第65話 学園ラブコメ編ラスト ときめきでもリアル

 うっ 腹の辺りが重い……苦しい 息が 息が出来……


「ヴィ……ディ止める……ですよ」


 え? うなされつつ眼を開ける、サワサワする腹の辺りに視線を向けると…………


 うわーーーー!!



 キッショ ヴィバルディが蠢いているよ!!


「ニーナ は 早く ヴィバルディを避けてくれ」

「あわわわ。ヴィバルディ、お兄ちゃんに、ごめんなさい。しなさいなのです」



 慌ててニーナがヴィバルディを持ち上げると、ご丁寧に顔面の前まで持ってきて、ごめんなさいをさせてきた。


 悪夢の何段重ねだよ!


「に ニーナ もう大丈夫だから、起こしてくれてありがとな」

「ハイなのです。朝食も出来てるのです」


 引きこもりらしいニーナが作ってくれたパンと目玉焼を食べ終え、着替えを済まし家を出た。


 今日も風が心地良く快晴、気持ちの良い天気だね。

 セイラが夕べに投げた紙ヒコーキを拾い開けてみると『鈍感主人公』『難聴主人公』と書いてあった。


 っつーことは最後はどうせ「ラノベ主人公」とか書いてあんだろーな。と思いつつ、3つ目を開いた。


『コッチヲ見ロ』


 うわっ……血文字じゃねーかよ! これ、セイラが紙で指を切ってから書いただろ!

 こんなハートアタックいらねーから。やれやれだぜ。


 一度家に戻り紙を捨ててから、隣にあるセイラの家に向かった。


 ピンポーン


「おはようマサムネ」


 ドアが開き出てきたセイラは、ちゃんとスカートを履いていた。こうやってちゃんとしてれば可愛いのに。ってか、その爽やかな笑顔で血文字をお前は書いていたのか。


「おはよ。行くぞ」


 俺が普通の高校を行っていたら、こんな感じで登校する事もあったのかな。



「マサムネ、歩くの早くない? 」

「あっ わり。キツかったか? 」


 俺から視線を外しながらセイラは呟いた。


「ま まだ全然間に合うし、ゆっくり歩けば 」

「でも、ゆっくり歩くってのも難しいんだよな。痛っ」


 カバンを振り回し俺にぶつけてきた。


「鈍感主人公」

「何 怒ってんだよ! 」

「アンタがバカだからよ」



 そう言い残すとセイラは駆け足で去っていった。

 意外とゆっくり歩くの難しいんだぞ。 高身長で足が長いから余計にな!


「よぉ マサムネ」


 後ろから声を掛けられ振り向くと四季の姿があった。

 身長ちっちぇーのに制服来てるから、アンバランスが笑える。


「四季か。どうした?」

「本気でやらないと一生このままだよ」

「本気でって。一応頑張ってるんだけど、なかなか上手く行かねーよ」

「皆も何だかんだ心配してんだからね」

「まぁ、BLエンドは嫌だもんな」

「それもだけど、このままエンドを迎えたら最悪だからね! みんな信じてるから」

 俺を睨みながら四季は半透明になり、スゥっと消えていった。

 何だよ、おかしな事を言いやがって。



「おはよー マサムネ」

「おはよ。アベルにディアボロス」


 教室に入るとセイラは席に着いており、俺を見るなりツンとそっぽを向いてはアイリと話し始めた。



「氷芽さん~ からかわないでよ~」


 ま~た。こいつらは……


「だって、デストラからかうの面白いんだもん」

「アベルとかの方が弄られキャラで反応とか面白いじゃん。僕何か面白くないから誰も弄らないよ」


 氷芽は右の口角だけを上げた。

「じゃあ。私がデストラを独り占め出来るじゃない。やった! 」



 うおおぉぉ

 改心の一撃! これはデストラでなくてもやられる。今から氷芽エンド目指そうかな。



「ルナルサ様! お体は大丈夫で御座いますか? 」


 教室の入り口でオズワルドが声を上げるので目をやると、赤い髪をしたルナルサが入ってきた。


「オ オズワルドさん。大丈夫です。ほら この通り ゴホッ ゴホッ」


 吐血してるーー


「ルナルサ様。無茶しなあで下さい。生まれつき病弱なのですから」

「いえ、この位の吐血は吐血の内に入りません」


 ルナルサは白いハンカチを口に当てると、ハンカチは赤く染まっていった。


「ルナルサ様。早く病院に」

「オズワルドさん。マサムネさんの苦しみに比べたら、こんなもの……」


 俺の苦しみ? 確かにめちゃくちゃ苦しんでるけど


「ほら、呪われたくなければ全員席に着く」


 美雨が入ってくると一瞬で静寂と化した。

 教室を見渡すと美雨は凛とした声を上げ廊下に顔を向けた。


「転校生を紹介します。入ってきなさい」



 ウ……ソだろ! 何でここに出てくんだよ。

 転校生が入ってくるなり教室の空気が、さらに張り詰めた。みんなが教卓の横に立つ女の子に見とれていた。



「マサムネと四季以外は初めましてですね『セゾン』と申します。短い間になると思うけど宜しく」


 セゾンは挨拶をすると、ほのまま俺の隣の席に座った!



