蜃気楼の鵺

伏見七尾

序.

 わたくしが最初にぬえを見たのは、五つか六つかの時だったように思います。

 その時にね、わたくしはお客様にご本を読んでもらったのです。ええ、今でも覚えております。夏目先生の夢十夜、その第一夜めでございました。

 たぶん、それを読み終えた時に、ぬえは生まれ出でたのだと思います。

 ぬえとは、なにか。

 言葉にするのはむつかしいものでございます。

 わたくしもずいぶん長く生きました。

 しかし、あれが一体全体なんなのか、未だわかっておりません。

 たしかなのはぬえは恐ろしく、美しいものであること。

 そして物書きというものは皆、ぬえに取り憑かれているということ。

 わたくしがそれを知ったのは、千手法蔵先生の門下に入った頃のことでした。

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