第46話 決着7
蛇を連想させるような動きで黒いセカンド・アリアの連結剣がスケアクロウを狙う。ワイヤーによって予測しづらい動きとなったそれを曲芸のような動きで回避したスケアクロウがサブマシンガンで反撃をする。
しかし、サブマシンガンの威力では有効打を与えるには至らない。
≪クソッ、そんな攻撃で……!≫
彼にとっては自身と鮫島との力の差を見せつけられたように感じられたのだろう。威力の十分にあるライフルなら致命的なダメージを与えたであろう攻撃は渡をイラつかせたようだ。連結剣を元の状態へ戻したセカンド・アリアは一気に距離を詰めて来た。スケアクロウのロングソード改を警戒して連結剣の有効射程ギリギリで攻撃をしていたようだが、業を煮やしたようだ。
≪鮫島さん、今援護を!って、うわッ!?≫
四宮たちとバトンタッチしたのだろう、常盤のヴォイジャーが2機の間をライフルでもって遮る。が、次の瞬間にそれを横切るかのような動きで1機のカッシーニがセカンド・アリアに迫っていく。セレン機だ。
≪お前ぇッ!!≫
大きく振りかぶった、しかし隙の大きな一撃をその勢いを利用して受け流したセカンド・アリアはそのまま突きの体勢を取り、放たんとする。
「ちぃッ!」
角度的にセカンド・アリアの攻撃を防ぐことは不可能だ。それならば。それならばやることは一つ。鮫島は躊躇なくそれを実行する。
≪なっ……、何のつもりだ!≫
≪うわっ、どうして!≫
スケアクロウはセレン機を突き飛ばし、その身代わりとなる。反射的にセレン機が手を伸ばすが崩された体勢では届くはずもなく。迫る連結剣の切っ先は図らずもスケアクロウを捉え、そして貫いた。
***
「こんな終わり方など許されるはずが……」
渡が正面に映し出された光景を見て呟く。それは長年夢見て来た光景。しかし、それは渡の望まぬ形で実現することとなっていた。
≪これで、貴様の復讐は果たされ……たと、言ったところか≫
接触回線を通して鮫島の、スケアクロウの苦し気な声が聞こえる。セカンド・アリアの連結剣はスケアクロウのコックピット付近を貫き、背部まで貫通をしていた。刀身の幅から予測するにコックピットにもダメージはいっているはずで、さらにその損傷部分からはリアクターから供給されている粒子が漏れ始めており、それがリアクターにまで損傷を与えていることを示していた。致命的な一撃だ。
「俺はこんな終わり方なんて望んでいない!こんな、勝ち逃げのような……!」
≪パイロットの終わりなぞ、こんなもんだ。貴様は自分の命を……≫
「クソッ!こんな……」
胸の内で渦巻く言葉にならない思いに苛立ちながらも、スケアクロウから距離を置く。リアクターが損傷したならば誘爆の可能性がある。
≪鮫島さん!≫
スケアクロウと接触していた影響で恐らく五菱のパイロットなのであろう、女性の声が一瞬聞こえた。その瞬間、スケアクロウはリアクターからの粒子を伴って緑色の爆発を起こす。図らずも倒すべき敵を討ち果たした渡にとって、その爆発はひと際目に焼き付いた。
「ええい、後味の悪い!」
しかし、戦場で棒立ちになるほど渡はバカではない。追撃を仕掛けて来たカッシーニを避け、反撃を試みる。しかし、連結剣は失ってしまったし、左腕の速射砲も弾切れだ。仕方なく回避に徹する。
≪ワタリ君、まだ生きているか≫
ノイズ混じりの音声でサイラスの声が聞こえるしばらく識別信号がロストしていたが、彼も生きていたということか。しかし、わざわざ戦闘中に通信とは何事であろうか。彼が戦闘中に通信をするときはそれこそ――。
「撤退、ということか。しかしなぜ?」
今回の戦いは五菱らにとっては自らの安全を確保するため、またはこちらの情報を得るための戦いだろう。個人の思惑は別だろうが。
