第33話 変態魔王と笑わない猫
店内もほどよく客が入り始めた頃、バックバーでは黒ギャル爆乳のケットシーである、アイリが背伸びと両腕を伸ばしながら欠伸をしており、猫耳はピンと立って前を向いていた。
「アイリ。欠伸と猫耳からして眠そうだが、これからディアボロスが来るんだろ?」
マサムネの言葉に猫耳と一緒にビクッとすると、アイリは舌をペロッと出し、ディアボロスの為にカウンターテーブルを綺麗に拭きはじめた。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。席は空けておりますので、こちらにどうぞ」
「うむ。マサムネ、いつものシャンパンを頼む」
ドゥルキスに入るなりディアボロスはオーダーをすると、アイリが用意しておいてくれたカウンター席へと腰を下ろした。
「でぃあちん。今晩にゃん。いつも、ありがとにゃん」
席に着いたディアボロスにカウンター越しでアイリは礼を言うと深々とお辞儀をした。クリーム色した深めのVネックセーターからは、アイリの胸の谷間がしっかり見えており、ディアボロスは早くも顔を綻ばせていた。
「私が来たいから来てるだけだからな。胸と過ごす。じゃなかった、アイリと過ごす時間は、日々仕事に追われている私にとっては癒しの時間なんだよ」
「そっか。でぃあちんは、私と過ごす時間が卑しいんだにゃん」
「ちがっ」
ディアボロスは訂正しようとしたが、ちょうどマサムネがシャンパンを持ってきたので言いかけて辞めた。
「では、アイリの神が作りしナンバー・ワンにしてオンリー・ワン。太陽さえも輝きを羨望し、月さえも美しさに嫉妬する、2つの至宝に今宵も感謝を捧げて……」
『『おっぱい』』
アイリとディアボロスはグラスを手に持つと軽く合わせた。心地好い『チン』っとした音がディアボロスにとっては、饗宴のスタートの合図だったのである。
「そうだ。少し前にアベルから連絡が来てな、起業したいが何をして良いか分からない。らしい」
ディアボロスは最後に小声で困ったやつだな。と、呟きながらグラスを回し始めた。
「あべるっち。何か意気込んでたにゃん。でぃあちんは何て言ったにゃ?」
「起業にこだわらず、勇者の経験を生かして、講演会や本でも出したらどうだ?と言ったさ。あいつは喋るのも文章を書くのも苦手らしく、コミュ障らしいからな、だからパーティーから追放されて、仕方なく一人で魔王である私に立ち向かって来たらしい」
アイリの猫耳がピクピクと震えた。
「確かに、前に来たときもコミュ障っぽいところあったにゃ。コミュ障+サイコパスとか、もはや殺人マシーンにゃ。それはモンスターやられまくりにゃ」
ディアボロスは過去の配下を思ったのか、俯き伏し目がちに悲しい表情をした。
「あっ。 別に、でぃあちんが悪いって言ってる訳じゃにゃいよ」
ディアボロスは顔を上げると、両腕をカウンターテーブルに置いて身を乗り出しているせいで、アイリの両腕には大きな胸が乗っかっており、ディアボロスはその胸と目が合った。それだけで、ディアボロスの表情からは悲しさが消え、希望に満ち溢れる様に目に力が宿った。
「でぃあちん。ホント、おっぱい好きだにゃ。あまりアイリとは目を合わさないにゃ」
アイリの猫耳は後ろを向いてピンっと立っており、珍しく少しイライラしているようだった。
ディアボロスは慌てて、アイリの顔を見るように目線をあげると、何とかご機嫌を取ろうと話し出した。
「違うんだ。そのおっぱいにアイリの顔が付いているから余計に良いんだ……いや、違った。アイリあっての、そのおっぱいだから好きなんだ!」
「何か良く分かんにゃい。まぁ、今さら言ってもって感じにゃ。でぃあちんは、あべるっち。とは違って仕事は順調にゃん?」
アイリは姿勢を戻すと、グラスを持ちなおシャンパンを口に含んだ。ディアボロスは何とか評価点を上げようと自信満々に笑顔で答えた。
「順調だな。私の企業理念は昔から変わらず、『率先して人の嫌がることを自分がやる』だからな。そうすることで隙間産業や誰もやってない事が出来る。これをコンサル時に口を酸っぱく言っているのだよ」