「久しぶりねマサムネ」

「あ あぁ……」

「何よ! あたしに会えて嬉しくないわけ? ほら、ここでは腕も足もあるから、マサムネを抱き締める事も出来るのよ」


 セゾンが微笑み掛けて来ると、斜め前に座っているセイラが振り返ってきた。


「私がここに来たのは。マサムネがグズグズしてるからよ」

「グズグズって。このゲーム難しいんだよ! やたら男に好かれるし、女からは嫌われるし」

「バカね。まぁ、私は死んでるから一生このままでも良いけど、マサムネの事を心配している子は残念がるでしょうね」



 何か話が噛み合わない…… ルナルサもだし四季もだし。


「マサムネ、良く聞きなさい。あなたは早くここから目覚めないとダメなの」

「そりゃあ 俺だってそうしたいよ」

「なら、自分の気持ちを打ち明ける事ね。私みたいに手遅れになるわよ」



 自分の気持ちって言っても、俺は本気でセイラが好きな訳じゃない。ここにはいないがシャーロットにしてもそうだ。他のキャストも仲間としては大好きだが、恋愛感情は持ち合わせていない。

 どうすれば良いんだよ。



 そのまま放課後を迎えるとセイラが歩み寄ってきた。


「か 帰るわよ」


 俺が声を掛ける前に隣に座るセゾンが話し掛けた。


「セイラ。マサムネはどうしようもない馬鹿なの」

「し 知ってるわ」

「だから、無理矢理にでも連れていかないと私が貰っちゃうわよ」

「そ それは困る。私も皆もマサムネが必要だもん」

「ふふふ 人気者ねマサムネ。ちょっと妬けちゃうわ。私が言えるのはここまでね 次に私と会えるのは当分先になると良いわね」


 セゾンは席を立つと俺にウインクをしながら教室を出ていった。



「マサムネ 帰ろう」

「あ あぁ」



 朝と同じように並んで歩くが、違うのは会話がない事くらいだ。俺は重苦しい空気に堪えられず口を開いた。



「お前って俺の事好きか? 」

「な 何、言ってんのよ!」

「いや 率直に聞きたいと思って」

「分かんない」

「え?」

「だから! 分かんないって」

「いやいや、分かんないってお前。そしたら俺クリア出来なくね? 」


「じゃあ マサムネはどうなのよ? 私の事好きなの? 」

「いや それは分かんない」

「え? 」

「だから 分かんねーよ」


 何故かセイラは笑いだした。俺も連られるかのように笑いが込み上げて来た。



「マサムネ、もう良いよ。別に無理に好きになったり好かれたりするもんじゃないし」

「だな。俺たちには俺たちだけの関係性がある。一々答えを出さなきゃならない事もねーよな」

「うん。だから だから早く戻って来て 私も皆もマサムネを待ってるの!」

「良く分かんねーけど、俺は皆もだし、もちろんセイラも好きだ」


 タッタッタッタッ


 後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきたので振り向くと、四季が全速力で向かって来ては俺の前でジャンプし飛びかかって来た。



「もう 飽きたし、面倒くさ~い! いい加減起きろ!!!!」


 ズゴツッッッ

 暗闇が支配した。



「……ムネ……はや……きて……」

「マサムネ……じゃ嫌だよぉ」

「マサムネ。目を覚ましてよぉ」



 …………ん?


「やった! 四季ちゃんのクリティカルで起きたよ」


「おぉ マサムネ大丈夫か? 」



 あれ? ここは……店だよな?



「っ痛 頭が痛い。俺、何したんだ? 」

「良かったにゃ~ マサムネが起きたにゃ~」

「アイリ。ってか、皆もどうしたんだ? 何で泣いてるんだよ? 」



「この四季が説明しよう。マサムネは、天井のライトを換えようとして椅子の上から落ちて頭をぶつけて、ずっと眠ってんだよ! みんな、心配して帰らないから、もう一回頭を打てば起きるかな。って思って、頭を叩いたら、ご覧の通り起きた! 」



 だからか! すげー頭がズキズキする。


「何かうわ言で『氷芽がぁ』とか『セイラも好きだし』とか言ってましたが、どんな夢を観てたのです? 」


「美雨先生! 」

「先生? 」

「いや 何でもない。こっちの話だ う~ん。何だっけ……何か苦しかった様な楽しかった様な、良く分かんねー夢だった気がする」




 無事にマサムネも戻ってきたドゥルキスも残り僅かな時間を迎えていたのであった。

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