しかし、渡たちにとっては時間稼ぎの意味合いが強い。より重要な作戦のための陽動、いわば捨て石だ。それは別に自衛軍や五菱に限った話ではない。主だった個として強力な戦力を有する組織に対して、同じような時間稼ぎは行われている。それほどまでに渡のクライアントは用心深い。
それに、渡自身スケアクロウさえ仕留められればあとはどうにでもなれば良いと考えていた。間抜けな死に方は御免だが目的を果たした今、ロングソードで突き殺されようが、ライフルでハチの巣にされようが構わないと思っている。
≪そちらに例の白い機体が向かっている。暴走状態で味方すら撃ちかねん。それに私がこれから乗る艦にはちょうどロード1機とそのパイロットが乗るくらいの余裕がある≫
「何を考えている?」
レーダーの端にアウストリウスの識別信号が表示される。サイラスのいうことは間違いではないようだ。しかし、この男は信用しきれない。渡は常々そう思っていた。
≪君は特別見どころがある。実に"人間らしい"。率直に言って気に入ったんだ。君の復讐を果たしたその先が見たい≫
「その先、か」
≪時間はないぞ。その気があるならここへ来い≫
ノイズとともに回収ポイントであろう地点の座標が送られてくる。デブリ帯ではあるがさほど遠くはない地点だ。まだ味方が持たせている今が撤退する最後のチャンスだろう。
「今は退く……か」
今は自身の中にある色々な感情が整理ついていない。死ぬのはそれらの整理がついた後でも構わないだろう。そう思い至った渡は無言で撤退を開始する。僚機たちにはかわいそうだが、撤退までの時間稼ぎになってもらう。
「残存機は2機のチームへ再編成し、出来た者から艦へ攻撃!相手も消耗している。ここで仕掛ければ敵機の動きも守備に傾くはずだ」
これで十数分は時間が稼げる。アウストリウスが加わればその倍はたやすい。戦場が再び動き始めたことを確認すると、渡はそれに紛れて撤退を開始した。
***
≪ヤツは退いている、追うな!戦線の維持を優先しろ!≫
≪止めないでください、常盤さん!≫
≪状況確認急げ!敵はあと少しなんだぞ!≫
≪不明機急速接近。続けてベルセとファルケが戻ってきます!≫
アウストリウスを追って母艦の周辺へと戻って来たベルセとファルケのコックピットに様々な通信が飛び込んでくる。
「どうなってんだよ、こっちは!」
≪落ち着きなさい。敵機は大方片付いている。でも残存機が艦への直接攻撃を仕掛けてきてる。あの機体を止めないと帰れなくなるわよ≫
急ぐミハイルに冷静になるよう声をかける。敵の残存戦力は時間がかかるが友軍と五菱の戦力でどうとでもなる。アウストリウスを止めることに専念しろ、と言っているのだ。
「分かってるけど……!」
≪今はあの機体を達磨にしてでもノアを止めるのよ。私が援護するんだからあなたでもできるわ≫
いつものように少々高飛車な口調で畳みかけたライサは、移動をやめ、狙撃のための位置取りをする。選ぶ弾丸はペネトレイター。多少頑丈な程度の装甲はものともせず、かつ弾速も早い。ビームにはその速度を譲るが、発射前の銃口付近の発光や発熱といったものがない分気取られにくい。一番状態の良いバレルをペネトレイターが装填されているチェンバーに合わせた。
「やってみるけどさ!」
辺りに弾丸を乱射するアウストリウスに追いついたベルセが、機体の各所に取り付けられた追加装甲から排出される余剰粒子を輝かせながらショートソードで突きを放つ。
それに合わせるようにしてファルケの持つトリニティから弾丸が発射された。
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