尋ねる。

 すると、何故か女の子が無言のまま僕の顔を見上げてきた。お父さんだと思っているから、僕に名前を話して良いか確認しているって事なの!?


「え、えっと、お名前は?」

「ミウ……」

「むー。優斗の質問には答えるのに、私の質問には答えてくれないー」


 しゃがみ込んだままの明日香が頬を膨らませて見上げてくるけれど、これって僕が悪いの!?

 相変わらずミウちゃんは僕の足にしがみついたままで、だけど無理矢理引き剥がす事も出来ず、どうやって探しに行こうかと考えていると、不意に黄色い声が響く。


「あ、優ちゃーんっ! えへへ。ウチ、どうしても優ちゃんに会いたくて、来ちゃったー!」


 その直後、僕の傍で金色の風が吹いたかのように、煌めき、輝く綺麗な金髪の女の子が僕の胸に飛びついてきたかと思うと、柔らかい温もりが触れる。

 明日香よりも一回り小柄で高校生くらいに見えるのに、出る所はしっかり出ていて、重厚な膨らみが僕の胸に押し付けられ、甘い香りが鼻をくすぐってきた。

 正直、女の子に抱きつかれた事なんて、小学生の頃以来だけど、どうして見ず知らずの金髪少女が僕に抱きついてくるのさっ!


「だ、誰っ!? どうして僕の名前を知っているの!?」

「え? どうしてって、何を言ってるん!? 優ちゃん、ウチの事が分からへんの!?」

「う、うん。あの、どちら様ですか?」


 僕の言葉に驚いた少女が、顔を離して驚きの表情を浮かべる。

 大きな瞳を丸く見開き、口をパクパクさせて、声にならない程驚く少女は、僕も驚かされる程可愛い。

 だけど、その少女は僕の言葉に対し、


「優ちゃん!? ウチは優ちゃんの妻やん。どうしたん!? 大丈夫!?」


 これまでの驚きを軽く凌駕する、全く身に覚えのない言葉と共に、ギュッと僕の身体を抱きしめてきたのだった。

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