第二十八話 あなたの覚悟を承って、今日も出陣のテーマが流れるのだ。
「
と、思わず復唱。耳を疑った。
確かにこいつは、今さっき、そう名乗った。
いくら俺が小柄で、ボサボサ頭で、中等部と間違われることもしばしば、さらに女の子のような面だからって、ふざけるな! と、心底から込み上げてきた。
だから、一言二言。
「この処理の件、どう関係あるかは知らないが、俺は
こいつの名前なら知っている。
リンちゃんが「
だけれど、
「ふざけてはいない。俺は本気だ! 守りたい者があるんだ。だからここにいる」
と、野太い声で言い返してくる。
守りたい人とは言わず、守りたい者。……予想通りに
「ならば、どこまで本気か見せてもらおうじゃないか」
「ああ、臨むところだ」
気障な割には、
あまり
――
今の俺には周りが見えない。ここが食堂だということを忘れ、
近頃は情報屋ではなくとも、普通に武器を持っている。こいつの場合は、自ら「俺にも関係ある」と言っていたから、同業なのだと思うけど……懐から出したものは、あまりにもシンプル。でも実は、仕込みの武器。長さ二百ミリ幅十ミリの角柱型の棒。それが二つに割れる。上下逆に組み直すと、シャープペンシルというよりかはノック式のボールペンみたいに勢いよく、五十ミリほど針が飛び出す仕組みのようだ。
ならば礼には礼を。
それに通ずる武器には武器を。
俺の武器はサッカーボールだが、もう一つある。今はこっちがメインで、
思考を高めなくても、
武器と武器がぶつかり合えばわかること。
いつものような宙を舞う、軽快な動作を用いて、相手の急所の一つともいえる肩と首筋の境の場所を、研ぎ澄まされた武器の先端で刺す。それだけのことだ。
……だが御用心。
ついに!
「おやめ!」
と、音羽の声が響いた。
俺たちの戦いの動作は停止した。
風景は、イメージから食堂へ戻った。
そして、
「あなた、名前は?」
と、音羽は問う。それは『風の名』とは違う生徒としての奴の氏名だ。
確かに俺も「貢君」という以外は、リンちゃんのクラスメートであり、リンちゃんの彼氏。そして何より奴は、俺から初恋の人を奪った。
『リンちゃんのハートを奪ったんだ』
だけど、この場はハードボイルド。
奴の表情も、音羽の表情も。
奴は答えた。俺の目の前で、
「早坂貢です」と、己の名を。
音羽は
「腕は互角みたいね」
と、音羽は言った。何故わかる?
俺たちはまだ、武器を交えてねえ。止めたのあんただろ?
と、俺が心の中でそう思ってもいても、話は進む。料金……やはり『仕事料』と呼ばせてもらおう、音羽の手によって配布される。三等分だ。一人頭が六万円。
これから起きることに対して、これを少ないと思うのか、多いと思うのかは、我々からは見ることのできない読者様だ。……だけど、俺たちは金額で仕事はしない。仕事料に込められた依頼人の切なる思いを背負ってプロの仕事をする。
「早坂君も、受けてくれるね」
「はい」
「では、お手並み拝見ね。今回は、私も仕掛けに参加しますね」
と、いう具合に、
音羽が仕切り、話が
――ここで『出陣のテーマ』が流れる。
くどいようだが俺たち三人、それぞれの的に向かって歩むのだ。各自で己の武器の手入れを兼ねた調整。俺は鏨の先を研ぎイメトレだけだが、奴のは手が込んでいて大変だと思う。たぶん麻酔針を使う構造だと思うが……まあ、色んな意味で楽しみ。
仕掛ける的は十人。
情報によれば、またも久保サイトの情報屋だ。
『この間もだけど、全部で一体何人いるんだ?』
ともかく仕掛けは明日の午後三時。食堂からスタートだ。
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