第四十四話 現在の学園の事情を添えながらだけど、先生は今日も健気に。
【
「私はもう少し
――と、
「はい」
と、呼吸ピッタリに返事する教師二人……あっ、自分も教師か。
瑞希君は我が娘の
――それぞれの教室へと案内するため、『教師二人は二人の生徒』を連れて行った。
室内に残るは、
「改めて、お帰りなさい。
あなたが来られるのを待ってました」と、敬語になる元気校長。
「……期間限定ですが」
「四か月でしたね、夏季休暇も含めて。……いえいえ構いませんよ、あなたならその期間内で成し遂げることでしょう」
「御冗談を……」
「あなたのことだから、もうお気づきだと思いますが、……少子化が進む影響で、生徒の人数も年々少なくなっています。現在は一クラス二十四名平均として、高等部三年生は四クラス。二年生も四クラス。一年生は三クラス。中等部に至っては、三年生から一年生まで二クラス……このままいけば、何年か後には、この学園が廃校になることもあるかもしれません。……赴任早々、こんな話になってしまって、誠に申し訳ありません」
「……と、するなら、私にできることはないのでしょうか?」
「やっぱり、そうくると思っていました。あなたにはお願いがあります。……これは異例なのですが、二年一組の副担任をお願いしたいと思っていました。正式には七月三日、来週末からになります」
「ちょっと待ってください。二年一組は
「だから異例と言いました。あなただからこそ、是非お願いしたいのです。……瑞希先生はまだ教師になって日が浅く、そこへあなたの娘さんをお願いしています。息子さんは出門先生にお願いできますが、日本の学校が初めてということもあり、彼女の負担が大きくなると思われます。そこであなたの協力が必要になります」
……少し間を置き、
僕も含めて頭の中が整理できたのか、元気校長は再び話し始める。
「あと、このことは、瑞希先生には言わないでほしいのですが、――彼女はこれからの人で、私も大きく期待しております。また、この学園の存続も信じております。そして、あなたのご協力によって、この学園が大きく変わることも信じておりますよ」
と、まあ……
ありふれた言葉だったけど、
「わかりました。やらせて頂きます」
と、熱意の返事をした。
きっと陰ながらの瑞希君の熱意が、僕を動かしたのだろう。
「ありがとう、しっかり頼むよ」
「はい!」
このようにして『俺』から一人称を変えた『僕』は、まずは校長室を後にして、
――この学園、私立
【場面転換も兼ねて、
……ここは教室。今日は水曜日で普通に平日。
何が言いたいわけではないが、授業……あっ、まずはホームルーム、それから国語だったな。どちらもミズッチが担当。でも、まだ来ない。昨日は午後で帰って行った。
ベルは鳴る。
ウェストミンスターの鐘の音が……と、思っていたら、
「遅れてごめんね、今日みんなに紹介したい子がいるの」
と言いながら、アタフタとミズッチが、少しばかりの急ぎ足で黒板の前、つまりは教壇に立った。これで高さが千五百ミリばかりの彼女は、少しばかり背伸びができる。
「……あっ、紹介したい子というよりは……ええっと、転校生だね。……あの、みんな仲良くしてあげてね。き、君、入って、入りなさい」
……って、おいおい、噛みまくりだろ。
余計なお世話かもしれないが、ほらほら、クラスの皆が騒めき出したぞ。
今日、転校生が来るっていう情報を誰も知らないし、昨日も話さないままお昼で帰ってしまうし、俺は以前、たまたま校長室の前を通りかかって、立ち聞きしていたから知っていたものの……まあ、それよりも、そんなに緊張していて大丈夫なのか?
って、もう入って来た。……女の子だ。
それでもって、おまけにもう一回、おいおい、今時三つ編みか? 古風にも程がある。
おまけに眼鏡……黒縁。
背は……ええっと、ミズッチよりも少し低いな、千四百七十くらいか?
「それでは君、自己紹介をお願いします」
と、まあ、噛むよりマシだが……硬すぎだ。転校生の表情が強張って見える。
「……Ah My name is……海里、Ha……早坂海里です! 宜しくお願いします」
との一言の間で、
転校生……海里という子の表情は、笑顔へと変化を遂げた。
そのお陰かな? ミズッチの顔も、柔らかみが現れてきた。
「海里さんは、生まれも育ちもアメリカで、日本の学校に来られたのは今日が初めてだそうです。そこでね、先生からみんなにお願いがあります。海里さんは日本の学校生活のことや習慣など、わからないことが沢山あると思いますので、色々と教えてあげてね」
おおっ、言えたじゃないか、ちゃんと。
でも何だ? 海里という子、
さっきから俺の顔を、じっと見ている。ガン見か? 睨めっこなら負けないぞ、との思いで俺も見る。何だか、何だかな……険しくなるというのか、睨まれているのか、
――すると、「あーっ!」と互いも互いで、指をさし合う。
で、ミズッチは俺と彼女を交互に、キョロキョロしながら、
「なになに、どうしたの? 二人とも」
と言いつつ驚いていたけど、今は、もうそれどころではないのだ。
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