グラスを静かにカウンターに置くとアイリは、口を尖らながら人差し指をディアボロスに振り向けた。
「でぃあちん。めっ! 人の嫌がることを率先してやっちゃ駄目にゃ。もう、魔王じゃないんだから、昔から変わらないとダメにゃ!」
「いや、そっちの『嫌がる』じゃない……」
ディアボロスは捨てられた犬の様な目で、テーブルに視線を落とした。
アイリはそのまま不機嫌になり猫耳は後ろに寝かせて怒っているようだった。
「しゃ シャンパンをもう2本追加しようかな」
「別にいらにゃい。でぃあちんも、そんなに飲みたくないんじゃないにゃ」
ディアボロスは捨てられ。かつ、雨に打たれながら段ボールに入っている子犬の様な目でアイリを見つめ、何とか状況を打破しようとお金で解決をはかったが、アイリは腕組みをし、そっぽを向いてしまった。
「いや、今日は乾燥してるせいか喉が渇いてな。こう、シュワシュワっとしたい気分何だよ……」
アイリは横目でディアボロスを見ると、黙ってシャンパンを取りに行った。ディアボロスからは深いため息が漏れていた。
「ハイ。シャンパンにゃ」
「え? 私が開けるのか?」
アイリはシャンパンをボトル事手渡し、ディアボロスは困惑したが、シャンパンのコルクを上に引っ張ったが開かずに、見かねたアイリが呟いた。
「ボトルの方を回すにゃ。そうすると、炭酸の圧でコルクがもちあげられるにゃ」
なるほど。とディアボロスは呟きボトルを力強く回し始めると、アイリが驚くように止めにかかった。
「ゆっくり回すにゃ! あと、怖いから安全な方向に向けるにゃ!」
ポンッ!!
ガタガタン ドンッ……
「うぉっ!」
コルクはシャンパンを開けていたディアボロス目掛けて吹っ飛ぶと、ディアボロスはコルクを避けるために椅子から落ちてしまった。
アイリは椅子から落ちたディアボロスを心配そうに見ていた。それを見たディアボロスはアイリを笑わすチャンスたと思い、お尻に手を当てながら起き上がると、ビックリするように叫んだ。
「ア アイリ!」
「ど どうしたにゃ? 怪我したにゃ?」
アイリの猫耳は前に垂れており、オドオドとしていた。ディアボロスはそのまま驚きを隠せないように声を上げた。
「け ケツが割れてしまっているーー!」
「…………にゃ にゃにゃ にゃんですとーーーー。そ それは大変にゃ。ど ど どうしよう。すぐ、救急車呼ぶにゃ。でぃあちん。割れたケツを抑えて閉じてるにゃ!」
アイリの垂れていた猫耳が、またピンっと立つと、前後左右に大きく揺れ動き、アイリは急いでバックバーの壁に備え付けてある電話の受話器に手を伸ばした。
「え? あ アイリさん。冗談ですが……ケツは割れてない方がおかしいんですけど、ってか、説明している私が凄い恥ずかしいんですけど……」
ディアボロスは手を尻から離すとカウンター席に恥ずかしがる様に座り直した。電話を掛けようとしていたアイリにマサムネが寄ってきては受話器を取り上げ壁にかけ直した。そのままマサムネは目でアイリに、ディアボロスの方を見ろと合図した。
アイリは目を丸くし、また急いでディアボロス方に戻った。
「でぃあちん。大丈夫にゃ? 痛くないにゃ? アイリがでぃあちんに、シャンパン開けさせようと思ったからにゃ。アイリのせいにゃ。アイリが悪いにゃ。でぃあちん。ごめんにゃさい~」
アイリは泣き出してしまった。ディアボロスは椅子から立ち上がると優しくアイリの頭を撫でた。ディアボロスが身長的に見下ろす形になるので、胸の谷間が見えるにも関わらず、ディアボロスは一切目もくれずに、優しくアイリに微笑みかけた。
「もう、大丈夫だ。こんなのはすぐに治った。なんせ私は『魔王』だった男だからな。さぁ、シャンパンを私が注ごう、アイリ飲み直そうではないか」
そこからのディアボロスは、アイリの胸だけではなく、目をしっかりみて話す様になった。
後日になって、ようやくおかしいことに気付いたアイリは、暫くディアボロスとの接客では、一切笑うことなく塩対応だったとさ。
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